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例外者の異常な日常  作者: 枯木人
第十二章~生徒と学校~
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6.レジェクエの仕事

「…さて、今日はアレだったよな。会社のトップ集団が色々来る日だったよな。」

「はい。私が頑張りますから今村さんは奥で舐められないように座っていてください。」


(…俺居なくてもよくね?)


 今日は土曜日だ。一応学校は休みで「幻夜の館」の学校機能は昼時点を以て終了している。

 その午後、今村はミーシャと一緒に企業のある程度の地位にいる人物たちが来るのを待っているのだ。


「今日来る者の中で問題なのはレプグナンテ社のトップとその娘、それにアッロガンテのトップですね。」

「結構前からある中央のウトピア食料会社と最近成り上がって来た北のフェデラシオン軍事会社だろ。一応知ってる。」

「流石です。」


 フェデラシオンの方は経営のトップとその出資者の貴族が出るという事で祓に部屋から出ないように言った。

 その際に両者にミーシャは今日来る合計20社の資料を渡したのだ。因みにそれを渡してここまで来るのに10分かかっていない。


「お前が任せろっつってたから任せといたんだが…俺要るかこれ?」

「今村さんがオーナーですから。」


 因みに今の状態は今村の膝の上にミーシャがいる。…黒猫モードで。何か最近できるようになったらしい。

 とりあえずモフモフしているので今村的にも撫でるのは嫌ではない。むしろ歓迎だ。ミーシャは喉をごろごろ鳴らして気持ち良さそうにしている。


「そろそろ時間だな。」

「あ、はい。」


 変身を解くと今村の膝の上に座る形になる。目を細めて気持ち良さそうにしていた顔から今村の膝から降りた時にはすでに仕事モードになっていた。


「…見せつけられる身にもなって下さいよ…ミーシャさん…ご主人様。後で頭撫でてください…」


 護衛と監視係の芽衣が屋根に張り付いて気配を消した状態で今村に催促し、返事を待たずして壁を透過してそのまま外の客のチェックをしに出て行く。


「じゃあ交渉開始しますね。一応前置きしておきますけど、音楽会社が来ます。ロケナンドって人で幼児プレイが趣味の変態爺です。」

「…それ今関係ない…資料見てても思ったけど…会社の金つぎ込んでるならまだしも自分の金でやってんだからいいじゃん。」


 今から鈴音が手掛けている音楽業界とコンサートなどの企画で取引をしている会社のトップが来るようだ。


 芽衣が戻って来て今から来る客に問題ないことを告げるとドアが開き、車いすに乗せられた肥満の男が部屋の中に入って来た。


「こんにちは。初めまして『レジェンドクエスターズ』取締補佐のミーシャ・ロングステンです。」

「これは美しいお嬢さんだ。初めましてクルシュナイ社の代表をしておるロケナンドだ。」


 この後当たり障りない会話が少々続いてから本題に入った。


 本題は契約満期を迎えたレジェンドクエスターズとクルシュナイ社の契約存続か否かというもので、クルシュナイ社の思惑としてはこれまで通りの関係を維持したい。

 レジェンドクエスターズとしてはすでに独立できる力を持ってはいるものの、業界大手のクルシュナイ社との契約の存続と同じくらいの費用がかかるため、どちらでもいいと言った状態だ。


 もっとも、独立した場合レジェンドクエスターズはまだ発展する余地がもの凄く残っているのですぐにクルシュナイ社を追い抜き、傘下に置くことくらいは出来るであろうが…


「それでは今後の契約の話に移りたいのですが…」

「取り分を従来の65%にしていただけませんか?」


 今村はミーシャが話している後ろで取引の内容を見ていく。


(アンカー効果狙うか。うん。正しい。)


 アンカー効果は要するに吹っかけて後で適正な値に下げることでこちらはこれだけ譲歩しましたよ。と感じさせることだ。


「それは…せめて85%に…」


 流石に相手もそれには応じず上げて来る。実際のところ値切った時点でこちらの利益は前年を越すことが確定だ。


 じゃあこれはもう終わりだな…今村はそう思ったが、ミーシャは首を縦に振らなかった。


「65%です。」

「いやいや…は…8割で…」

「65%です。」


 鬼のようだった。65%は相手の会社にとってこれから盛り上がることを予想範囲内に入れておいても今までより大分損をするのが分かっている。


 しかし、相手にとって赤字になる値段ではない。ただ、うま味が薄すぎるのだ。


「なんなら上層部の横領と政治献金をバラしましょうか?2万G。細かいのもありますけど…」

「なっ…」


 ここでミーシャはカードを切って来た。今村は軽く頭を抱える。その後はミーシャのなすがままだ。最終的に何故か土下座で懇願されて世間に広めないことを条件に前年比70%(今村が助け舟を出した)で交渉が終わった。


