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例外者の異常な日常  作者: 枯木人
第十五章~彼の思うがままに~
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2.パティシ…え?

「ひゃぁっはぁぁぁああっ!現在『幻夜の館』厨房ですぅぅうううっ!」

「え、ちょ…お兄ちゃん?今潜入ちゅ…」

「いえー!!」


 現在時刻明け方の3時30分。日はまだ登っていない。白狼くんの受け入れ態勢を整えていたら思ったより楽しくなりすぎて夜中に忍び込む予定が狂ってしまった。


 しかし、後悔は一切していない。愉しかった。今村はパイ生地とケーキの生地とクッキーの生地を何種類か作りながら図面の最初の間を思い出した。


「いやぁ面白かったぁ~…圧・縊・憂・悦・殴・貫・木・苦・血・幻・枯・絞・さん・斬・刺・自・射・呪・食・酸・世・素・蛇・薙・痛・溺・毒・哭・煮・塗・音・悩・発・飛・斧・壁・捕・摩・味・夢・滅・妄・八・癒・憑・羅・離・流・霊・轢・裂・老・輪…全部引っ掛かってくれるかなぁ…?」

「…そしたら来る前に死んじゃうと思うよ…?」


 クロノがクッキーの生地を生でちょっと食べながら控えめにそう言った。


「…食うなよ。これは大丈夫かも知れんが他の奴は死ぬ恐れがあるぞ?」

「死んだら勝手に時が戻って復活するからだいじょーぶ。」

「すっごい痛い思いすることがあるから止めた方がいいよ?」


 ふりふりの薄ピンク色のエプロンドレスを着たみゅうが同じくふりふりの白いエプロンドレスを着たクロノに注意し、安全なフルーツだけつまみ食いする。


「ん~…よし、こんな所か。」


 ある程度生地が出来上がったところで今村は自世界から「フェアリーズ」と名付けたお菓子作り特化の保護動物たちを召喚していつものようにと指示を出して座った。


「…ねぇお兄ちゃん…クロノあれこの前絵本で見たよ?伝説って…」

「…ん?あぁ…まぁそんなもんだ。」


 クロノは飛び回る妖精の中にホテル内で読んだ絵本の中にいた伝説と言われていた妖精とそっくりな者がいるのを見つけるが、今村はそういう希少種は結構いるので今更特に驚くこともない。


「…ねぇ…アレって精霊神…?」

「違います。お菓子作りが好きなただの精霊です。」

「いや、…でも…」

「本人がそう言ってるんだから。」


 みゅうも初めて見た精霊がいると思ったら、クロノの捜索中に滅びかけた世界でいなくなっていた神話世界の中枢を担う精霊神のような気がして今村に訊こうとしたが、当の精霊神に否定された。


「あ…あれって…え?パパ…え?あれ『血染め黒兎』の幼生じゃ…このままじゃこの近くの世界が…」

「いいえ違います。彼女はただのお菓子大好きファンシーウサギちゃんです。あ!こら!人化解いたら毛が混じるだろうが!大人しくバニーやってろ!」


 幼女バニーはスタンピングで抗議するが体の正面はお菓子から動かない。


 それを見て何とも言えない顔をするみゅう。久し振りに今村と行動したみゅうは常識を手にしていたので今村と行動するための常識に切り替えがうまくできていないようだ。


「…うん。やっぱりクロノはここだったらいても大丈夫なんだ…」


 クロノが色々な危険指定種や伝説級、あるいは神話級の存在を見渡して安堵していると「フェアリーズ」は今村に敬礼した。


「お、終わったか…んじゃみゅう。」

「…あ、あそっか…」


 みゅうは呼ばれたことに少し疑問を持ったが、そう言えば大量にお菓子を創る時の今村の方法と言えば…と思い出して「フェアリーズ」とクロノを含んだ強固な結界を張った。


「え?え?何するの?」

「この部屋を火の海にする。んじゃ行きますか!『大炎団』『黑之焔クロノホムラ』『大邪炎』『大神炎』『超仙炎』こっちは…冷やす。か『真禍破怒魔マカハドマ』『ヴァルニル・エ・モールツェ』…」


