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例外者の異常な日常  作者: 枯木人
第十二章~生徒と学校~
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5.自殺の予行

「…待たせたか?」

「えぇ、かなり。」


 今村はオルディニの下に祓を連れて現れた。祓の周りには書類が飛び交っている。


「…そちらがポルタ・オルディニさんですか…」

「あぁ、お前と同じテレパス障害で苦しんでる。…まぁお前の時と時代が違うから治療法も変わってるけどな。」

「え、どうするんですか?」

「制御法から教える。お前は結果的に制御できるようになったけど正しいやり方でオルディニには頑張ってもらわないとな。」


 すると最初の言葉以降黙っていたオルディニが口を開いた。


「…はぁ…正直に言いますね。もういいです。」

「人生が?」


 今村は笑っていながらも冷徹な目をしてオルディニの言葉に具体性を加える。オルディニは少々気圧されながらも頷いた。


「…っえぇ。これ以上生きていても無駄だもの。」

「そうか。ま、お前の人生だから口出しはしないがな。一先ず言っておきたいが…自殺は地獄行きだから気を付けろよ。」


 今村の言葉を聞いてオルディニはピクリと反応した。


「…ん?地獄行きも知らんかったんか。じゃあまぁ予行ってことで見に行ってみるか。」

「え?あ…」


 今村はオルディニの手を取って「ワープホール」で地獄へと飛んだ。
















「…よし、ここの主に遭ったら面倒臭いから気配消すぞ……?あ、手ね。」


 今村はオルディニにじっと見られていた自分の手とオルディニの手が重なっていることに気付いて手を離した。


「…ねぇ。何で………やっぱりいいわ。」

「ん?言いたいことは言っとかないと答えんぞ?親がいるからオルディニはウチの国の宗教なら賽の河原だな。」


 今村はそう言って鬼に畏まって挨拶を受けながら賽の河原へと移動した。そこでは泣きながら石を積んでは壊されるという状態が繰り広げられている。


「おぉ今村さん。お疲れ様です。」

「ん。ご苦労さん。こいつに賽の河原の説明よろ。」


 今村に敬礼してあいさつした後は祓に見惚れている鬼に今村はオルディニへの説明を要求しておく。


「あ、はい。こちら死なれるんですか?」

「まぁ自殺志願者。一応最初はこっちだったよな?」


 鬼は少し考えた後頷いた。


「まぁ、今村さんがそう言うならそうなると思いますよ。で、説明ですね。ここは賽の河原で親より先に死んだ親不孝という考えのもとに作られている地獄で、石を何度も積むことで修行とし、ここで罪の軽減を図るといったものですね。手近にいるこの子は今50年目くらいです。」

「親なんて…私を気味悪がって捨てたのに…」


 オルディニが吐き捨てるようにそう言ったが、鬼は首を振った。


「そう言う場合で能力者…というより今村さんの所にいた子は基本的にお世話になった人より先って言う感じですかね。まぁ特に罪がなければ自分で行き先選べますけど。」

「あんまし口滑らせんなよー」

「あ、はい。…もし業務で遭うことになったら容赦はしませんからね。それでは。」


 そう言って鬼は少し高めになって来た50年目の子供の石の塔を金棒の一振りで破壊して恫喝した。

 今村はそれを尻目にオルディニに次の場所に行くことを伝えた。


「次、自殺者の森な。…えーと第7圏地獄暴虐地獄か…まぁ途中は省くか。寧ろそっちの方がメインだが…うん。燃やされ続けたり色んな意味で襲われたり食い千切られたりするの嫌だろ?」

「…好きな人はいないと思いますけど…」

「いるけどな。」


 今村の言葉に一々驚くのは止めてオルディニは大人しく今村の後を付いて行った。


「あ、逸れると軽くヤバいから手。」

「はい。」


 今村が後ろを振り返ってそう言うと祓がすぐに手を出し握った。今村はそんな祓をジト目で見るが祓はきょとんとした顔で見返し、にっこり笑った。


「…何だこいつ…まぁいいけど。仕方ないからオルディニはこっち。」

「え、うわ…」


 今村はオルディニをローブで抱え上げた。


「んじゃ行こっか。黙ってろよ?後祓は飛んでくれ。『翔靴』」

「はい。」


 今村はそれだけ言うと力を抑えめにして別教のエリアへと移動して行った。


「こっから先別の地獄の門な。」

「『この門をくぐる者は一切の希望を捨てよ』「あぁ、帰れるから別に希望持ってていいよ。」…何か…」


 イメージというものが…と思わないでもないオルディニだったが、今村のローブに包まれているので何にもできない。


「…っと、一圏は別に大したことないからいいや。次。」


 ここは結構なスピードで駆けて行く。そして牛頭の幻獣ミノタウロスが罪人を捌いている横を素通りした。

 因みに通る際にミノタウロスが今村に若干一礼をしたのは亡者たちの目にしか止まっていない。


「二圏は邪淫地獄。まぁ周りを見れば大体どんなんか分かるだろ?俺が強制スキップしてるけど実際はもっと時間かかるからな。で、次。大食地獄…ケルちゃんがいないけど…まぁいっか。」


