13.色々な本
「上がったよー!」
「ん。じゃあ行くか…」
今村は女性陣が風呂に入っている空いた時間で自己鍛錬をしながら風呂の順番を待っていたが、風呂が空いたとなるとローブのまま速攻で入り、そしてローブごと体を洗うと水気を飛ばして出て来た。
「はやーい!」
「…匂いを嗅ぐな…全く…ん…何かいないな…別にいいけど…」
きちんと洗ったのかどうか気になったクロノが今村によじ登り髪などの匂いを嗅ぐのに若干顔を顰めながら今村はベッドに座った。
ついでにサラとヴァルゴがこの部屋にいないことに気付いたがそれはまぁいいことにしてこの後の事について少し思案する。
「んじゃ…みゅうが回復するまでどうしようもないから…本でも読んで待っておくか…『個人用虚構図書館』」
ベッドに腰掛けて今村は本を読むことにした。前回読み終えた日常の小説シリーズ(ファンタジー系・バトル)の26巻からのスタートで本を開く前にふと思う。
(…しがらみから解放されてるし…まぁいい気分転換にはなるかな…)
「お兄ちゃ~ん…遊ぼうよ~」
「…あ、そう言えば。」
クロノが構ってほしそうに今村の背中でべたべたして擦り寄って来るので今村は「個人図書館」から子ども向けの教訓本を今村の横に大量に出した。
「クロノはこれ読んだ方がいい。えーと…『言霊』は使えるか?」
「コトダマ?」
「…よし、教えるか。」
今村は本を宙に浮かせてそのページを開いたままにするとクロノに向き合って小さく壊れそうな手を握った。
「えへへ…暖かいな………ん?何かむずむずする…」
「『神技』の中でも入門編の初歩の技だ。覚えといて損はない。」
はにかむクロノに今村は手だけを見て能力の開発を終える。
「…まぁこんなもんか。」
「…何か急にお腹空いたよ~」
今村は無言でテーブルセットを行い紅茶とチョコレートとバニラ、マーブルにキャラメル、コーヒー、個人開発味などのクッキーを出した。
「…一応1枚で人間成人女性の1日の必要カロリー分はあるが…多分足りないだろうからこれだけ用意しておく。…まぁ魔力とか神氣とかの回復方法は今一気にやると疲れるだろうし、後で教えるよ。」
クロノは目をキラキラさせながらティーセットの席に着いた。それとほぼ時を同じくして別室からサラとヴァルゴが出て来た。
「あ~ズルいですよ~私も食べます~!」
そう言ってヴァルゴがローションの容器を床に捨て置いてテーブルセットの席に着くとサラも荒縄を放り投げて移動した。
(…突っ込んだら負けか…)
おそらく突っ込み待ちだと判断した今村は小説に移った。魔王を倒した主人公はその黒幕の大魔王を倒し、その真なる支配者である真魔王戦を終え、絶対なる支配者絶魔王の存在を知って新たな大陸へと向かうが主人公が各地で無駄に口説いて集めたハーレムパーティの面々が婚期を気にして町に定住しようとする1冊だ。
(…大変だねぇあいつも…えーと?転移者の普通の人間だったよなあいつ…転移して来たのが大学受験失敗して失意のどん底だった18で…魔王戦まで4年かけて…大魔王戦は地底都市で迷って3年…真魔王は強くて3年…今28か。今度は違う星とか言ってるからなぁ…)
ヤンデレ系ロリヒロインも立派な大人になり、15から結婚適齢期の世界では行き遅れに差し掛かっている。年上のお姉さん系ヒロインは30超えて焦っている。正妻気取りだったお姫様ヒロインは24、適齢期ギリギリにして国へ帰り別の貴族と結婚した。
それでも主人公は頑張り女性魔王の真魔王をハーレムに加えて進んでいる。その真魔王の解放のために絶魔王と闘うのだ。
