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例外者の異常な日常  作者: 枯木人
第十章~卒業と就職と進学~
205/644

3.旅行の移動中

 当日になった。「幻夜の館」の前には2階式の大型バスが止まっており、生徒たちはその前でごった返している。

 今村はその子供たちに向かって大声ではないが良く通る声を使って指示を出す。


「バスを5台借りて来た。こういうのは雰囲気重視だから空間魔法はかけてない。上の階か、下の階か好きに選べ。」

「先生はどこですか?」

「俺はアレ。」


 今村の言葉にすかさず祓が質問すると今村が指す方―――5台のバスの後ろにリムジンが付いて来ていた。ナンバーが「幻夜 し 4444」と何か凝った作りだ。


「…因みに、何人乗りですか?」


 今村の移動手段を聞いていなかった教員の面々のうち女性たちが今村に訊く。今村はちょっと考えてから言った。


「具合悪くなる奴が居るかも知れないから…まぁ一列空けて7人掛け。そんなことより石田が1号車。芽衣が2号車。月美が3号車。ミーシャが4号車。相馬と祓が5号車な。」

「…え?何ですかその組み合わせ…」

「ん?各バスに一人は引率の教師が要るだろ…何言ってんだお前らこそ…」


 今村はそう言って何か見たことのない切れ目をした美形。鮮やかなインディゴ色の髪をした執事が運転するリムジンに乗り込んだ。


「信号はハックしておいたから俺らが通るのに赤信号はない筈。後、バスの運転手に割り込みを許すなと伝えておいてくれ。」


 窓から顔を出して今村はそう言うとリムジンのドアを閉めた。そして天界のシャンパンを開けようとして…


「あ~美味しいですよねそれ~」


 何故かリムジンの中にロリロリな可愛い美幼女、天界の主を発見した。椅子に座って地面に足がついていないのにシャンパンのグラスを傾けている。

 今村はとりあえず気配をあんまり確認できてなかったことがショックだったが一つ頷くとその美幼女に声をかけた。


「…あぁ。そっか。俺、今弱ってたんだった。…で?何しに来たヴァルゴ?」

「む~…すこ~し時間が出来たから来たんですよ~」

「妾も来たぞ?こやつが暇という事は死人に関する案件が少ないという事じゃからな。」


 そして爆発しそうな胸を持たれるスタイル抜群の褐色美女、地獄の女帝サラも現れた。


 歴史的にもいがみあっている彼女たちは一人分のスペースを確保して酒を注いでいた。


「ホレ。早う。隣。」

「…何しに来たんだ?」


 今村は無視して手近な椅子に座りこむ。体が呑み込まれそうなほど柔らかい椅子だった。

 それを見てサラとヴァルゴも今村の両隣りに移動する。


 今村はもう動くのが面倒になったのでそのままチョコレートを食べた。


「用がないと来ちゃ駄目なんですか~?」

「用がねぇなら俺のところになんざ来ねぇだろ…」


 今村の呆れたような言葉に二人はムッとするものの黙って距離を更に詰めた。


 今村を二種類の甘い香りが包む。今村はそれを冷めた視線で見て、自己分析すると節操なしだなぁ…と思いながら「白蘭冷棄却法びゃくらんれいききゃくほう」を掛けて落ち着かせた。


