18.マジックアーケード
「……そう言えば先生……妹さんのことをアレ呼ばわりする割にはお二人で買い物って……」
路地裏で仲いいんですねと続けようとした祓の言葉は今村の声によって斬り捨てられた。
「あぁ、あいつ今日誕生日だから仕方なく。」
「……でも妹さんのプレゼントを……」
「そりゃまぁ曲り何も兄なんでな。……まぁそれに共働きの両親に代わって料理全般あいつにやらせてるし……」
軽い外道だった。そんな外道の言葉を受けて祓はほんの少しだけ声を弾ませて告げる。
「……その、でしたら……私が毎朝、朝食を作りましょうか?」
「……順接の意味が分からない。」
今村は本当に困惑して言った。
「妹さん大変そうですし、私は料理作るの好きですし、一人前も二人前も大して手間は変わりませんし、私だけで食べるんじゃ味に偏りができるかもしれませんし……」
祓の怒涛の説得に今村もちょっと気圧されながら頷く。その返事に祓は満足したようだ。
「では、明日からいつもより少し早めに『館』に来てもらえますか?」
「……あんまし早起きしたくねぇなぁ……」
ボヤく今村。祓が少し楽しげなのに全く気付かない。そんな今村は全く違うことに気付いて祓に尋ねた。
「そういや祓、お前何でここにいるんだ?」
「……先生を追ってですが……?」
男女が逆転していたら完全に通報物の答えを出す祓。だが今村の求める答えではなかったので今村は首を振る。
「あー違う違う。ここに来たのはそうかもしれないが、こっち方面に来たのはそれが理由じゃないだろ? こっち方面に来て偶々俺を見つけたんだから。」
「えぇと……」
祓は最初から最後まで今村を追ってここまで来たのだが今村の中では違うプロセスでここまで来たと判断しているようで、祓が悩んでいる間に勝手に答えを出し、口を開く。
「お前、『マジックアーケード』に(今から)行ってるだろ?」
「え、はい。(結構)行ってます。」
「ちょうどよかった。俺も連れて行ってくれ。何かこの辺りに変な歪みがあるのは分かってるんだがその方向にまっすぐ行く為に家を破壊するわけにもいかんしな……」
微妙に食い違いの出たまま二人の意見はまとまり、祓は今村を案内することになった。二人で歩くこと5分。目的地に着いたようで祓の足が止まり今村も足を止め、縦一列に空間を凝視する。
「ここ?」
「ここです。入りますよ……」
二人は空間の隙間からそのエリアに入って行った。
中は雨が降っていなかった。路上では多くの人々が露店を営みながらどこの店が出品しているのか言い、宣伝している。そしてその奥には扉だけがたくさんあり、どれも看板がかけられていた。
「は~やっぱ実際に見ると奇妙なもんだな~」
今村は扉を見て感心した。
この扉は空間魔法でどこか別のところにある店へと繋がっている入口で、ここに来た客は扉を潜って店へと行く。そのためここには扉しかないのだ。
「……にしても色々多いな……お、獣人だ。」
今村は道行く狼男を見て幾ばくか嬉しそうにそう言う。そんな今村を見ながら歩く祓は今村の独り言の疑問に答えた。
「雨ですと外を出歩く人が減りますからね。この時期はここに来る者が多いんですよ。」
「そーか。……じゃ、案内ありがとよ。もう大丈夫だから好きな所行って……」
「折角ですし、一緒に行動しませんか?……迷子になりそうですし……それに……何かに興味津々になって先生が明日、学校に来なかったら困りますし……」
今村は迷子になりそうという言葉を否定できなかった。それに続く言葉にはもはや反論の余地が全くなかったので今村と祓は素直に二人で買い物をすることになる。