 クロノは目の前の光景が地獄にしか見えなかった。しかし、お菓子はきちんと出来上がるし機具は特に問題ない。部屋にも影響は出てなさそうだ。


 だが、冷気と熱気がぶつかる所では毎回爆発が起きている。炎と氷が混ざる所もあるのだが、同じ属性がぶつかると爆発するようだ。


「うっはっは…ここは混沌料理場…」


 爆発する所に置いたのは「フェアリー」の名にふさわしく悪戯心を入れたお菓子ばかりなので何が起きるか分からない。


 時折、邪霊が出て来てどこかに行こうとして術で抹消されたり、小人が出て来て右往左往したりと色々起きている。


 カスタードシューと思っていたものから突如としてボディビルダーの下半身のようなものが生えて全力疾走してその直後に『超仙炎』にぶつかって綺麗な羽の生えた女形の妖精になったものが「フェアリーズ」の仲間入りしていたり…色々起きている。


「食殺の料理はどれにしよっかな~」


 エクレアと思わしきムカデのように足が生えたそれを消し飛ばしながら今村は混沌料理場の食材を見回る。


 途中途中で不思議生命体が生まれているのは種別で処理していく。共食いが始まるからだ。


「…この辺は面白いな。」


 今村は「言霊」を未熟ながら使う菓子類の一角に行った。


「おや、そこのジェントルメン。一口いかがかな?ぐ…ぐぅっ!はぁ…はぁ…絶品ですよ?」


 見た目完全なブッシュ・ド・ノエルが渋い声で自発的に切り分けられ、更に転がった。それは「血塗り黒兎」が阿鼻叫喚の環境に出て来て喰らう。


「…シッパイ…オンナノコの声にしたかった…」

「…どっちにしろ喋らせる気だったんか…まぁ別にいいけど。」


 「血塗り黒兎」が出て来たことを受けてこの環境に対応できる「フェアリーズ」の面々が出て来てお茶会が始まった。


 今村は必要分だけ確保して術を消した。時々奇声を上げて暴れまわるお菓子もいるが、討伐され後で「ファフリーズ」(「フェアリーズ」の男性版)に食べさせるのだろう。「フェアリーズ」が回収している。


「うっわ。沁みるわ~おっちゃんなぁ。チーズケーキに必ずレモン汁使う風潮いやなんねん。アレ目に染みるっ…あっ。まだ話…」

「…クロ…私お腹減らなくなりそう…」


 クロノが恐ろしい現場を見たと食欲不振を訴える。しかし、彼女に今村が自身の魔力の欠片で過去に作った飴を与えると前言をすぐに撤回した。


 そうこうしている内にスウィーツパーティーは終了し、「フェアリーズ」は今村の管理世界に戻って行った。


「さて、後片付け後片付け。…面倒だな…月美。」

「はい。片付けます。…10分ほどお待ちください。」


 空間を捻じ曲げ拡張した厨房を月美が片付けて行く。屠殺が行われたのかと思えるその会場の掃除を終えることには日が昇っていた。


「よっしゃ。帰るか~…?日馬の家ってどこだっけ?」

「…銅でもいいから覚えてない…あ、本人の氣を辿ったら…」

「ん~…あいつは多分『幻夜の館」で調べものしてるよ。昨日何か言ってたからちょいとアドバイスしてやったら昨日の夜から出てったし。」

「クロノ覚えてるよ!昨日通った道でいいんだよね?」


 月美が呪具に戻った後帰ることを考えているとこんな話になったのでクロノに合わせて日馬の家に帰ることにした。


 そして一行は地上へと戻り、幾人かの知り合いとすれ違いながら帰って行った。




 ここまでありがとうございます。

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全盛期、相川だった頃を書く作品です
例外者の難行
例外者シリーズです
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