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例外者の異常な日常  作者: 枯木人
第十一章~面倒事処理~
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14.戻ったはいいんだが

「っと。ようやく戻…ん?なんだこりゃ…」


 ガシャン。


「ん?」


 今村が目を覚ますとクリスタルな箱の中に入れられていた。そして周りは色んな花が敷き詰められている。そんな今村の上には紙が一枚乗っていた。


 その前に今村は何かが落下した音の方を向く。が、視界が何か柔らかいもので封じられた。


「マスターっ!」

「…?」


 とりあえず今村は視界を封じた物を投げ飛ばす。アクアマリンの香水を凝縮されたかのような香りのするそれは空中で体勢を立て直してもう一度飛びついた。


「…月美か。……何か嫌な予感が…」


 今村は精神世界内での時間の流れをあそこの世界が精神世界だと判明した時点で読み取っている。こちらではほぼ時間が流れていないはずだ。

 しかし、今の状態的にそうは言っていられない状況な気がする。ここまで大がかりな安置系の術式を構成するのは今村の教え子たちでも少なくとも10日はかかると思われるものだったからだ。


 そして、今村は首に抱きついている月美を無視して紙を拾って…握り潰した。


「あんの砂利神がぁっ…何が4年経過させただぁ…?」

「マスター…御無事で何よりです…」

「俺のキャンパスライフどうしてくれる…っ!」


 紙は手紙だった。


 君も僕と同じくらいの仕事量に押しつぶされると良い。僕が連行されてから急速に時間を進めておいたよ。これを見ている頃には少なくとも楽しみにしていたらしいキャンパスライフは半分以上終わってるはず?僕の楽しみだった箱庭観察を潰したんだし…いいよね?おあいこだよ?


                追記:現在…君が旅立って1511日後


「…フフ…フフフフフフ…あんにゃろ…キレたぞぉ…?何で俺が世界の正体に気付いてすぐに捕獲しに行かなかったのか…考えてからの行動だろうな…?」

「うぅ…マスター…」

「『ワープホール』…いや、こっちじゃ『アカシックレコードアクセス』の方がいいか…肉体移動すると祓が付いて来るし…」


 今村は泣いている月美のことを全て無視し、「アカシックレコードアクセス」を行った。















「…おや、先日はどうも。…その紙の束はお調べもの用ですか?アレでしたらこちらの方で『ケントニス紙(書くと増える紙)』を差し上げましたのに…」


 精神体だけの今村はアカシックレコードに移動した。そして司書の元男で今村に恋することを認められない女性と対面する。


「…あぁ、これは寄贈…」


 今村が彼女に返事をしようとするとその声を遮るように勢いよく扉が開け放たれて今村にとってはつい先日顔を合わせた男が地面を踏み鳴らすかのような足取りで入って来た。


「よっくもここに来れたねぇっ!」

「館長!あなたまだ仕事が!」

「ちょっと休憩!」


 彼の秘書らしき女性に我儘坊主の様にそう言って今村の方に詰め寄ると今村の持っている紙の束を見てほくそ笑んだ。


「あれあれぇ?調べものかなぁ?邪魔するね?」


 そんな彼を前に今村は…もっと邪悪な笑みを浮かべていた。そして彼の秘書を呼ぶ。

 この時点で司書である元男の女性職員の胸にもやっとした何かが生まれるのだがこれは今関係ない。


「えぇと…?『春。それはあなたと出会い、そして僕が恋をした出会いの季節。スルクァトゥスの花が満開に咲き誇り、僕らの前途を照らし出す。嗚呼、愛しの三神姫。あなたの愛に僕は縋ろう…夏。それは…』って何ですかこれ?」

「…ま…【魔神大帝】くん…?」

「ん?何だい?いや~とってもいい詩を拾ってねぇ…是非とも『アカシックレコード』に寄贈したいと…」

「…どの辺がいいのですか?私には全く理解が出来ないのですが…」


 表情の一部が死んだレグバ。生き生きとしている今村。怪訝な顔をする秘書。その全体を見ている司書はある可能性に辿り着いたが、上司の問題なので口を出さないことにしておく。


「まず、スルクァトゥスは比較的に有名な『健気で一途な想い』の花言葉を持つ恋の花ですが、凍りつく世界にしか生息してませんよね?」


 秘書の言葉に今村も頷く。


「あぁ、そうだな。春なんて来ない世界だな。後は停止した世界とか終わってる世界だけだな。そんな所でも最後まで咲き続けるさまが『健気』で『その世界に対して一途な想い』を抱いてるってイメージを持たせたんだし。…まぁ?どこかの極々一部の世界だけ例外があるんだよ。…おっ!その例外的な世界出身のレグバ様じゃないですか。」

