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例外者の異常な日常  作者: 枯木人
第十章~卒業と就職と進学~
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1.入院騒動

「くぁ…あ~死にてぇなぁ…暇だし…」


 今村は若干鬱気味になっていた。神核系統を保護するために体の毒素を取られ、能力は低下状態でそんな気分だったのだ。

 ただ、もし死にたいと言ったのを聞かれていたらブーイングが来ると分かっており、それだけなら別にいいが、最悪みゅうに監禁されるので、今村は気分転換を図ることにした。


「…何しよっかねぇ?」


 今の今村は結構疲れ気味、戦闘欲はあまりない、食欲は…まぁそれなりに。実験は…細かいことをする気になれない。開発…書類…やることは一応あるが、どれもなんとなくやる気にならない。


「…よし、じゃあ…まず飯でも作るか。作ってたらそれなりに腹減るだろ。」


 今村は特に誰もいない職員室で一人そう呟くと調理室に移動することにした。



















「…おぁ。しくったなぁ…」


 そんな感じで料理を始めようと思った今村だったが、彼のテンションは上がらない。その所為か、普段ではありえないことに包丁で自分の指を少し切ってしまった。

 とはいってもザックリという事でもなく親指から血が少々滲み出るくらいの浅い傷だが…


「…あーもったいない…」


 今村は自分の体に包丁が入るのを見えていたのに止めるのが遅れるようなことをやってしまうレベルにある自分を嘆く。が仕方がないので自分の血を舐める。

 美味しい。鉄臭さもなく、ほのかな甘みがあり魔力が芳醇に流れている。


「ん…毒がないのが残念だなぁ…」


 若干の媚薬作用はありそうだが、普段持っている猛毒は形を潜め血が付いた包丁も溶けていない。

 毒は毒で美味しくいただける今村は少々残念そうに自分の傷跡を見る。血は止まっていた。


「まぁ…後は放っておけば止まるか。」


 今村は一応傷の手当てをしようか。そう決めて料理の手を止めると後ろを向き…普段から綺麗で柔らかな白い肌をしている祓の顔がもう病的なまでに蒼白になっているのを見つけた。