「…まぁ用がないと言う訳じゃないんじゃがの…」

「そうですね~…」

「それ見ろ。何の用だ?」


 二人が心持ちテンションを下げてそう言ったところで今村は苦笑して内容を聞き出す。

 すると彼女たちはそれぞれ色の異なる瞳を今村に向けて訊いた。


「何で、最近、地獄に来ないのじゃ?」

「展開にもですよ~?」

「え?神核解放終わったじゃねぇか。」


 今村は最近訓練が終わったので地獄にも天界にも行っていなかったのだ。それに「幻夜の館」が忙しかったのもある。


 だが、彼女たちにとってはそんなこと関係ない。もの凄く寂しかったのだ。執務をしても、寝ても覚めても来ない。来ない。来ない。

 忘れられたのではないか?そんなことを思い、それに怯えて仕事を無茶なペースで終わらせると確認しに来たという次第だ。


 そんな乙女心を知らないし、知る気もないし、むしろ踏み躙る輩は度数の低いシャンパンを飲まれて若干不機嫌にしている。

 一応引率としての自覚があるのでこれ以上は飲まないことにしていたのにその酒がなくなったのだ。


「…まぁいいけどね。」

「全然よくないんですが~?次、いつ来ます~?」

「妾の所にはいつじゃ?」


 前回はいつものように来週来ると思い込んで約束をしなかったのが不味かった。今回は確実に言質を取りに来た二人は揃って顔を近づける。


「…いつ空いてたっけ…?ってか、何しに行くんだ俺は?弱り中だからそこまでお前らと変わらん位の力しかないぞ…?」

「え、押し倒していいですか~?」

「ここで、か。…ふむ。少々思いがけないことじゃが…まぁいいじゃろ。どこでヤッたかは重要ではない誰とヤッたかが重要なのじゃ。」

り合うならここは狭いだろ…押し倒してもいいが…」


 そう言うと今村は獰猛な笑みを浮かべて胸から呪刀を出した。


「どうなってもいいならな。」


 そう言って今村は呪刀を体の内部にしまう。それを見て止まる二人。それに対して出発を開始し始めるバスと車。


 今村は確認しておく。


「1号車。何か問題は?」

「…能力者反対勢力のテロリストが入って来まして…今、オモチャにされてます。」

「よし。問題ないな。」


 問題しかないが次に行く。


「2号車。何か問題は?」

「無いで…「ぎゃぁぁっ!わ、悪かった!許しぎゅごっ」…ちっまだ生きてたか…無いです。」

「よし。」


 おそらく1号車と同様の集団に属していると思われる人物が肉塊に変えられていたみたいだが良しとする。


「3号車。問題は?」

「爆薬が設置されていたので解除して呪具の餌にしておきました。報告事項は大体こんな所かと。」

「ふ~ん…何だった?」

「トリニトロトルエンですね。」

「テトラじゃねぇのか…ケチってんな…」


 今村が最近発明して情報を流しておいた物質だったらそいつらを生かしてずっと作らせようと思ったのに…と少々残念に思いながら4号車に行く。


「4号車?」

「…何か前列のバスたちが大変なことになってませんか…?」

「ちょっとテロられただけ。もう相手のことを心配した方がいい。…爆薬は?」

「ちょっとじゃないですからね!?…まったく…それで月美さんは疾走するバスの車体の下に潜り込んでたんですか…」


 深い溜息をついたミーシャは軽くバスを確認すると異常がないことを今村に告げた。


「じゃ、5号車。」

「…先生。怒りますよ?何ですかこの席…」

「ん?」

「職員カップル専用…」


 そう言えばそんなのを作った気がする。バス会社に無理を言って作ったはずだ。デザインは向こう任せだったが、何か悪かっただろうか。


「何か不味かったか?」

「……これと、私は、絶対に、絶対に、絶対に、カップルにはなりません。絶対です。」

「世の中に絶対はないぞ?俺が観測して来た限りじゃ…な。あ、あった。俺は嫌われやすいって…何してんだテメェら。」


 今村がよくする誰も笑えないジョークを言ったらサラとヴァルゴがまるで自分はそんなことないとばかりに身を寄せて来た。

 そんな二人に対する突っ込みを聞いた祓は何かが切れた。


「先生…また、誰か…別の子を…」

「気付いたら居たんだよ…あと子とか言ったらぶっ殺されるぞ?可愛い形して地獄の女帝と天帝だからな?」


 貫録も何も形無しで嬉しそうにしている両者を不気味なものを見る目で見た後、通話に戻ろう…そう思ったところで目の前の光景を疑った。


「そっち、行きます。」


 通話しながら祓はバスの後ろの窓をぶち破ってリムジンのフロントガラスに突っ込んで来たのだ。


「馬鹿か!?そこまで嫌か!?」

「旦那様。どうなさいます?リムジンの防御能力を上げて轢き殺しますか?それとも中に入れますか?」

「…入れてやれ。」

「畏まりました。」


 インディゴの髪をした美青年は目の前に迫る物質を睨む。そしてその物質は消えた。


「…え?アレ…?」

「…死ぬ気か?」

「車に撥ねられたくらいじゃ死にません…けど、」

「これは車じゃねぇ。俺の乗り物だ。轢かれたら死ぬ。覚えとけ。」


 だが責任の一端は自分にあるので今村は仕方なしに文句をこれ以上言わないことにした。


 そしてこの後はそれなりに順調にバスたちは進んで行った。




 ここまでありがとうございます!


 

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全盛期、相川だった頃を書く作品です
例外者の難行
例外者シリーズです
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