7.鬼ごっこ?中編
すみません…
「死香楽王!」
「…おぅ。当て字派か君らは…」
火、水、風、土、雷、金、闇、酸、光、氷、無、思念、その他諸々の銃弾の雨であらかた殺した後に味方を盾にして生き残った者たちが今村を見て名前を呼んだ。
【死香楽王】。今村と敵対するくらいなら死んだ方が楽という意味と快楽の為に死の香りを漂わせているという意味の掛け合わせだ。
今村個人的には【冥魔邪神】より捻りがあって好きな異名である。ただ、若干の問題がある。
「でも信楽を髣髴とさせるからなぁ…俺、狐なんだが…」
「えぇい…ごちゃごちゃと…!」
「ってか、その名前で呼ぶなら上の階層の狂信者か~まぁどちらにしろ死ね。」
高速詠唱を行い、無駄に高速会話で相手に聞こえないスピードで独り言を言った後に術式を展開。次々と侵入者を昏倒させ殺していく。
「ちっ!」
そんな中、今村の背後から無音で側頭部への蹴りを放つ者が居た。そいつは舌打ち混じりに今村に蹴りを躱された後、白いコートを抑えることもなく無表情で着地する。
今村はそのコートとそこに書いてある左右非対称の幾何学文様を見て相手が誰だか分かった。
「…サイレントワーカー。か、まぁ結構不味いねぇ…」
嫌な気配はこいつか…と苦笑いをする今村。対するその男は無言のまま構えを作る。
「なぁんで人が平穏に暮らしてんのにわざわざちょっかいかけに来るんかねぇ…暇なの?」
「存在が罪の者が…人を騙るな。」
「言葉の綾ってやつだよ。全く、頭固ぇなぁ…だからお前らは終わった世界ばっかり創るんだよ。馬鹿どもが…」
今村が嘲笑の笑みを浮かべると同時に白コートの男は突撃して来た。今村はそれに笑いながらタイミングを合わせてクロスカウンターをぶち込む。
男は自分の推進力と今村の攻撃の威力によって弾き飛ばされた。
「くっ…」
「オイオイ色男。折角の面が歪んでるぜ?」
空中で捻りを入れて体勢を整え、壁に垂直に立った男に対して今村は完全に悪役の台詞を吐きながら続きの攻撃を入れた。
「今回は…すぐ終わらせるし、あんまり強くないし…『死神の大鎌』の気分かな。『ウォドゥオション』」
今村は漆黒の鎌に金の意匠を施してある鎌を出すと一気に相手の生命力を奪いにかかる。男も諦めが入った。
その時だった。
「見ぃつけた!ってアレ…?」
両者の間に生徒が入ってくる。そして今村を見つけた途端に襲い掛かった。
「なん…ちっ!この馬鹿!」
完全に想定外のことに今村が白コートから目を離した瞬間、男は行動に移っていた。
「光の神々に栄光あれ!」
今村が黙らせる前に男がそう言い終わるや否や、男の体はまばゆい光に包まれ、そして一気に爆発した。
「あ、こりゃ普通にヤバいな。死ねる。」
「…そんな早口で、呑気なこと言ってないで…?」
目の前の光景に今村がこれからじゃ逃げれないし死んだかな?と思ったところに咲夜が現れた。その手には【破壊竜】が血塗れで引き摺られている。
「じゃ、話は後で…僕を飲み込んでからね…?」
「…は?」
いや、あれどう見ても第一世界のレベルの物だし普通に封印状態じゃ死ぬんじゃ…?と思っている途中で咲夜は光を包み込む。
結果、咲夜は普通にズタボロになっていた。が、本人は無表情に今村に頼みごとをする。
「…じゃ、取り込んで…?」
「………いや、俺が死ねばよかったのに、何してるの?」
「…そんな悲しいこと許さないから。僕が生きてる限り…」
「…今からある意味、って言うか死ぬんだけど。」
取り込むにしろ、しないにしろ、肉体の死は迎える。簡単でかなり効果を抑えたがそれ位の攻撃だったのだ。
「うん。…早く。」
「…まぁいいけど。…これでコンプリートか…何かアレだな…」
「フフ…やっと一緒になれたね…」
