24.ということで辞めましょう
ごめんなさい。
「…ってなわけで、俺の加護は消えるからその前にこの中の誰かの加護貰っておきな~」
今村は文化祭の翌日に今村の加護持ちの人物たちを集めてそう言った。
選択できるのはミーシャ達がいた世界の創造神ライアー。それと【時空龍】みゅう。後はこの前行ったところの神、フリースだ。
「…俺だけ状況がわからないんだが?神を辞める気なのか?」
「ん。能力を一部特化にして一時的に神を辞めるな。じゃねぇと見積もりじゃ後数年で死にそうだし。」
ライアーの質問に今村はさらっと答える。ライアーは若干顔を顰めたが頷いた。
「じゃ、いいや。元に戻るんだよな?」
「ん。多分。その前に死んだら無理だが…」
「死んだら拉致る。」
ライアーの問いに今村が若干余計なひと言を足すとフリースが断言した。
「…さぁて、選びな~一応案内しておくと、ライアーは特殊能力特化、みゅうは物理特化、フリースは知らん。」
「ん~昨日人間創って加護を掛けてみたら半々で能力特化と物理特化が出た。」
今村はそれをそのまま伝えて、生徒たちに選ばせる。
生徒たちはこのままでは今村が死ぬという事を受けて素直に今村の儀式を受け入れ、別の加護を受けることに異論を唱えず各々選んだ神物の加護を受け取る。
そんな中抜群の不人気を誇る神がいた。
「まぁそりゃそうだよね。」
「…ふむ。普通に考えればこいつの世界から来てるんだし加護の受け入れも跳ね上がるんだがなぁ…」
ライアーのところだ。戦争まで行って、嫌われてしまったライアーのところには誰も来ない。
仕方がないので二人で世間話に花を咲かせることにした。
「にしてもそんなに簡単に神辞めるって言ってできる辺りどうなんだろうか。」
「まぁそこまで簡単じゃないけどな。それなりに事象の狭間に落ちるリスクはある。…俺の場合はゼロだが。」
「ん~…それでもそうそう踏ん切りつかなくないか?だって神じゃなくなったら人間だぞ?」
「人間、結構じゃねぇか。愛と平和を求めながら欺瞞と共にあり、人を欺くのを良しとして、他者の不幸を嘲笑い、本能の赴くままに壊し、犯し、食らい、己が生存と快楽をどこまでも追及し果てには自らの破滅すら愉悦の糧とする。大変結構なことだ。」
そんな会話をしているとマキアが今村の方に寄って来た。
「私そう言うの考えたことないんですけど、どういう気持ちなんですか?」
「…まぁ、お前らみたいな【自神】はまずもって神じゃなくなれば消えるしな。感覚…?そうだな…人間からいきなりミジンコになる気分?」
今村はちょっと考えて答えた。その反応にフリースが加護を掛けながら口を挟んでくる。
「神に依るだろ。俺はそこまで行かないな…精々人間から獣に成り下がるくらいだな。…まぁ仁に関しちゃもっと上級だからそんな気分になってもおかしくないが…次。」
生徒数が残り少なくなってきたところでその場から動かなかった者がライアーの下へやって来た。
「…加護を。お願いします。」
芽衣だった。それにミーシャも付いて来ている。
「お、お客だ。変なの掛けんなよ?」
「ま、この辺は君の分野だし…変なことはしないよ。」
ライアーは苦笑いしながら術を掛ける。その出来にミーシャと芽衣は頷いた。
「…ご主人様より弱いけど…説明受けた話しよりは…」
「…むしろ…若干動きが良く…?」
「お前ミーシャにだけ加護掛け過ぎだろ…」
今村の呆れたような突っ込みが入る。芽衣はそれを聞いて顔を顰めた。
「…まぁ、掛けてもらってる立場なので何とも言えませんが…」
「ぜっ…はぁ…はぁ…つっかれた…」
「本気過ぎんだろ…」