 そう言って次に行こうとしたところに三首の犬。いわゆる地獄の番犬ケルベロスが亡者を食みながら尻尾を振って今村の所に飛んできた。


「おーよしよし。魔牛のジャーキーだ。ほれ取って来い!」

「ぎゃうぅっ!」


 亡者を蹴散らしながらケルベロスは魔牛の肉を追っていく。


「困るのう…勝手に餌を与えられると。」


 そんな時だった。どこからともなく声が聞こえてくると今村の目の前に痴女的なファッションをした美女が現れた。


「…げ。じゃあもうバレたんならいいや。飛ぶぞ。『ワープホール』」

「ちょ!仁!?その扱いはあんまりじゃろ!」

「うぷっ…」


 今村は地獄の女帝サラ・ドラゴニカル・ヘヨルミの巨大な胸に顔を埋めた状態で自殺者の森に飛んだ。




「…退け。」

「…何か楽しいのう…何と言うか…」

「ぶち殺すぞ。」


 今村は移動先で後ろに下がった。しかし、離れずにその分サラが前に出て来るのだ。今村は若干キレ気味だ。


「…え、今村先生…この状況で怒るんですか…?男…ですよね…?」

「…先生はそういう人です。嫌いではないんでしょうけど…」


 最近今村の好みを把握し始めている祓が今村の手をずっと離さないままオルディニの質問に答える。因みにその手も放していないのは祓だけだ。


「…『呪…離れたんならいい。さて、ここは自殺者の森だ。この木一本一本が自殺した奴のなれの果てだ。意識はある。因みにこっちは賽の河原と違って救済措置とかなしで地獄の制度が変わらない限りはずっと木だな。」


 今村の説明にオルディニが考え込む。そんな状態で今村は「月読」を使って亡者の声を聞かせてみた。が、流れて来るのは無音。完全に心を壊されているのだ。


「む。これはいかんの。」

「だな。地獄の役割として駄目だ。」


 そして今村はその木に蹴りを入れて内部に衝撃を走らせた。


 ―――ぎぃいゃぁあぁぁぁぁあぁああぁっ!―――


「なっ…何で態々苦しめ…」

「ん?気分。ちょいとムカついたし。簡単に説明するとこいつが責任逃れで死んだ所為でこいつの家族は金がなくなって借金のかたに売られてそれで妻と娘は薬漬け。んでもって姦淫に耽っていたと見做されて地獄行きだぜ?こいつだけ呑気におねんねってムカつかね?自殺には自殺のルールと格式があるのに。」


 祓の手が強く握りしめられる。


「…死なせませんから。」

「うん。他人に迷惑かけて死ぬなんて自殺検定2段の俺の辞書にはないね。少なくとも身辺整理は済ませて死ぬさ。」


 今村の笑顔の言葉に全員が嫌な顔をする。そんな中でオルディニが質問した。


「…何がしたかったんですか?」

「ん?自分が自殺したらっていう情報を与えた。それをどう取るのかはお前次第。因みに自殺を止めようなんては思ってないよ。終わりを求めている化物が終わりを求める者を引き留めるなんて滑稽だろ?」


 今村はそう言って笑った。


「これはただの課外授業さ。俺は今はお前の教師だ。教師が与えるのは知識だけ。道徳も勉強も情報も全ては知識。相談にも乗っても考えるだけの材料(知識)を与えるのが関の山だ。それをどう使うのかは生徒次第。今をもって今日の授業は終わりだ。さぁ帰ろう。」

「…わけがわからないんですけど…」

「じゃ、訊きに来い。質問は受け付けると言っておいたはずだ。」


 今村はどことなく楽しそうにそう言ってこの場から消えた。そして一人残ったサラは少し考える。


「…ここに…いや、死ぬのを前提にするというのもアレじゃしの…縁起でもないからあっちもやめておくかのう…天帝の奴にも止めるように言っておくかの。ああいう考えを持っているのに転移陣を見られればどう返されるか…」


 サラはそう言って執務室へと帰って行った。




 ここまでありがとうございます。

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全盛期、相川だった頃を書く作品です
例外者の難行
例外者シリーズです
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