14.もうすぐ新年度
「…そう言えば…この時期になってなんだが…体育祭やってないな…」
「…本当に今更ですね…別年度始まるじゃないですか…」
今村は急にその事実に思い当たった。仕事をしながらぼけっと別のことを考えて話をしていたら気付いたのだ。
「ん~…じゃ代わりにバトルロワイヤルでもしよっかな…?」
「嫌ですよ…仕事が忙しいのにこれ以上忙しくなったら文字通り忙殺されますって…」
石田は手を動かしながら今村の話に否定的だ。だが、周囲のシスターズは今村の案に反対しない。
「します?体育祭みたいなのは準備期間が要りますけど、バトルロワイヤルなら日常の延長戦みたいなものですし大丈夫と思いますよ?」
「そうか?…生徒たちに多数決を取って決めようか。」
と言う訳でその直後に多数決。今村の案は採用された。
「…じゃ、今回はいつもと趣向を変えてみて…勝った奴は負けた奴に何でも命令できる権利を贈呈で、最下位は…ん~…石田とキスでもさせるか。」
「はぁっ!?」
今村はいつもの様に石田をからかうつもりでそう言った。しかし、石田の方はそう取ったようではない。しばし、といってもコンマ数秒悩み、生徒たちの面々を思い出すと言い切った。
「…そこまで、…まぁ、いろいろお世話になりましたし!いいですよ!」
「じょうだ…は?」
「代わりに!女の子が負けたら校長がキスですからね!」
今村は刹那の時間の間に考えを巡らせる。
(…こいつ、アホか?確かにミーシャとか芽衣、それに祓に比べればアレだが…十分男にもてる外見してるってのに…これなら男はわざと負けるだろ…ん~…まぁでも…ガチで戦う奴ら以外の適当組が弾かれるからいいか…?)
自分がキスする可能性は既に考えていない。それで今村は普通に承諾した。
「いいぜ?但し、相手が何であっても逃げるなよ?」
「こっちの台詞ですよ。」
「『契制約書』書いてもらうからな?」
こうして二人は契約を交わした。その背後で熱意に溢れる教師たちがいたことは言うまでもない。
「勿論、教師陣も参加な?」
「当たり前です今村さん。寧ろなければ抗議ものですよ?」
「お…おぅ。」
(あっれぇ?この猫耳姫さんこんな好戦的な奴だっけ…?最近の激務でストレス溜まってたんかねぇ…?)
(何が何でも負けます。)
今村とミーシャの会話の後ろでは相馬が「何でも…」と虚空を見つめながら何度か呟き、頭を振り払っている。
「先生!多分うちの生徒たちが何かなってますよ?おそらく、凌辱されかけてるんじゃないですかね?…ってアレ?何か変ですけど何かありました?」
マキアが白衣に赤く細い金属フレームの眼鏡をかけて急に職員室に飛んできた。
「…どこだ?」
「あっちの方です。自治区内の…で、皆さんどうしたんですか?」
マキアは案内するつもりはなさそうだ。今村は舌打ちを一つするとマキアが指した方を睨み、空に舞いあがると駆けだした。
「…見っけ。はぁ…ウチから出した不干渉結界に、魔力無効化の結界使ってやがんのかよ…ブザーが鳴らんわけだ…」
今村はすぐに生徒たちが捕まっていると思われる場所を発見した。これらの製品に関しちゃ対処法をあれだけ説明しといたのにな…と思いながら対象を保護する魔術を掛けていく。
「まぁ相手は改革を嫌う保守派か…それか今更ながら怖くなって来たアフトクラトリアのどっかの奴か…はたまたまた別の国か…その他か…その他だろうけどな。」
氣と「幻夜の館」に住んでいる者のキーを解析して見つけた場所は今村がこの前潰した自治区最大規模を誇るゼネコンの本社のお膝下の廃工場だった。
そのゼネコンは今村がここを支配する…ここのバックに就くまでは潤沢な資金で政界にも文句を言ったり、脱税したり、法の目から逃して貰ったり…と色々やっていたのでその証拠を提示。
また、今村が新たに定めた労働法を無視したので即刻取り潰してやったのだ。
因みに今村制定の労働法の内、彼らが破ったのはサービス残業させる位人手が足りないなら新しく人を増やせ。出来ないなら潰すという鈴音が元居た世界の北欧のとある国を真似た物だ。
「…逆恨みかね?…よし、生徒にはプロテクト掛け終わったっと。この二人は真面目に授業受けてない相馬の追っかけだな…」
色々考えながら術式を終えると今村は獰猛な笑みを浮かべてその工場の屋根をぶち破った。
「…よう、ゴミ共」
中に入るとそこには注射器を持って女子生徒に迫る十数名の男たちが居た。今村は「解眼」を使ってその注射器を解析する。
「て…テメェ!よくも!」
「…レイプして本当に中毒に出来てたってのが性質悪ぃな…それはウチのじゃねぇし…」
大げさに溜息をつくと今村はそれを「死出目」で睨み壊す。それを見て戦慄する男ども。
「ば…な…ま…」
「馬鹿な、魔力の供給は切ったはずって?あ、言わなくてもテレパスで分かっから。とりあえずテメェは死んでろ。」
今村は銃を抜いてバレてないと思っている男の頭部を木っ端微塵にして殺した。血が噴水の様に舞い上がり、工場の機器を濡らしていく。
「…よくもまぁそんなにエロ漫画みたいなこと考えてられるもんだ…実際にそんなだったら汚いだろうが…」
今村は一歩出る。すると男たちは後退りした。
「ところで、何で俺は君らを前に喋ってると思う?…あ、もう出来たから答えは聞かないけど。…まぁ喜べ。君らの願いを一部叶えてやるよ。」
今村がそう言って尋常ではない人外の笑みを浮かべると工場の壁から腐りかけのゾンビが大量に出て来る。
眼球が零れ落ちながら欠け、揃っていない歯を嬉しそうに鳴らすゾンビ、そんなゾンビたちは人以外にもゴブリンと思われるもの、オークと思われるもの、オーガ、その他にも色々いたがどれも肉が剥がれ見るに堪えない有様だ。
「ヤリまくりたかったらしいから相手を準備した。ご堪能あれ♪」
今村の合図で男たちにゾンビの群れが襲い掛かる。そして肉を食われながら行為に走った。
ぐじゅぐじゅと言った不快な音、それらがこだまする中で今村は女子生徒たちの方へテクテク歩いて行く。
「…はぁ。大丈夫か?」
今村が縄を解きながら女子生徒二人にそう訊くと号泣しながら何度も頷いた。そして今村にしがみつく。
今村はそれを溜息をつきながら受け止めた。
「これに懲りたら授業はちゃんと受けろ。『解眼』…この程度の薬物とか…授業をちゃんと取り組んでたら体内で抗体作れたから効かなかっただろうに…」
「ごめ…なしゃぁ…」
「ぅぇぇええぇえぇぇぇ…」
文句を言いながら慰め、ついでに目隠しを取る。その前にきちんと見ない方が良い所にはモザイクがかかるようにするのは忘れない。
「…じゃ、帰るか。」
今村はジェネラルゾンビの敬礼を受けながら倉庫を後にした。
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