28.看病
「あーこれ敵じゃねぇよ。一応。」
祓の首に後ろから日本刀を添えた人物―――チャーンドにそう言う今村。祓は向けられた殺気で一切動かなかった。
チャーンドは今村の言葉を受けてふわりと飛ぶと今村の耳元に顔を近づけて今村にしか聞こえないように言った。
「彼女か……?」
「あぁ? 戦る気かコラ?」
風邪気味ながらそう言って呪刀を出す今村。そんなな今村にチャーンドは苦笑して続ける。
「無理するな……だがどちらにせよ我は邪魔だな? 去らばだ。」
チャーンドは今村にだけ聞こえるようにそう言うと老若男女問わずに魅了する笑顔を今村に向けて去った。それを見送って今村は祓を引き剥がす。そんな今村に祓は不安げに尋ねる。
「……今の……彼女さんですか?」
「……お前らはほんっとアホか? あいつは古い友人のようなもんだ。俺にそんな趣味はない。」
「……どんな趣味で……」
祓が更に追及しようとすると急に今村の体が傾いて布団に横になった。
「ちっ……誰かが結界破壊したり、部屋の壁破壊したりしやがったせいで悪化したなこりゃ。あ~……あったまいってぇ。悪いけど帰ってくれない? もうキツイんだよね。」
「! ご……ごめんなさい。あの……お詫びといっては何ですが看病を精一杯頑張らせていただきます!」
「……とりあえずうるさい。」
祓はすぐに謝罪するが今村は冷たい。
「あー……もう壁直したら帰ってくれない? 謝罪の気持ちは通じたから。」
「……いえ、あの……頑張りますから看病させてください……」
「必要ない。寝てりゃ治る。大体看病って何するんだ? 看病されたことがないからわからん。」
何気に悲しい今村の言葉に事前に調べていた祓は今村の顔を見ながら答える。
「えっと……添い寝したり……病人食食べさせてあげたり……体拭いたりです。」
「へぇ。……いらんな。あ、でもあいつが作ったのどうなったんだ……?」
一刀両断して切って捨てた今村はふとチャーンドが台所に行ってたことを思い出す。その呟きに祓は元気よく立ち上がった。
「料理ですね?」
そう言うと祓は急に制服を脱ぎ始めた。今村は一瞬訳が分からな過ぎて何も言えなかったが祓が薄水色の下着にまで手をかけ始めたところで正気に返る。
「脱ぐの早っ! ……じゃなくて何やってるんだ!?」
今村の言葉に祓の手が止まる。
「何って……先生に元気になってもらおうと裸エプロンで料理を……」
「頭沸いてんのか? お前風状態の俺より頭の熱が高いんじゃね? 何をどうしたらそんな考えに至った?」
聞いてもよくわからなかった。意味が分かるように今村が更に訊いてみると祓は少し考えてから訊き返してきた。
「……テレパスで見せられたのですが……違いました?」
「……はぁ。それはもう盛大に、果てしなく違う。全く違う。完全なるまでに違う。服は着てろ!」
起こるに怒れない理由だったので今村は呆れの声しか出せない。そうしていると今村の頭痛の強襲が始まった。
「ちっ……あー、だりぃし頭いてぇしやってらんねぇ……もういい。自分でやるから帰れ……」
そんな病状が悪化した今村が言った言葉は独力での解決を決めた言葉だった。そう言った態度を取る今村を見て祓は悲しくなる。
「……お願いですから……こんな時ぐらい私に助けさせてください……」
「あ? 無理だろ……? 『飛髪操衣』」
フラフラと立ち上がる今村は手始めに部屋の修復をしようとする。が、その前に祓が直した。
「お願いですから……じっとしていてください。お願いです。安静にして寝ててください。」
「……? 何だ? 邪魔……ってあぁ。目までイカレたか。はっは。何にも見えないな。こりゃさすがに無理かっ……」
祓の頼みも無視して別の作業を開始しようとして焦点が合わなくなり始めた今村を祓は物理的に無理矢理寝かせて台所に向かった。
(……失敗した。あんな人と先生が同じわけないのに……先生を無駄に怒らせて悪化させてしまった……最低だ私……せめてここからは……)
祓は決意を新たにチャーンドが持って来た食材を料理し始めた。
「……ちっまだ視力は戻ってない。これじゃ時間が分からんな……」
起きてすぐ今村は舌打ちした。それと同時に祓が部屋に入ってくる。
「……起きられましたか……もう少し寝てもらってもいいですよ?」
「今何時? あぁ真面目にな。」
「……12時半ですね。」
「……そうか。じゃあ飯にするかな……」
今村は母親が作った昼食を食べに下へ向かおうとするが祓はその前に高速で下から祓が作った病人食を持って来た。
「……匂い的に色んな料理があると思うんだが……?」
「はい。十二種類ほど作りました。」
匂いを嗅いですぐ、今村の視力が回復した。そして目の前の光景に閉口する。
「……これ病人食だよな? あれ? 俺の普段の食事よか豪華な気が……というよりこれ薬……?」
「元気になってくださいね……では食べさせますので隣を失礼します……」
「そこまでやべぇ病気じゃねぇよ。いただきます。」
祓の申し出を却下して今村は食事を開始する。祓は少し不満気になっていたが今村気付いていないし、当の本人も何故不満に思ったのかわからなかったのでそのまま食事は進んだ。
「……うん。何か凄かったな。ご馳走様。祓ありがと。」
今村は食事を終えると祓に礼を言って「呪式照符」を自分に向けた。
「よし、飯で呪力が安定したから使えると思った。」
「……どうしてたんですか?」
ほんのわずかに頬の赤い祓が今村に尋ねる。すると今村は笑って答えた。
「人間の体が呪いに耐えられなかっただけ。まぁ一過性だから寝てりゃ本当にすぐ治る。」
「……治るって……これは……」
祓は「呪式照符」を見て顔を青くした。それに気付いた今村はしれっと言う。
「あ、読めるんだ。」
「人間を辞めるって……」
「別に組成が変わるだけで大して変わんねぇんだけどね。」
あまりの内容に言葉を失う祓に対してまったくもって平気そうな今村。祓は真剣に訊き直す。
「大丈夫なんですよね?」
「あぁ。」
今村は頷く。祓は続けて訊く。
「いなくなったりしませんよね?」
「うん。」
またも今村は頷く。そして祓もまた訊く。
「……嘘じゃないですよね?」
「しつこい。悪いが早いとこ寝て回復したいんだけど……」
とうとう今村が本音を言うと祓は今村をじっと見て何かを感じ取ったのか納得して帰って行った。
ここまでありがとうございました!
因みにとんでもなくどうでもいいことですが、祓さんが見たテレパスは最近のもので、4月に学校に来て最初に保護者を探した1年1組にいた風邪気味だった男子生徒のものです。祓さんは調べていてついでに思い出しました。




