4.マジックヒル
放課後、今村は気になっていた生徒…宗聖司との接触を図る。
「お前、能力の事について悩んだりしてないか?」
「え…!あの!僕なんかの話を聞いてくれるのですか!?」
「ちょっと特別訓練室まで付いて来い。」
今村は彼を連れて職員や一般レベルを逸脱している生徒たちが訓練する部屋に移動して行った。
「…で、実際に能力を見せてもらいたいんだがいいか?」
別室に移動した後、今村は真顔でそう言った。しかし、その心中は彼には申し訳ないが笑いを堪えるのでいっぱいとなっている。
「…あの、僕の能力は…」
「あ、そうだったな。相手がいないと発動できないんだったなぁ…」
勿論それは知っている。しかし、あえて知らないことにして、偶然この部屋にいた石田を見て頼んだ。
「石田。ちょっと…」
「何ですか?」
「こいつサモナーでカウンター型なんだが…まぁ俺が攻撃してもいいけど木端微塵…」
「…代わりに私がやります。」
石田は若干ため息をつきながら今村の前に出て魔力を練り…その時だった。
聖司の体から白濁とした半液状のものが石田…正確には魔力を目掛けて襲い掛かって来た!
「え?」
「うえ…ふふ…」
呆然とする石田は一瞬頭の中がフリーズして固まってしまい、それをもろにかぶる。今村は当然避けた。
そして目の前の惨状を見て笑いを堪え…切れずに少しもらしてキリっとした顔にする。
「な…何なんですか…これ…」
石田は白濁としたそれを滴らせて呆然とし、その後若干目を潤ませ、そして厳しい顔になった。
その顔からはどろっとしたものが垂れて糸を引いている。今村は正体を知っているが、婉曲表現から入った。
「まぁ…匂いで…」
何だか生臭い独特の匂いだ。石田の顔がいよいよ凍りついた。
「…校長…?」
「ほら聖司ぶっかけたこと謝れ!」
「先生そのイントネーションは!」
石田の攻撃!今村はへらへら笑いながら躱し、宗のカウンターが石田に更に襲い掛かった!
「って…アレ…?魔力が…」
「うん。その液の中には小さなまぁ…変な生物?みたいなのが蠢いてるからな。お前の魔力を媒体に…子作りしようとね…」
その直後に違和感を感じた石田の言葉に今村は軽薄な笑みを浮かべて答える。石田がキレた。
「最っ低です!セクハラですからね!?」
「…そろそろ僕泣きますよ?今村先生知ってたんですよね…?」
聖司君が間に割って入った。今村もこれ以上やると酷いのでネタばらしに行くことにした。
「まぁ、『マジックヒル』だな。寄生虫。その粘液成分はそいつらの保護液体的な物。因みに食べると美味いらしいよ。」
「誰が食べますか!あ~…服が…校長、これ経費で落ちなかったら訴訟起こしますからね…」
「あぁ、落とさなくても俺の金で買ってやるよ。何なら『マジックアーケード』の最高級店で買おうか?」
「えっ…でもあの店完全予約制で18年待ち…」
「俺は顔パスだ。」
今村が言い切ると石田の顔に極々僅かながら朱が入る。
「え、でも、そしたら、私と一緒に…」
「…まぁその辺は考えとけ。」
「え、あ。と、とりあえずお風呂行ってきます。」
石田は逃げるように去って行った。何となく気不味いなぁ…と感じている聖司に対して今村は彼と同じように白濁とした液を指先から一滴出した。
「え…これって…」
「まぁ、その『マジックヒル』の保護液を研究した結果出来た代物だな。うま味成分が凄いから個人食に「先生から白濁液が出てると聞いて!マキア参上!」」
マキアが扉を壊さんばかりの威力でこの訓練室の中に突撃して来た。
「んん?そっちの子は邪魔です。それですね!えい。」
そして床に飛び散っているものには目もくれず今突き出した今村の指を口に含んで吸い出した。
「…とりあえず、それは一応料理に使えることは知っておいて損はない。後『マジックヒル』の生態レポートは図書館にあるから活用しろ。」
マキアに見惚れて何だか微妙な雰囲気になったこの部屋の中で今村は一応それだけ言っておく。
マキアは紅唇を今村から離すと少々ながら残念な顔をしていた。
「…美味しいんですけど…これじゃないです。いや、美味しいですよ?でも私が求めてるのは違う美味しさで…まぁ先生から出ている白濁液を舐めるっていうことに意味がありますからいいんですけど…」
「一遍死ね。」
今村は清々しく笑うと回し蹴りを決めてマキアをストレートにぶっ飛ばした。
「ありがとうございます!」
「さて、こんな感じの変態がいるからここじゃ特に迫害は受けん。どうしても周りの目が気になるなら志藤ってのに相談し「呼びました!?」ろ…こいつだ。」
「4刀使いの志藤隆だ。君のその能力は無限の可能性を秘めているがまだ匂いが違う。もっと上を目指して…」
「お前は相談の方向性がちげぇんだよ!」
こちらにも踵落としを入れておく。
「こいつならお前のその能力と引き換えに適当になんかの能力をくれるからよ。」
「何と!そんな立派な能力を手放す!?」
「多分お前のスペルマスターとしての技術教えればいくらでもくれるだろうよ。」
「じゃあ修行だ!対価はそれな!」
「え、あ、ちょっ…」
ほぼ話すこともなく宗聖司は志藤隆と消えて行った。
(…一応名前に突っ込み入れたかったが…あいつの親何考えてんだろうな。)
「マジックヒル」の殆どを消し飛ばして掃除を済ませると今村はマキアの方を見た。
「…こりゃ…寝てる?」
「《自主規制》…」
寝言が半端ないが寝ているのだろう。マキアは規則的な寝息を立てていた。仕方がないので運んでやることにする。
「何か知らんが最近頑張ってるらしいもんなぁ…ふざけにも来ずに。」
マキアは何か頑張っているようだ。人伝ながらそう聞いている。今村は先程の能力についての記憶を取る序でに頭を撫で、記憶を取ったことを確認してからマキアを背負った。
(…こいつらデカいよな…)
背中に当たる感触でそう思ったが、とりあえずは何も思わないことにしてマキアを連れて休めるところまで連れて行き、放課後のもう一つの課外授業ポルタ・オルディニとの校外指導に行くことにした。