(…教えてやるべきか…絶魔王の後には破壊魔王が控えていてその後に狂魔王、次が魔帝、魔帝貴、魔大帝、魔神、魔神貴、魔神王、魔神帝までいるって…)
その後が魔神大帝である自分だ。その上はない。勝手に据えられている最上位だが個人関与についてはあんまり記憶にない。が、魔神帝から面白そうな人が来たという手紙がこの本になっている。
(…魔物創らないとその世界の魔素の循環が滞るから巨大な魔素を消費するための魔王っつーシステムを創って敵対させたのに…真魔王が自分の所まで来てほしいからって余計なことして…)
その世界は魔物の被害が酷いので魔王を倒すがその製造元が仕事に嫌気がさして今回の創っている奴がいますよという暴露に出た。
しかも、少なくとも私より強くないと…と自分と会ってからは鍛え続けて3年。そして大丈夫だと判断してからのネタばれだ。
その一部始終を見てそのパパである絶魔王以外絶賛悪乗り中だ。もし絶魔王が倒されたらちゃんと戦う気でいる。絶魔王は絶魔王で娘を渡す気はないので本気だ。
そしてその魔王、魔帝、魔神たちはどこまで行けるか賭け事をしている。だからみんな超本気だ。
(ガーンバっ!)
そんなことを考えている内にそこにあったクッキー類が全部なくなってクロノが今村にねだるような目を向けていた。
「…『魔合成物質』…あんま喰い過ぎんなよ?これ神でも太らせる上にコントロール出来ないからな…」
新たに大量に菓子類が現れるが今村のその一言でサラの手が止まり、ヴァルゴは思案顔になって手を止めた。クロノの手は止まることがない。
「…まぁいいけどよ。…ってかそれよう食えるなぁ…3枚くらいで胸焼けするように作ってんのに…」
「美味しいよ!クロノ今までこんなの食べたことない!」
「…そりゃよかったな。」
頬にクッキーの破片を付けたままクロノは食べ続け、紅茶で流し込む。個人的に今村は「白帝白夜」という市場に出回らない絶滅した茶葉を自空間で栽培して出しているので紅茶の扱いについて嘆きたい気分になった。
「ところで妾たちにも何か…」
「…この図書館をお前らの前で出したことはなかっただろ?登録してアンケートに記入すれば好みの本が出ると思う。…まぁまずは好きそうな奴からだな…」
そう言って今村はサラとヴァルゴの手を洗浄すると本を1冊ずつ手渡した。
「…『恋したい変死体』…?」
「コメディチックだがまぁ何気に良い内容だ。ネタバレは嫌いだから何も言わんがあらすじなら教えてもいいぞ?どうする?」
「ふむ。頼もうかの。」
サラは少し考えた後、今村にそう言った。今村は簡潔にその内容を離す。
「まぁ要するに恋愛事を知らずに死んだ亡霊と世間知らずのずれた人間のラブコメだ。序盤は死体の設定を生かしたコメディで構成されてる。んで、そのコメディの中に色んな仕掛けが入っていて後半のシリアスムードの中でその仕掛けが…って感じ。」
「…読んでみるとするかの。」
「読んでみた感想のチェックも入れると選択肢が絞られるぞ。」
サラは今村が腰かけているベッドから少し離れて本を開いた。今度はヴァルゴの方に本の内容の説明をする。
「仙人道人って奴。実際にあった話で、その一部を虚実織り交ぜで書いたものだな。女仙人の音色とそれに付いて行く随風。…まぁこっちは本人が書いたやつだから文才自体はそんなにないが…まぁ読んでみると良いと思う。」
「はい~。」
「で、クロノ。」
今村はヴァルゴとの話を終えるとクロノの方を見た。未だにお菓子を食べている。
「ひゃい?」
「…リスかテメェは…お菓子はそこまで。食事が入らなくなるし、いい加減本を読め。」
「…はーい。」
クロノの手と顔を洗うとみんな揃って読書会となった。
ここまでありがとうございました。




