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例外者の異常な日常  作者: 枯木人
第八章~八大罪とその主~
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11.三文芝居 演目悲劇

「なぁ安善。お前、ダグラスのこと好きか?」

 ―――え~?ご主人様の方が好きだよ~―――

「…ダメだ。全く以て何言ってるか分からん…」


 今村は安善と睨めっこしていた。時折、安善は今村にキスをしようとして阻止されている。


 ―――何でそんなに何回も聞くの?―――

「…今回は聞き取れた。翻訳機があんまり仕事しないな…大事なことだからだ。もっかい聞くぞ?ダグラスのことどう思ってる?」

 ―――ご主人様が大好きだから…別にどうでもいい…って言ってもまた同じ質問されるんだよね…―――


 質問に対する安善の声は今村には聞こえない。祓が痛々しそうな目でここに来る前に安善に忠告しておいたがそれも意味をなさなさそうになって来ている。

 今村が無駄に粘ったのだ。安善は繰り返される問答に飽きた。


 そしてついに…


 ―――それなりに…好きかな…?でも、ご主人様の方がもっと好き…きゃうっ!―――

「そうかそうか!よく言ったな!いい子だ!」


 言ってしまった。満面の笑みで安善を抱きかかえる今村。安善も今村が嬉しそうなのを見て何だか嬉しくなり、尻尾をばしばし揺らしている。


 ―――聞こえた!?―――

「あぁ、そうかそうか。良い子だ!」

 ―――大好きだよ!―――

「それは良かった。」


 歪んだ笑みを浮かべる今村。それと同時に安善を降ろすと祓を連れて別室に逃げ込んだ。


「あぁああぁぁぁあぁっ!あいつが幸せになるなんざ…許せねぇよなぁ…?私は私のものであってあいつは悲劇のヒロイン気取って好きでない男とでも一生暮らせ…その前に八つ裂きにしてくれる!あぁ…死ねばいいのに…虚無に還りなよ…『封全大社』!」