「…【魔神大帝】くん…?」


 秘書はそこでおどろおどろしい感じになっているレグバを見てこれがどういう物であるか悟った。


「え…嘘ですよね…?」

「妻帯者が処女神たちを…しかも各神恋神持ちを狙う訳ないですよねぇ?」

「あは…アハハハハハ…どこでそれを?」


 目が超マジだった。


「失礼ですね。あの精神世界には【可憐なる美】が居たんで…」

「うっそぉっ!マジで!?何でもっと早くに言ってくんなかったの!?ってか話したの!?話せたの!?」

「…とりあえず…よくも俺のキャンパスライフ奪って仕事を増やしてくれましたね?お代にこれを差し上げましょう。」


 今村はローブを使ってビラの様にポエムを綴った紙をばら撒く。


「号外!号外だよーっ!」

「ぎゃぁあああぁぁぁぁあっ!」

「個人的には最後の方で急に色々思いついたらしく盛りだくさんになって自分の欲求を書きまくっている冬がお勧めだよ~!」

「…『【無垢なる美】様。もし叶うならば、もし、あなた様から穢れである物が出たら…それを全て舐め取りたい…』うっそぉ…」

「やめろぉぉぉぉおおおぉぉっ!『大炎…」

「『呪言発剄』【火気厳禁】!ざまぁ!超ザマァ!気が済んだ。帰る。」


 今村は最後に署名がされている原文のコピーとそれにいろいろ試行錯誤の跡が残っている同作者のサイン帳のコピーを置いて出て行った。


 その最中、今村の精神体に割り込みが入る。


「んっだぁ?この状態の俺に割り込みって……ってあぁ…この感じは…」


 「アカシックレコードアクセス」状態は今村の魂魄剥離状態でもかなり例外的に全盛期級の力を出せるのだが、それを歯牙にもかけないとなれば相手は限られる。

 しかも、相手の感情がこれでもかというほど伝わってきているので苦笑以外に何も浮かべられなかった。


「…はぁ…まぁ、こうなってりゃ見つけられるか…ならあんまり『アカシックレコード』には行けないな…」

「仁にぃ~っ!」

「……………噂をすれば…【無垢なる美】様のお出ましか…」


 動けない今村の下にそれ自体がその世界の要である屋敷が近付いて来る。その玄関先で幼い滅世の美幼女が元気に手を振っていた。

 その奥で世界が終わるまで抱き締め合っていた銀髪の滅世の美少女がにこやかにしている。


「やぁ、偶然だね。後少し抱き締めてから帰ってくれないかい?」

「おにぃっ!こーにちわっ!」

「…お前はさっきも会ったが…いつになったらまともに…そんでお前はいつになれば滑舌が良くなれるんだろうな…」


 憐憫の眼差しを両者に向ける今村。そんな今村は屋敷に撥ねられた。


「…何気に痛い。ぅごっふぅっ!」

「おにぃ!ひさしうり!」


 屋敷の衝突よりもインパクトが強い【無垢なる美】の抱き着き。生身なら即死物だ。


「やれやれ…もっとお淑やかにするんだよセイラン。」

「や!おねぇにおにぃと()()もん。」

「…そりゃあ仁は僕の旦那様だからねぇ。」

「やー!」


 姉妹間のやり取りを見て今村は口を開く。


「…お前ら相手いるだ「強制お泊りコースのオプション付きがいいのかな?」「おにぃきょーおとまり!?」…マジで勘弁しろ…っつーか俺今超忙しいから。せめて終わってからに…」


 が、速攻で説得を断念して別案に移る。


「『契制約書』仕事が終わり次第こちらに移り、一泊する。…これで妥協しろ。無理なら全力を以て逃走させてもらう。」

「…む。…んんぅ…あっちでの添い寝権利はまだ有効かい?」

「この際仕方ない。」

「そいねー?」

「一緒に寝ることだ。」

「おぉ…セイランも!セイランもおにぃとねる!」

「代わりにしばらく諦めろよ?」


 セイランの方は簡単に頷いて丸っこい英語でサインをくれた。ミニアンの方は少し考える。


「むぅ…これで僕が頷かなかったら今日は僕の為に、後でセイランと一緒に添い寝の権利を「却下。そん時はセイランの世界に飛ぶ。」…じゃあ…僕は耐えるよ!」


 ミニアンの方も頷いてくれた。これで内臓をぶちまけさせるつもりか?というホールドは解かれ、今村はゲネシス・ムンドゥスに戻って行った。




 ここまでありがとうございます。

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全盛期、相川だった頃を書く作品です
例外者の難行
例外者シリーズです
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