「…意味が違うって言うか、何か怖い。」
今村は苦笑いしながら詠唱を行い、咲夜を塵にしていく。その途中で「死神の大鎌」の「ウォドゥオション」のことを思い出して生徒の健康の為に「死神の大鎌」をしまっておいた。
「…さて、気になる事…あるよね?」
「…ん~まぁ、熊ちゃんの結界が壊されたことは想定外も想定外だったな。アレかなり控えめだったけど、少なくとも今回参加してるメンバーだったらお前しか壊せそうにない奴だったのに…」
まぁその件については今村は結構親しくして、俺の一部になってたけど自殺願望がちょっと出たのかな?程度で済ませている。
「…僕、聞いて来る。」
「ん。じゃあよろしく。さて、俺の方は…」
結界が破壊された。もの凄い爆発が起きた。…つまり、鬼ごっこに於いてこの状態はもの凄く危険である。
「いた!先生覚悟です!」
「…まぁ始めるっつった奴が途中放棄もアレだしな…アレだけ色々準備しておいたんだし…」
結構疲れ気味の今村は大量に現れた生徒たちを前に少々の間考えて手を叩いた。
「鬼さんこちら。手の鳴る方へ。」
「見つけましたよ~!」
「覚悟するのじゃ!」
「おぉ…何でお前らが居るのか全くわかんねぇし、誰が好きなのかかなり気になる所なんだが…まぁ盗ってみな」
今村は不敵な笑みを浮かべながら逃げて行った。
「…何…考えてるの…?」
今村の表層心理。思念体となった【大罪】たちが集まるホールにやって来た咲夜はその場にいる【大罪】達を睨みつけた。
それを平然と受け止める者、苦い顔をしている者…そのほか多数がいたが、その中に居た平然と受け止めている者、【暴虐熊】が口を開いた。
「ん?僕らの王子の幸せだよ?【憂いの終焉鬼】ちゃん。」
その言葉に咲夜はきつい視線を向ける。
「…まず、部外者が入って来た時点で気付いた。…それに、アレは偶々来たんじゃない…何かの餌があって来た…」
そこまで話していて【破壊竜】が頭を乱雑に掻き、その先を遮った。
「あぁ正しい。お前が俺と戦ってる間にしてた推理は合ってる。」
「…じゃぁ。ここに居る全員が仁さんの…敵なのね?」
瞬間、明確な怒気が発され、ホールが揺らぐ。
「ゴミ共め…あの状態で私を入れれば…仁さんはもう50年位しか生きられないって分かってて…やったの?ねぇ?」
「…いや、それはちょっと違ってね…」
それには【暴虐熊】が苦笑いで応じる。が、それより先に【孤高狼】が止めた。
「こいつの提案で全員が同じ意見になると思いますか?」
「…どういうこと…?」
「あなたは【破壊竜】が別の方角をかなり気にしていたから勝てたのは分かってますよね?」
咲夜は黙って頷く。
「それに、表面に出た私たちが5人しかいなかったのも気付いてますよね?」
「…だから…?」
「残ったのは私と色惚け蠍です。」
咲夜は【孤高狼】が言わんとすることを考えた。
「…何?必要性を感じてもらってもっと使われたいとか思ってたの?」
「いいえ?それならば私は発案者をぶち殺してます。我が君の御身を第一に考えない屑は八つ裂きにして擦り潰し、毒草の養分にしてますよ。」
凄味のある満面の笑みでそう言うと、【孤高狼】はホールに扉を呼び出した。
「…これは?」
「…つまり、これから先の話は我が君にも聞かれたくない話です…いえ、聞かれると我が君が困ったことになるという話です。」
昨夜はじっと扉を睨みつけた。
「…もし、つまらない理由だったら…」
「…そんなつまらない理由で我が君を危険に晒すわけねぇだろ屑。さっさと入れ。」
豹変した【孤高狼】によって咲夜は連れられ、その後を【大罪】たちが追って移動して行った。
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