ライアーの倍以上の数を熟しているみゅうとフリースより遥かに疲れているライアーを見て今村は何とも言えない表情になった。
その後、加護を掛け終わったところで今村が神を辞める儀式を開始する。
「よし、とりあえず何か来たら殺しといて。」
「オッケ。」
「パパの敵はみゅうの敵!」
「まぁ…皆殺しか。」
今村はローブを使って8本の棒を操り、地面に複雑な文様陣を描き上げる。
「よっと。じゃ、始めますか。」
今村は暗闇に取り込まれた。周囲の緊張が高まる中、その中心にいる今村は欠伸交じりに儀式を行う。
神核の中に9罪が存在していてサポートするのだから基本的に今村がやることは特になかった。
(…あ、そういえば鬼ごっこの時に何で結界崩したのか咲夜から聞いてなかったな…まぁいいか。)
若干そんなことを思い出しながら儀式を続行。7分ちょっとかけて儀式は終わった。
「…よし。とれた。」
暗闇が晴れるが今村は特に変わった様子もなく、その場に存在していた。みゅうはそんな今村を心配して飛び込んで、抱き締めた。
「…ちっ。認識外に置かれてればある意味目的の一つが終わったのによ…まぁいいや。このまましばらくこれでいれば自然消むっ…」
そんなことを聞こえないように言っていた今村がみゅうの可愛らしい唇によって塞がれた。
今村の口の中をみゅうの舌が蠢き、綺麗に全て舐め上げてから口を離す。ねっとりとした唾液の糸が二人の口に繋がりながらみゅうはニッコリ笑った。
「そんなの関係ないからね?どうなってもパパはパパだし、好きだからね?」
「うわ…この状況下でも言うとか…引くわ…それはねぇ…」
「ん~ん?真実の愛の前には姿形、存在がどうとか関係ないんだよ?さ、ベッドに行こ?だいじょーぶだいじょーぶ。多少は時間にゆとりが出来たんだよね?」
今村は無言で能力行使した。
「『ロワン・リベロ』。離れろ。」
「ぅみゅっ!ひどぉい!」
顔面から落とされてみゅうが怒る。今村はどこ吹く風でフリースに言っておく。
「…この、変態を何とか治しておいてくれ。」
「…流石に…これはな…まだ中身が仁とはいえ…存在が下等になってるものとは…」
苦笑いをしながらフリースはみゅうを引き取る。みゅうの抵抗があり、両者の間で戦闘用に氣が練り上げられ、生徒一同は動けない。そんな状況下でマキアは今村に質問する。
「え…と、私にはよく分からないんですが…みゅう様と先生がくっついちゃ何が駄目なんですか?」
「見た目。」
今村はふざけ半分でそう答えた後、例えばと前置きして説明を始めた。
「可憐な少女が、自ら盛りのついた犬と行為に及ぶ。…存在と倫理観の格差においてこの図がそのまま適応されるな。」
「…え?」
「つまり、普通あり得ないことをやってのけようってんだ。あの馬鹿ガキは…」
今村は溜息をつく。そんな今村にマキアは慌てて尋ねる。
「あ、え?先生と私たちって変わりないですよね?」
「まぁ今はな。」
「…さっきまでは…?」
「みゅうと同格だ。…元々の力的に言えば俺の方が上だが…それがどうかしたか?」
今村はフリースとみゅうの戦いの観戦をしながらマキアの質問に答える。マキアは一番気になったことを訊いてみた。
「じゃ、じゃあ…私たちがエッチなことしましょうって言ってたのとかどう聞いてたんですか…?」
「ん?…まぁ、今同格になってるから若干引き摺られてるが…前はそうだな…盛ってんなぁ…って。」
今村の視点の離れ具合にマキアは固まると同時に、これからがチャンスという事を知って内面で笑いも浮かんでいた。
ここまでありがとうございます!
因みにライアー君はランク的にマキアより大分上で、人間系を自分と同じと見做していませんが、別に人間とシテもオッケー派です。




