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例外者の異常な日常  作者: 枯木人
第十一章~面倒事処理~
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9.出落ち扱い

「始めまして皆様方。今村様の代理人として来ました者です。虹の勇者という者の条件はクリア致しましたので今から魔王の討伐を行いましょう。」


 移動中にメディウムは慇懃にそう言って優雅に腰を折った。状況が呑み込めていない一行だったがそれよりも宿屋のおっさんが血走った目で刃物を舐めている方が気になったので何も追求しない。


「さて、皆様方の職業を拝見いたしましたが…失礼ですがあなた方の頭は飾り物ですか?踊り子に騎士、魔物使いにイケメン…特に最後のに関しては意味が分かりません。これであればあなた方が連れて行く彼女たちの方がよっぽど役に立つのですが?」


 ちらちら後ろを見ている一行にメディウムは無表情で一気に言ってのける。一行は気まずげな顔をして黙った。


「…とりあえず、用意されている魔王に関しては私一人で倒すことが出来ますので下がって踊るなりなんなりしておいてください。」

「…来ました。」


 一行の面々の中に入っておらず、索敵に当たっていた祓がメディウムに合図を送る。

 すると、目の前に恐竜の頭に甲殻を持ち、更にアンドリューサルクス(口だけで1メートル近くあるでっかい猫)の顔、それにアルクトドゥスシムス(手足が1メートルくらいある熊)の足を持ったどす黒い紫色の化物が配下の蝙蝠を纏って出て来た。


「…店主。護衛を任せました。」


 そう言い残してメディウムは空中を歩き始めた。その言葉を残された店主は口から刃物を離して嗤い始める。


「ゲヒヒヒヒヒヒッ!血じゃ!血じゃぁっ!血祭りじゃぁっ!」


 宿屋のおっさんはロビーに置いてあった暖炉にくべるための薪を割る鉈に涎を垂らしながら振り回し始めた。


「う、うわっ!」

「糞っ!」

「…俺の戦闘用コマンドはまだスマイルしか…」

「俺なんて戦闘が始まったら体が勝手に!」


 寝ていた森、戦う美川、武器もなく立ち竦む蜂須賀、黄色い紐をたなびかせてターンを決める早乙女、近付くモノを笑いながら斬殺して行くおっさん。


 そんな意味の分からない状況の中で祓は一応戦っていた。が、すぐに戦闘は終わることになる。


「…案外堅かったですね…」


 蝙蝠を薙ぎ倒して進んだ先でメディウムが敵に触れるとその数秒後にはキマイラは崩壊したのだ。

 そし手残っていた残党も等しく戻って来たメディウムに消し飛ばされる。


 その時だった。一筋の光が天より舞い降りて来て、そして神々しい青年が一行の前に降り立ったのだ。


 ―――虹の勇者よ…世を乱す魔王の討伐大義であった。―――


 目を伏せたままの青年が重々しく体に響くような声で語りかけて来るとその場にいたメディウム以外が一斉に跪いた。


 神は続ける。


 ―――しかし、この世には更なる脅威が待ち受けているのだ。その名…なっ!―――


「ケッケッケ。つぅかまえたぁっと!」


 しかし、その神の言葉を遮る者が突如として現れ、そしてその者はいきなり現れると同時に神を白銀色の鎖で縛り付け、邪悪に笑った。


 ―――【魔神大帝】…―――


「俺をその名で呼ばないでくれませんかね?」


 鎖の出元には『グレイプニル』を持ち、『αモード』に入っている今村の姿があった。そして、それに一瞬の気をとられた創造神は怨嗟の声を漏らす。


 ―――キサマッ!この氣はっ!―――


「お仕事サボらないで働きましょうねレグバ様?『アカシックレコードアクセス』!」

「ざっけんなぁっ!たまには休ませろぉっ!」


 今村の言葉と同時に神々しい姿を投げ捨てて逃げ出すレグバ。しかし、それは許されなかった。すでに「アカシックレコード」の職員群が現れていたのだ。


「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だぁっ!」

「山のようになっている…というより山脈みたいになっている書類を放っておいて何をしてるかと思えば…局長?」

「やだぁっ!」

「きょ…「働きたくない!」く長……【魔神大帝】様。ご協力ありがとうございます。この件は後程厚く御礼致します。さし当たっては禁書庫への立ち入り許可、それに個人録への立ち入り許可権利証の贈呈を行いますので…」

「ありがと…「人でなし!君の邪魔をいつか必ずやってのけてやる!絶対にだ!」う。…俺に構うくらいなら自分の仕事を片付けられた方が良いのでは?」


 今村は冷淡な目でレグバを見ていた。一応、彼の方がかなり格上なので敬語だ。今は彼の創った世界…精神世界なので入って来ていた彼をどうこうする能力があるが、元の世界だと数瞬すら捕まえることは出来なかっただろう。


 ここが前世の全盛期の今村よりも強い姿に今村をしてくれていなければ無理難題にもほどがあることをしておいたのだ。


「…ここが精神世界だといつお気付きに?」


 レグバが連行されていなくなった後、今村の下へメディウムが飛んでくる。今村はその真横に飛んできた祓を宥めつつメディウムの問いに答える。


「あのキルシュ…本物と味が違ったしな。」

「…アレの味がわかるんですか…?」

「本物はあれよりもうちょっと苦かったはず。それにいくら俺でも少しとはいえあの量を喰ったら生身ならバーサークモードに入るだろ。…でも記憶に寸分たがわず平気にしてた。んで確信っと。」


 そして今村は踊っている早乙女を見て吹き出し、一人で何かと戦っているおっさんを見て苦笑いをすると、飛びついている祓に言った。


「じゃ…大魔王戦まで終わったら帰れるからそれまでじゃあな。」

「…え?何でですか?一緒に居ましょう…?」

「…ちょっと今は無理かな…6原神教えたよな?来訪中。俺、接待役。じゃあな。」

「あ…」


 祓の何らかの反論を前に今村は飛び去って行った。


「うぅ…」

「では私も戻ります。」

「ちょ…それじゃ大魔王とか…」


 メディウムも飛び去る。そして残されたのは踊り子と騎士と荒ぶる宿屋のバーサーカーと魔物使い、それにイケメンと上級神官だけになった。

 しかし、祓はこの程度で止まる精神を持ち合わせていない。彼女はすぐに行動に移った。














「さぁもう用は済んだだろう?じゃあ…で、デートと行こうじゃないか!」

「…お前が外を出歩いたら大変なことに…」

「君が守ってくれるんだろう?」


 とても可愛らしい笑みでそう返されてしまえば今村も何も言えない。豪奢な意匠が施されたごく薄い色をした紫色の道衣をたなびかせて周りに良い匂いをまき散らしながら今村をドレス置き場に連れて行く。


「君の好みの物がいいんだが…選ぶのを手伝ってくれないか?」

「俺何気に今着てるの好きなんだがなぁ…」

「女天道衣か…うん。じゃあこっちだ!デート先では君の服を僕が選ぶからな!」


 とても楽しそうにしているミニアンに引っ張られながら今村はデート準備を着々と進めて行くのだった。




 ここまでありがとうございます!

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全盛期、相川だった頃を書く作品です
例外者の難行
例外者シリーズです
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