10.お話。いや、口論です。
元の世界の「幻夜の館」の部屋に戻ったが、一行は微妙に顔を引き攣らせて今村を見ていた。
そんな中沈黙を破ったのはサラだった。
「え…と、ひ…仁?今のは何じゃ…?」
「…まぁ世界を喰ったって感じ。うん。ドン引きしていいよ。あ、でもこのことはさっきも言った通り内緒ね?『言限呪』」
今村は微妙な顔をして3人に呪いをかけ、このことを他言できないようにした。彼女たちは普通にそれを受け入れた上で会話を続ける。
「なぜそんなことを?」
「…中二でも何でもないんだが、俺の中の俺が暴れて…詳しく言ったらその場で俺が抹殺すると思うから言えないが…大体そんな感じ。まぁ今は結構な量の魂喰って落ち着いてるけどな…」
何とも言えない答えを出した今村。ヴァルゴはそんな今村に近付いて見上げた。
「…落ち着けば大丈夫なんですね~?じゃあ結婚しましょ~!」
「…脳味噌沸いてんのか?そんな意味で落ち着くわけじゃねぇよ。」
苦笑気味の今村に対して3人は固まった。そんな中震える声でヴァルゴが今村に訊く。
「き…聞こえたんですか~?」
「…この距離でその音量で聞こえない方がおかしいだろ…ってアレ?聴覚が消えたな…成程。これを見越してのって何してんだ…?」
納得していた今村の目の前でヴァルゴがサラと祓に吊り上げられていた。
「吐け。何をしたのじゃ?」
「し…知りませんよ~!大体知ってたらもっとアプローチかけてます~!」
「…こんな幼い見た目だとあんまり拷問に掛けたくないんですが…早く教えてくれませんかね…?先生直伝ですからもの凄く痛いですよ…?」
「し…知りませんって…うぇ…」
「…虐待にしか見えんな。それ。」
今村が窒息しかかっていたヴァルゴを救出。美女と美少女が美幼女を虐待する図を何とかした。
「…何言ってるか聞こえんぞ?」
「…やっぱり今のは偶然ですか~。」
「…じゃが、こういった千載一遇のチャンスもあるという訳じゃな。…面白いのう。燃えるのう…」
「…そんなゲーム性求めてませんから…」
三者三様の反応を示す。今村はそんな三人を半眼で見る。
「…で、お前ら俺が怖くないわけ?」
「…?主、仁は何を言っておるのじゃ?」
「…怖いなんていう訳ないという答え待ちの質問ですかね?」
「全然怖くないですけど~?」
今村は溜息をつく。
「幸せが逃げますよ~?あ、今すぐ私と幸せになりましょ~?そうすれば逃げた分が帰って来ますよ~?」
「…元々ねぇよ。後、お前の提案もない。…あぁ聴覚が消える!話が進まん!」
「…フム。またチャンスを逃したようじゃの。」
今村が全員睨んで会話をさせるように言った。
「…で、俺と居れば『間違えた。』で消される可能性があるのに怖くないのか?って聞いてんだよ。」
「フム。元々あの愚か者どもの所為で死んでいたという事を踏まえると主に消されてものう…」
「…というか、私既に死んでますし…」
「私もあの時死ぬつもりでしたしね~…」
今村は黙った。そういえばこいつら死んでも天界なら天界、地獄なら地獄と自分がいた所に戻るだけだったし、祓は既に死んでいる。
「…祓は…まぁ『スレイバーアンデッド』の所為で俺と始終一緒に…」
「!それって死んだときに使うアレですか~?…って…ことは…」
「…それは何じゃ…?」
「…脳に栄養が本当に行ってないんですね~…その程度のことぐらい知っておきましょ~?」
今村の言葉を遮ってヴァルゴが反応してサラが首を傾げる。そして口論が始まった。
「…両方とも可愛かったり美人だったりするのにねぇ…勿体ない…まぁ個人的にはキャラ立ちしてていいと思うけど。」
「…先生。私はどうですかね…?」
「…いんじゃね?」
かなり適当な今村の言葉に祓は眉を下げる。その終盤戦で今村は急に耳が聞こえなくなった。
「何?主も仁が好き?はっ!笑わせてくれるのう!生れたばかりのお子様は恋に恋してママのおっぱいでもしゃぶってればいいのじゃ!」
「私は卵生です~!おっぱいとか言ってそんなに自分の胸を自慢したいんですか~?他に優れた所がないからそこしか言えないんですね~本っ当に可哀想です~!だからあなたこそ仁さんを諦めて自分の家に帰ってママのおっぱいしゃぶってればいいんですよ~!」
「生憎じゃな!妾の母親は大分前に死んでおる!」
「私のママだって死んでます~!」
睨み合う二人。生暖かい目で見守る今村と祓。
「決めたぞ。主にだけは絶対に負けれんからのう…是が非でも仁を手に入れる!」
「はぁ~?冗談はその胸だけにしておいてくれませんか~?仁さんはあなた以外の女性でハーレムを作るんですよ~!」
「ハーレム?仁はそんなの望んでおらんと思うがな!」
「それでもそうじゃなきゃ逃げますよ~!付き合いが短いあなたにはわからないと思いますけどね~!」
「…そろそろ飽きてきた。」
今村が携帯電話を取り出して右と左に別の音声を入れる。
「…どこに連絡したんですか?」
祓が訊くと今村は無言で窓の外の空を見上げた。すると背に純白の羽を持った男が降って来た。
「ヴァルゴ様!お迎えに上がりました!」
「…何で休憩時間なのに帰らないといけないんですか~?」
ヴァルゴは窓を突き破って入って来てすぐさま跪いた男をガラスが髪に乗ったままイラッとした顔で出迎え、威圧を飛ばした。
「新しい案件が入っております。お早目に戻らねば計画が先送りになりますぞ?」
「…後でお説教です~…」
ヴァルゴは髪に交じっていたガラスを男の羽に突き刺した後今村を見た。
「…それでは名残惜しいんですけど「この痛みが俺を更に強くする!」うるさいですよ~!?」
「がはっ!小さなあんよ…とても…いいです…」
男は失神した。
「アッハッハ!面白!じゃね。」
「か…軽いですね~…行ってらっしゃいとかのちゅ…「まだヴァルゴ様には早いです!」だからうるさいです~!」
男をぶちのめしてヴァルゴはしまりの悪くなった空気の中出て行った。
ついでにサラの方も同じ様な目に遭っていた。今村はその様子も見て嘆息する。
「…俺の訓練ってさぁ…ドМ量産することがあるんだよね…これはどうしたもんだか…メニューの再考が必要かな…」
「…気にしたら負けなんだと思います…」
そんな話を続けているとサラが男を踏みながら今村の方を振り返って言った。
「仁!妾の方もいろいろ忙しいのじゃ!また地獄に来るが良い!」
「はいはい。じゃあね。」
今村はこちらもぞんざいに送り出した。
「それじゃ、本題に入りますか。」
「えぇと…?」
本題をすっかり忘れてしまっていた祓。今村はそんな祓に目的を思い出させる。
「安善とダクソンの行く先。お前らは俺を怖くないとかほざきやがるが、あいつは…」
「安善さんも大丈夫だと…」
「無理、あいつが俺に触れたことで俺が大怪我しただろ?それで近くに居れば…まぁ俺の中の俺がキレる。ってか、目の仇にしてるしな。」
祓はなおも言い募ろうとしたが、今村の目が赤くなっているのに気付いてそれ以上何も言えなかった。
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