 交渉後、ミーシャは今までの顔から一気に緩めた顔になると今村の方に飛び込んで褒めて!とばかりに頭を少し下げた。


「…まぁ、普通の交渉じゃ正しいんだけどよ…」


(そこまでやると特異点って目を付けられるんだよなぁ…逃げる準備もしておくかな…)


 今村はミーシャの頭を撫でながらぼんやりそんなことを考えた。


 その後もミーシャの交渉は鬼のように続けられ、今村は撫でるセットを17回終える。


「…後は問題だったな。」

「はい。レプグナンテ社のトップとその娘、それにアッロガンテのトップです。先にレプグナンテ社からですけど…こちらはあまり情報が入ってないので…」


 そう言っていると芽衣がチェックを終えて入ってきた。


「…?どした?」

「いえ…少し…」


 芽衣の顔色が少し悪いのに気が付いた今村だが、相手が入って来るのでこれ以上声をかけるのは躊躇われた。


 中に入って来たのはだるまのような体形をした太った男と顔に布を巻いた女性だ。その女性を見てミーシャが顔を僅かに顰める。

 それを見て男の顔が醜悪に笑った。


「失礼。うちの娘の顔の布が問題ですな?」

「…いえ、何らかの事情があるのでしょう。」

「問題はないんですが、少々お見苦しいのでね。おい。」


 男の言葉で女性は僅かに体を震わせて顔のヴェールを取りにかかった。その下から現れたのは思わず絶句するほど醜い顔。

 目は濁っており、鼠色で汚く彩られており、皮膚は紫色で半分壊死しているかのよう。

 また、発疹が出来ており、何故かその発疹は波に揺られているイソギンチャクのように動いている。

 唇は失われて歯が剥き出し。


 そんな顔を見て親であるはずの男ですら顔を顰めるほどだ。そんな中今村だけ平然としている。


「おい、塩持って来い。」

「ちょ…流石に…」


 猫耳の2人には聞こえるレベルで今村は軽くそう言い放った。芽衣に軽くたしなめられるが、相手には聞こえない。


「これを治したくて私の方も色々やっておりましてね…不快でしょうから顔は隠させてもらっても?」

「娘さんを治したいんだな?」

「えぇ。その為にはお金が必要なんですよ。…ですから今回の取引も上手く行けばと思ってます。」


 男はそう言って到底女性のことを気にしているとは思えない笑顔でそう言った。


「じゃ、嬢ちゃんおいで。」

「え…」


 突然の今村の言葉に女性は驚き、布を巻く手を止める。


「わ、私ですか…?」

「うん。おいで。」


 今村が呼ぶと女性はしずしずと今村のすぐ近くまで来た。今村は誰も塩を持って来てくれないので仕方なく自前の塩を出す。


「…まぁそこまで来なくてよかったけど。」

「しっ失礼しました…」


 女性が慌てて引こうとするが、今村は軽く塩をまぶした手で女性の手を掴んだ。


「別に怒ってねぇよ。動くな。…吸うか…送るか…まぁ送っとくか。『配素氣流』」


 今村がそう言うと、女性の顔で蠢いていた発疹が止まった。そして消えて行く。


「ん~結構疲れるね。中々の呪いだ。痛くないようにはしてるけど痛かったら言ってくれるかい?」

「え…な…何を…」

「あ、ミーシャは話進めといて。遠慮は特に要らんよ。」


 話し合いが進められ、5分が経過。女性の顔は生気を取り戻した。そして今村は芽衣に鏡を持ってこさせる。


「…ふむ。こんなとこかね。」

「こ…これが私…?」


 何だか感激している女性を完全無視して今村は交渉の成り行きを見守る。


「ありがとうございます…このご恩は一生をかけて…」

「あー気にしなくていいよー。人前に出るのも嫌で死ぬことだって考えただろうに親に利用されてでも俺の所まで来れたっていう過去の自分に感謝しなー。」


 その後滂沱の涙を流す女性をやはり無視して交渉締結を見守った。因みにミーシャは食糧の輸入に関して相手の要求をのまずにこちらの必要な分だけ交渉を締結した。




 ここまでありがとうございます。

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全盛期、相川だった頃を書く作品です
例外者の難行
例外者シリーズです
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