13.メリーと市子と呪王
「まず、『1の人間を自分の認識外に置き始めてる教え子の世界を広げること』はなぁ…ちょっと困った奴がいるんだよ。」
「どんな人なの?」
メリーちゃんが好奇心満々で今村に質問すると今村は首を傾げて質問に答えた。
「えーと、頭脳明晰、容姿端麗、家事万能、文武両道で性格も良く、素直で騙されやすく、心配性で…世間知らず。」
「貶してるのか褒めてるのかわかんないの!」
「…何とも男の好きそうな娘なのじゃ。」
市子の言葉に今村は頷いた。
「モテる。あいつは真面目にモテる。…ただ、それに気付いてない。ってか、気付いても片っ端から壊す。何かに怯えるかのように拒否する。」
「…確かに、人間の男は怖いの。」
「怖いのじゃ…」
お人形さん二人は深く頷いた。今村は苦笑いする。
「まぁ、そういうんじゃない、正統派の王子みたいな性格してるのが言い寄ってるんだが…全力で拒否してるんだよな…おそらくトラウマが根付いてるからなぁ…」
今村の脳裏に浮かぶのは昔、祓に「トラウマシーカー」を使って見た記憶。幼い頃から下種な考えを聞かされ続けた状態だ。
それに、相馬の所為で一度酷い目にも遭っている。そのたびに救い出したのは今村だ。
だから、祓の世界の中に自分は入れられているのだろう。しかし、半分とはいえ神の要素が入った彼女と自分の寿命では比べ物にならない。自分はいずれ死ぬ。
その時、彼女はどうなるのか。それが結構気がかりだ。自分の所為でこのような状態になっているのだから現状は何とかする必要がある。
そう思っているのだ。それを人形たちに伝えた。
「…デリケートな問題なの…」
「なのじゃ。正直、カウンセラーのお兄さんなら不死になれるはずなのじゃ。ここまで来たら一生の面倒を見ればいいと…」
「無理だ。」
市子の言葉を遮って今村は短く言葉を発した。
「俺は、誰も幸せになんざできない。世界から…理から離れすぎた。誰かと一生一緒に居ることになるなら何の気負いもなくそいつを殺せるくらいには正の理屈からは遠ざかってるな。」
今村は歪んだ笑みを浮かべた。
「俺の邪魔は許さない。その為の力だ。」
場の雰囲気が重くなったところで今村は次の話題に移る。
「2に面白い奴探し。聞いて字の如くだ。何なら君らうち来る?キャラ被りしてる奴いるけどバトったら?」
「むぅ…行く行かないは別として…キャラ被りが気になるの。」
「クルルって名前の…鳥だな。今はディアトリマ系統の恐鳥類のボス的な存在。」
「私にキャラにも被っている奴が居る…?」
「うん。元大賢者で今は引き籠って農民してる奴。…まぁ、この世界には来ないけどな。」
今村の別世界…というより自世界の中にいる。因みに今紹介した面々は最近気分転換に日本人の記憶を植えて異世界に行った時の仲間たちだ。
…ここでもこいつはハーレムを作り上げた…それはこの世界の誰も知らないことだが、裏で動いてはいるらしい。
それはさておき、今村と目の前の人形幼女たちとの話に戻る。
「じゃあ気にしないの。」
「で?来る?ここよか多分まともだが…」
今村がそう言うが、実際この学校に比べれば大体の学校はいい学校だろう。と言うよりこの学校が酷すぎる。
「…男のニンゲンがいっぱいいるのは…やなの。」
「生徒数大体500人中、男女比驚異の1:8で男が可哀想な学校だ。残り一割はどっちでもある。…ってかニンゲンは…居るのかね?」
順調に今村の魔改造が住んで人間と言うには性能がかなりおかしくなってきたのだが気にしない。今村の問いかけに月美も何も言わなかった。
「とりあえず考えておくの。」
「…それで、気になっているのが…3番目なのじゃ。なんなのじゃ?」
「3に『こんな目に合わせた俺のことを嫌わせること』か?簡単。嫌なのに無理に連れて来られたんだから嫌うだろ。」
今村の簡潔な質問では二人は何が言いたいのか全く分からなかった。論点からして違う。
「何で嫌われたいの?」
「ん?そりゃ迷惑だし。」
今村は言い切った。
「行動がかなり制限される。それに、あいつらの将来まで俺が考えなきゃならない。志藤はかなり適当だし、今も手当たり次第に女を喰ったりしてるからいいんだが…マキアは俺に操立てる!と前世で宣言してから本気で実行中だからな…将来に差し支えが出る。」
今村の溜息に幼女たちは敵意を持った。
「酷いの。相手のことも考えてあげるの!」
「独り善がりの善じゃ相手も浮かばれないのじゃ。」
そんな二人の言葉を今村は鼻で笑った。
「俺の一生は後、50年。あいつらはほぼ永遠。俺は転生をもうしない。つまり俺のことをこれから先に仮に好きになったりでもすれば神生の無駄遣いだ。早めに終わらせないと。」
おそらく今村は転生しようと思えばできるだろう。しかし、前世から今世にかけての魂の劣化具合から考えると『八王』…それに咲夜を抑えることはできない。
つまり、多くの世界を滅ぼす代わりの転生だ。今村はそこまで自己評価が高くない。自分が滅びた方がいいならそうする。
「祓に関しても…世界が狭すぎる。嫌われるくらいさっさとやって視野を開かねぇとなぁ…やたら『スレイバーアンデッド』の消去が上手くいかんが…何とかしないとな。」
本っ当に年取ったなぁ…あの程度の術式も解けないとは…とまた溜息がでる。
「でも、そう言うのは良くないと思うの。やるとしてもちゃんと説明しないとダメだと思うの。」
「言った。全く聞き入れなかった。死ぬなんて言うなの一点張り。どんな説明しても俺が生きてたら世界が滅びるっつっても世界が滅びた方がマシとまで言いやがった…狂ってる。まぁ俺の近くに居ればまともにいられないだろうがな…」
今村は自嘲気味に笑った。
「そんだけトラウマが根深いんだろうな。これは時間経過で治すしかないが…で4に『怖がり解消』これはそのまま。一応神なのに妖にびびってたらアレだし。」
先程の話がまだ納得いかない二人は唸りながらこれには何も言わなかった。
「5に『学校外へのパイプ作り』…まぁ、これは俺の学校って名前だけの施設だし一応外部へのパイプが欲しかった。6の『怨霊などが集まって更に増えていく負の氣を集める』は俺の力集め。7の『文化祭の観察』は元々これを思い付いたきっかけだが、…まぁ色々考えてたら大分優先順位が下がってた。」
今村の説明にメリーちゃんと市子は考え込んでいる。未だに嫌われることについて考えているのだろう。
「他にも一応色々考えてたが、…まぁ忘れた。」
「…メリー決めたの!付いてくの!」
「……なんでなのじゃ?」
今村の説明が終わるとメリーちゃんは何やら決心したようにそう言った。それに市子が質問を入れる。
「…しえるの。」
「…なのじゃ。…いい考えなのじゃ………私たちもれでぃなのじゃ。恋する乙女…ため…頑張る…」
「多分…恋する…なの。手助け…なの。」
突然始まったひそひそ話。今村は目の前で行われているそれを聞こうかな?と思ったが、何やら別の感覚が来たので気を逸らす。
「ん…?マキアがセクハラ受けたな…いっつも俺にしてるからいい気味だ…」
今村が仄暗い笑みを浮かべていると話はまとまったようだ。二人とも今村の学校に着いてくることになった。
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