「先生…」


 今村が狂ったように空を仰ぎながら叫ぶ。その前に、遮音壁を作っていたので外には漏れなかったが、祓は今村を悲しそうな目で見た。


「…あぁ…いつも通り少し狂っただけだ。気にするな。」


 今村は不敵に見えるように笑った後、そこに備え付けられたベッドに身を投げた。


「…遮音はしてた…よな…?」

「はい…」

「…因みに俺…今なんて言ってた…?」

「八つ裂きに…など…ですかね…」


 祓の言葉に今村は嘆息した。


「…言質も取ったし…早いところ実行に移すか…殺してしまう前に。」


 今村は自嘲の笑みを浮かべてダクソンに伝わるようにある噂を流した。



















 ―――どうしたの~?―――

「…ちょっとだけ大人しくしてろ。『テレパスハック』」


 今村はその後、安善の四肢を縛り上げた。


 ―――え?何?何?―――

「…まぁ、今からお前にとっていいことが起きる。それまで少し待ってろ。」

 ―――え…もしかして…発情期の続き…?―――


 途中から「テレパスハック」が作動して安善の声はこの場の誰にも聞こえなくなった。そして今村が時計を見るとそろそろ12時になる辺りに差し掛かっていた。


「…そろそろだな…さて、精々悪役となるか。『邪神発剄』!」


 今村は邪氣を纏うと扉を睨みつけ…しばらくそのままの状態で待った。


「…目が疲れて来た。」

「…一度やめたらどうですか?」

「…いや、もう扉の前に居るんだが…はよ来いや。」


 小声で会話していると勢いよく扉が開け放たれた。


「い…今村…!きゃろ…じゃない、安善ちゃんを放せ!」

「ハハハハハハハハ!何を馬鹿なことを言ってるんだ?せっかく育てた奴隷を誰が手放す?」


 何かノッケから失敗しまくりのダクソンに今村は一瞬どうするか悩んだが、悪役を続行することにした。


「色々卑猥なことをしたらしいな…酷い事も!」

「これは俺の物だ。持ち主がどう物を扱おうと自由だろ?」


 今村の言葉に安善が目を輝かせる。ダクソンはそれを助けが来たという事に対する希望の光が差していると勘違いして話を進める。

 安善は今村がそんな事していないと弁解しようとするが、「テレパスハック」でその言葉は通らない。

 それを見越して今村はこの能力を使っていたのだ。


「…この世界で…いや、色々奴隷の子供たちに関わって分かったが…人はものなんかじゃない!それに…何で、安善ちゃんだけ酷い目に…?」

「こいつがお前のことを好きだとかぬかすからだ。人のものになりたいなら俺は要らん。」


 今村は冷淡な目を安善に向けた。安善がその目を受けて凍りつく。そして必死に弁解しようともがき出した。

 ダクソンは怯えていると判断して今村に襲い掛かる。


「テメェエェェェェェ!」

「『多重返しの復習法(ポリ・ハンムラビ)』」


 裂帛の一振りも今村に届く前に威力を何十倍にもして返される。


「ガハッ…」

「…どうした?その程度か?」


 血塗れになって吹き飛ばされるダクソンに今村は薄く笑みを浮かべてそう訊く。ダクソンはそんな今村を睨みつけて剣を杖代わりにして立ち上がった。


「ざっけ…んな…」


 今村の合図でバレずに、死なないように回復魔術を行使する祓。ダクソンは立ち上がった。


「あぁそうだ。安善にもこんな感じでやってたな。…そして最後は諦めるんだ。」

「ふざけるなぁぁっ!」


 その後も何度も何度も攻撃してくるダクソン。しかし、そのどの攻撃も今村には全く通じず、ただ、威力が増幅された自身の攻撃の反射を受け続けるだけだ。


「…て…………め……は…」

「…ここまで行けば…うん。」


 何度目の攻撃だっただろうか、今村は誰にも聞こえないようにそう呟くと祓に合図を出した。

 祓はかなり動くのを躊躇ったが、「スレイバーアンデッド」の効能が発動し、今村の指示通りにする。


「なっ…」

「祓?」


 今村が鋭く祓の方を見た時にはダクソンの傷は全快して、時空には穴が空いていた。


「逃げ…てください…」


 祓が使ったように見える今村の念動力でダクソンはその時空の穴に捻じ込まれる。その後、今村は安善の戒めを解いた。


 ―――ど…どういう事…?―――

「…まぁこんなのは柄じゃねぇとは思うし、【災厄の申し子】が言うにはおかしいかもしれんが…幸せになれよ?」


 今村は穏やかにそう言うと、安善の体を念動力で持ち上げた。安善は今から何が起こるか一瞬で把握して、今村が自身が全く望んでいない―――最悪のことを生そうとするのに気付いた。


 ―――いやぁあぁぁああぁああぁあぁ!!!!何で?私何か悪いことした?ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!許して!何でもします!お願いです!言うこと聞きます!良い子になります!だからお願いです!―――


 だが、その願いは「テレパスハック」で全く今村には聞こえていない。祓は安善が泣き始めた所で止めに入ろうとしたが、今村の邪氣の一部が変わりつつあるのを見て自制した。


「は…やく行け。」


 今村も自分の中で暴れる存在を自制しながら安善を時空の穴に投げ込もうとする。しかし、安善がそれに必死で抵抗する。それに対して今村は素早く術式を展開して手足を封じた。

 手、足、それら全て今村の能力で封じられている安善はそれでも何とかして今村と自分を一緒に居させようと最後の手段を用いた。


「グッ…噛み付きやがったか…思い人をボロ雑巾にされりゃあそうなるだろうな…」

 ―――違う!話を…話を聞いて!っぅ!―――

「でもなぁ…俺の体は猛毒だ…さっさと死ね…ぬ前に…逃げろ。」

 ―――あぁぅ…―――


 今村の言葉の前に毒にやられて弛緩していく安善の体。そして抵抗がなくなったところで今村は安善を時空の穴に放り込んだ。


「っは…はぁ…後これも。」


 今村は事前に行っておいたその世界で価値がある物もこれからの生活の資金になるように一緒に投げ入れた。


「ふ…っふぅ…俺のくせに俺に従わねぇなんざザケてるな。…まぁこれで落ち着くだろ。」


 今村も疲れたようにそう言うと、祓を連れて「幻夜の館」に帰って行った。




 ここまでありがとうございます!

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全盛期、相川だった頃を書く作品です
例外者の難行
例外者シリーズです
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