さぁさぁ皆さんお立合い!
―――どうして?何で…?―――
その思いが胸を締め付け、そしてあまりの苦しさに目覚めると安善はベッドに寝かされていた。その顔を覗き込むようにしてダクソンが笑う。
「よかった…」
「よくない!」
「「え?」」
安善の薄い桜色の唇から可愛らしい声が聞こえるとダクソンも安善も首を傾げた。
「わた…喋れ…」
「おぉ…」
「奇跡ですねぇ!はいっと!」
その直後だった。混乱する二人の前にいきなり聞き覚えのない声が聞こえたと同時に世界が白黒になり、その色が反転した。
「…え?」
「はぁはぁ獣っ子!はぁはぁ…」
何かヤバい人がいた。中性的な顔立ちで白のシルクハットに純白なタキシードと言うかなり珍しい恰好で、かなりの美形だが、涎を垂らしていて台無しだ。
「え…えぇと…誰…?」
「獣っ子を愛する愛の伝道師。ケモケモナです。…まぁ嘘ですけど。ところで、仁様の知り合い?」
ケモケモナ(仮)の言葉に安善は目に涙をいっぱいに溜め始めた。
「す…わ…私…捨て…捨てられた…の…」
「ホウホウ…あの朴念仁様は…獣っ子を泣かせますか…許すまじ!」
拳を振り下ろすと白色になって固まっていたダクソンの像が破壊された。
「失敬。てへ。」
そう言ってケモケモナ(仮)は一瞬でダクソンを治す・
「…何で…捨てられたのかな…鬱陶しかったのかな…?」
「…あ、ところでハニー。その【怨呪】…あ、察し。」
泣きじゃくる安善を前にケモケモナ(仮)は何かを悟って頷きまくった。その影響で残像が出来、ソニックブームで軽く家が壊れる。
「…何で私嫌われちゃったんだろ…」
「いや、結構大事にされてるよん?えぇと…【大罪】って知ってる…訳ないか。知ってたら何のために私たちが頑張ったのか分かんないしね。」
「え…?」
ケモケモナ(仮)はにっこり笑って腹話術を開始した。
「【大罪】は、まぁ概念的なもの。この世界って【全】って神様が創ったんだけど元々は【13族】と【大罪】がいて、陰陽が成り立ってた。【13族】が創り、【大罪】が壊すって感じで。」
「…あの、ご主人様の話の部分だけでお願いします…」
話が長くなりそうだったので安善はケモケモナ(仮)にそう頼んだ。ケモケモナ(仮)は分かったようなわかっていないような返事をする。
「あぁ、仁様はその例外、自分で自分を創造した14番目の者で、レーゾンデートルが何なのか分からないから自分探しの旅に出ました。偶々いた所に【大罪】が一つ【暴食】が来て、『何?喧嘩売ってんの?』って感じで吸収。その時の戦いが何気に楽しかったらしく【大罪狩り】に出かけたとさ。…信じられるかい?【大罪】は一体に対して【13族】の二つの族全部でかかってようやく互角なのに、彼は一人で食べたのさ。まぁ…【憂鬱】とは友人になったらしくて食べてないらしいけど…」
ケモケモナ(仮)はそう言って楽しげに笑った。
「で、彼は一応【陰】がなくなると困るという事で代わりに石を蒔いたのさ。…正直、あれは化物としか言えなかった。規格外の化物。…でも、そのお蔭で理不尽に破壊される世界はなくなった。そして【13族】は繁栄した。」
「え…っと…」
「あぁ、話が長いって?まぁその後は調和を乱すってことで世界の創り直しをしようとした【全】と彼で戦争。その後なんやかんやあって今に至る。…さて、私は誰でしょう?」
「わかんないよ!」
思わず叫んだ安善。それに対してケモケモナ(仮)はドヤ顔で笑った。
「獣っ子を愛する愛の伝道師!それと仁王様に即位して欲しかったのにゴミ屑の所為で台無しになったあの世界、そしてさっき【虚飾】の所為で滅んだあの世界の最上将軍!玻璃だ。」
「え…えっと、それと私に何の関係が…?」