「…どうした?」


 今村が流石に心配げにそう訊いても祓の視線は今村の手から離れない。


「血…が…斬ったんですか…?」

「ん?あぁまぁ…あ、今の俺の血に毒素はないからハザードは起きない。安心していいぞ?」


 尤も、意識してやらない限りは災害なんて起きないのだが…そんなことを続けようとしたのだが祓は手から目を離さない。


「…とにかく、チャーンドさん呼ばないと。」

「いや…何で?俺にだって失敗はあるんだが…」


 祓の言葉を自身の失敗を広めるためだと思った今村は苦笑しつつもそう言ったが祓の方はもの凄く真剣な顔でマキアを呼んだ。


「はいはい?」


 程なくしてマキアがやって来ると祓はものすごい勢いで今村の怪我について語り始めた。

 今村はその大袈裟っぷりに苦笑を禁じえなかったが、マキアの方はそうもいかなかったようだ。


 こちらも顔を真っ青にしている。


「…は?え…包丁で…手を…?先生!手を見せてください!」

「別にもう血は止まり始めてるぞ。ほれ。」


 今村はそう言って手を見せる。マキアは親指を見てそして次いで包丁を見た。


「…燃え尽きろ。」


 憎悪を込めた目で包丁を睨むと包丁は白い光と共に跡形もなく燃え尽きた。今村は何をやっているのか全く分からない。

 そんなマキアの肩に祓が手を置いて引いた。


「そんなことをやっている暇はないです。早く、チャーンドさんを。」

「そうだった!」


 マキアはそう言った次の瞬間この場から消えた。今村は現在の状況を掴むのに苦労している。


「先生。もう少しの辛抱です。」

「…何が?」


 体調不良の今でなくとも理解しがたい祓たちの言動に今村はそう訊き返したが、祓の方は至って真剣でそれ以上の言葉は何となく許されそうになかった。


 そして、すぐにチャーンドが来た。…血相を変えて。


「仁様!怪我をしたのは本当ですか!?」

「…だから冥界の神らしくしてろって…怪我?一応したけどこんなもん舐めてりゃ治る。」


 そう聞くや否や祓が今村の指に食いついた。そして舌で丹念に舐め始める。今村は絶句した。


 その間にチャーンドとマキアは冥界に転移門を繋げ始める。


「え…?何コレ。」


 色々と考えが追い付かない今村。チャーンドは端的に答えた。


「入院だ。手を…切ったんだろ?血が…一滴も出たんだろ?」

「…いや、一滴も出てないが…多分、半滴ぐらいじゃね?ってか。え?入院?」


 今村の言葉に一応皆が安堵しているが、今村の方はよく分からないまま状況が流れていく。

 大体今村が指を切ってから1分も経っていないのにこの状況に陥っているのだ。無理もない。


「そうか!だったらまだ希望はある。」

「…何に絶望してたのかわかんねぇんだが…え?何?コント?」

「パパ!」


 そんなことをしているとマキアがみゅうをいつの間にか連れて来ていた。


「パパ死なないで!」

「こんなんで死ねるか。」

「大丈夫です。まだ…血は一滴も出ていないらしいから…」

「それでも危ないでしょ!?何言ってるの!?」


 チャーンドの言葉にみゅうが激昂する。今村は何かもう理解を諦めた。


「転移門…あぁおっそい!みゅあっ!」


 チャーンド達の転移門の上から術を掛けると冥界とこの世界を一瞬で繋げた。


「パパ!入院するよ!」

「え、マジで言ってんのそれ。馬鹿じゃね?」

「早く!死んだらやだよ!」


 問答無用で今村は拉致された。



















「まずは注射。」

「元々の怪我より傷痕大きくね?」


 今村は採血された。完全に先程の血より多くの血が奪われた。現在の血はあまり価値がないので放っておくが、それより周りのお通夜みたいな雰囲気をどうにかしてほしい。


「大丈夫なはずだ…人間の病気はほぼ全部調べた…治し方も大丈夫だ…」

「…いや、何で俺が病人扱いなんだ?」

「手を切ったら雑菌が入って人間は死ぬかもしれないんだぞ?」

「人間舐めんな。」


 それしきで死ねるか。消毒すればいい。それにバイタルコントロール使えば何とでもなる。何で俺は入院してるのか全く理解できない。


「検査結果が出ました。病気にはかかっていません。菌類も血の中に全く見当たりませんし…というより、血が血なのかよくわからなかったです。」

「…まぁ便宜上俺も人間って言ってるだけで人間じゃねぇしな。組成からして違う。ん~にしてもそっか。その辺気を付けないと色々面倒なことになるかもな…」

「そんなことより!命に別状は!?」

「ないです。」


 看護師のきっぱりとした口調にお通夜ムードだった皆が歓声を上げる。訳が分からないのでそちらは無視しておいた。


「帰ってもいいよな?」

「勿論です。寧ろ何でここに来たのかよくわかりません。…何で来たのですか?」

「俺が知るかよ。」


 看護師の訝しげな目と今村の死んだような目が交差する。看護師はまぁチャーンドが無料で検査する予定だった患者たちを治して行ったからこちらとしてはプラスだったと言ったのが今村のせめてもの慰めどころだった。


「…あ~パパが人間になるから本当に心配だよ…人間って強い奴でも虫歯でも死んじゃうんでしょ?」

「…死んだ人もいるが…」


 某新鮮そうな組の誰か、幹部レベルの誰かさんが虫歯で死んだのを指しているのだろうが、アレは少し特殊な状況だ。


 とにかく、問題はないという事で今村は無事に退院した。その後は全ての仕事、全てのやる事を取り上げられたので更に暇になった。




 ここまでありがとうございます!

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全盛期、相川だった頃を書く作品です
例外者の難行
例外者シリーズです
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