23.海
今日は七夕ですね……今年は何もしませんけど……
そして来たるべき土曜日。
今村は色々な準備をして学校の校門に到着する。そこには何故か黒いレースのふんだんに使われたドレスを着た蠱惑的な美女がいた。その美女は今村の方を見て頬を引き攣らせる。
「あなた……何?」
「いきなり失礼じゃないですかねぇ? まぁいいけど。それで? 私に何か用ですか? 道なら交番はあっちです。」
いきなりの言葉に今村はいつも通りの歪んだ笑みで応じる。そこに5歳ほどの男の子を連れた理事長が現れた。
「おや。リリー……と今村君。これで全員揃いましたか。では『幻夜の館』に行きましょう。」
「リリー? ……と、その子は?」
今村は見知らぬ二人の事について理事長に尋ねる。すると理事長はあっさりと少し誇らしげに答えてくれた。
「妻の白水リリスと息子の義則です。」
「……へぇ。初めまして。じゃ、行きましょか。」
今村は興味なさそうにそう言うと『幻夜の館』に向かおうとする。
「あぁ、先に行っておいてください。義則がトイレを済ませたらすぐに行くので。」
「了解です。」
今村だけその場を離れる。残った白水一家の一人、リリーが理事長こと廉也に話しかけた。
「あれは……何? 悪魔の私が引くほどの禍々しい氣……あんなの地獄の邪神からも感じたことはないわよ……?」
「わからないんですよ。つい最近まで普通の人でした。ですが……気付けば日に日にこうなってきたとしか言いようがないんです。」
微かに怯えの見れるリリーに訳の分からないものを見る視線を今村に向けながら理事長は答える。リリーはそんな理事長-――廉也の方を見て言った。
「……その喋り方気持ち悪いわ。」
「……今それはいいんじゃないですかね?」
「まぁいいわ。行きましょ?」
「だな。」
二人はそわそわしている義則を連れて校舎に入って行った。
「あの……こっちです。」
「あ。よう。」
今村が「幻夜の館」に行くと祓が玄関口まで来ており、今村を案内した。二階に上がると少し廊下を歩き、目的の部屋に着いた。そこには夥しい数の魔法陣が板でしきられて床一面に描かれている。
「『転移方陣』か……後でメモっておくか。」
「早く行きませんか?」
「……ちょっと待ってろ……ふむふむ。全部異常ないか……ちっつまらん。どれか一個ぐらい異世界行きがあってもいいと思うんだが。」
今村は「転移方陣」をじろじろ見た後面白くなさそうに言った。祓は黙って今村に付いて行く。そしてようやく今村は「星の岬」行きの魔法陣に乗った。
目を開けると一面美しい海が広がっていた。
「おーこれは凄い。なかなかお目にかかれん綺麗さだ。」
今村はそう言ってローブの下に着ているズボンから携帯を取り出すと海を何度か写真を撮った。撮影を終えると今村はローブから一枚、紙を取り出すと確認を始める。
(……よし、使える。材料かき集めて昨日作り上げた割にはいい出来だ。)
紙を見てニヤニヤしていると祓が今村の方に寄って来た。
「何見てるんですか?」
「……『感応式地図』近くの情報を自動で書き込む地図だな。」
そして今村は祓が今村に寄って来た理由を不意に思い付いてすぐに準備する。
「水着か。『呪具招来』:ウェアーアップフレーム」
今村は祓に組み立てた呪具の枠を渡す。祓がそれを身に通すと昨日選んだ空色のスカートタイプのビキニになった。
「……それで……この後は……」
祓がそう言いながら今村を見ていると理事長が現れた。
「つっ! これは……」
「お! 理事長! 自由行動開始しますね!」
今村は即行で海に走って行ってそのまま海底を歩んで行きすぐに見えなくなった。呆然と取り残される祓。そこに理事長妻と理事長息子が現れる。
「……少し見すぎじゃないかしら?」
若干冷たい声音で理事長をなじるリリー。そこでようやく理事長も正気に返った。
「いや……まさか水着を着て来るとは……凄く、似合ってますね……」
「……そうですか。先生は全く相手にしてくれませんでしたけど……似合ってると言えるんですか……?」
「えぇ……勿論です……!」
「褒め過ぎじゃないかしら?」
リリーは理事長を冷たい視線で見る。が、次いで祓の方を見るとわずかに負けた雰囲気を漂わせた。そんな様子に気づかない祓は続ける。
「……そうですか……でも、先生が見てないなら似合っていても……」
この祓の言葉に理事長は危機感を抱く。フェデラシオンからの要請で学校に来ている祓に虫がつかないようにつけたはずの世話役。その世話役が祓とくっついてしまっては元も子もない。
「……祓君。今村君ともう十分仲が良いようですしこれ以上今村君と仲良くしようとする必要はないです。」
「え……? ですが……もっと仲が良くなりたいです……まだ、全然……」
「いや、言い方を変えます。これ以上彼との仲が良くなることをしないでください。」
祓の初めて見せる自らの意思を持った言葉に更に危機感を持った理事長は言葉を変えた。祓は突然のことにわずかに狼狽する。
「な……何故ですか? 私は……」
「許嫁の方に誤解されると困るんですよ。」
その言葉が決定的だった。祓は目を閉じてこれ以上何も言わなくなり、理事長たちの間にも嫌な空気が流れる。
波も荒れ海から烏賊と蛸の触手が……
「って! あれは何ですか!?」
「あ~しくじりましたね。『クラーケンキング』起こしちゃったんですよ。まぁ再封印しましたけど。」
全く空気を読まずに今村が海から上がってくる。その手にはよく分からない物を抱えていた。
「ん~大量大量! 『星の欠片』に『傾城の美』、『クラーケンキング』の墨まで手に入った!」
上機嫌でそう言いながら理事長一家と祓の方に寄って行く今村。そこで初めて微妙な雰囲気だったことに気付いた。
「……じゃあ。君。俺と一緒に海で遊ぼうか……何か君の両親はお話をしてるみたいだしね……」
居たたまれなくなった今村は理事長の息子を連れてクラーケンキングの触手が荒れ狂う海に向かう。そして当然のことながらリリーに止められた。
「……はぁ。これでは海水浴は無理ですね。帰りましょう。」
「大丈夫ですよ? もうすぐ消えますし。」
「……義則も嫌がってます。」
今村が手を引く理事長の息子は何かを諦めた目で海と今村を見ていた。今村もばつが悪そうに理事長の所に戻り帰ることにした。その間祓は一切喋ることはなかった。
ここまでありがとうございました!