キャラが掴めない玻璃に少し引きながら安善はそう訊いた。
「俺は、あの人に【嫉妬】から助けてもらった恩義がある。それに悔やんでも悔やみきれない後悔もある。…そこで、【八大罪】の仇敵と見做されている君を…」
「え…何でそんなことに…?あ、もしかして…それとなくご主人様の中に化物がいるって教えてくれてた時に完全否定しちゃったからかな…」
安善の言葉の遮りをなかったことにして玻璃は続けた。
「君を!その仇敵で【大罪】を起こしやすいというデメリットを打ち消すような傍にいて欲しいというメリットを付けて!プロデュースするのが俺の役目だ!」
「え…ご主人様が私を必要としてくれるようにしてくれるの!?」
「俺だけじゃ無理!君も考えて!ほら!レッツシンキング!…あ、レッツ仁王!」
突如、玻璃に【怒り狂いし破壊竜】のブレスが襲い掛かった。…結構苦しんだ後玻璃は頑張って立ち上がる。
「ぐ…俺は…もう駄目だ…後は…頑張って…」
「何しに来たの!?」
「君を愛でに来たのさ!HAHAHAHA!」
「治った!?」
「…いや…結構ギリギリ…仁様が弱ってなかったら俺消し炭だったと思う…今、俺の中ウェルダン。」
吐血。ダクソンが血にまみれた。
「…ダクソン血、ダクダク…よし、面白い。」
「ちっとも面白くないよ?」
「手厳しい!だが…俺はMっ気もある。寧ろ回復だ。ありがとう。良い薬だ。」
玻璃は良い顔をして安善に手を出してきた。
「ここで決め顔!?あ、後、私もうご主人様以外の男に触れないから!」
「俺、女!ヘイ!」
玻璃は急に全裸になった。…スレンダーなその体が惜しげもなく見せつけられる。
「ハッハ~!どうだ!貧相だろ!」
「……もう…何か疲れた…」
「そりゃいかん。早いところ強くなって、仁様にご奉仕しないといけない大事な体が…」
あくまでふざけ続ける玻璃に、安善は取り合わないことにして今、一番不安なことを訊いた。
「…ご主人様…私のこと嫌いになってない…よね…?」
「多分。俺の世界がいたく気に入ってたみたいだし…仮に嫌ってても結構適当に許すと思う。だって面白ければ親でも殺す狂った世界出身と気があってたしな。」
…それは、どうなのだろう。安善は思ったが口にはしなかった。
「まぁ、仁様の方は色んな世界を回ってたし、独自の倫理観が形成されてたから大分まともだけど…それに、」
「…それに?」
「…君の記憶を視させてもらってたよ、欠けてた部分も…」
安善は驚いた顔をする。少なくとも今村から教えてもらっていた術を掛けて警戒していたのにあっさりとそんなことをされていたことに気付けなかったのだ。
「…君が、ここに来る前に彼から聞いた言葉を思い出しなよ。」
「…『幸せになりな』…」
「うん。彼、自己評価だけひっくいのが難点。後、何気に抜けてるとこは…可愛いって思えるけど…」
「…玻璃さんは…ご主人様のこと…好きなの…?」
「あぁ、間違いなく愛してるね。獣っ子並に。ハハハハハ!彼が集団の中に居るのが嫌いじゃなくなったら迷わずハレム行きを決める程度には大好きさ。…ただ、」
玻璃は悲しげな顔をして安善にも聞こえないように呟いた。
「…彼は…本来誰も必要としていないんだけどね…寧ろ関わって欲しくないとすら思っている…」
その顔も一瞬だけ、すぐに明るい顔をして安善を見据える。
「さぁ!このロリコンは別の記憶と綺麗な奥さん付けておくから安心して修行しよう!行くぞ!」
「あ…はい。」
勢いに負けて頷いた安善。しかし、その後全裸だったことを思い出して玻璃は新しい家庭をもったダクソンの家に突入して修羅場を作り上げた。
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