3.イカレたお茶会
「それでは私の戦闘条件はいつもと同じです。」
そう言って恭しく一礼をしていた今村はティーセット一式を出した。
「戦闘勝利条件はあなた様の体力の全回復。及び気力の回復。そして、くつろぐことです。」
「今年もそれでいいのか。じゃ、休憩しようか。」
今村は休憩に入った。先程の激闘に比べるとあまりにも気の抜けたやり取りだが周りの空気は一切変わっていない。
そんな中当事者二人は和やかに戦闘と言う名のお茶会を始めた。まずは【妬み嫉む孤高狼】が今村に白磁の綺麗なカップに紅茶、そして何かの蜜のようなものを注ぎ渡した。
「それではどうぞごゆっくり…」
そして一礼して下がる。それを受けて今村は紅茶を飲んで後ろに控える【妬み嫉む孤高狼】に訊いた。
「うん。お、これいいね。良い感じの甘さが出てる。何て毒?」
「こちら最近交配させて新しく作った神喰植物が、神を捕食する際に出す神経毒と髪を呼び寄せるために出す蜜を2対1でブレンドして煮詰めた物です。今年も毒のランクを上げました。お気づき頂きありがとうございます。」
慇懃に礼をしながら答える【妬み嫉む孤高狼】。だが、内容は明らかにとてもではないがティータイムと言えるほど穏当なものではない。
神喰植物の出す毒は猛毒で、一般の神であれば自然に出される毒のほんの一滴で昏倒する。しかし、今村たちはそれを煮詰めた状態でスプーン2杯くらい入れて和やかに談笑しているのだ。
「いや~…去年は毒耐性がまだ微妙だったから変な味のになったしな。」
「今年は『神核合成』済みですからね。久し振りの『神化』なので毒も奮発しておきました。」
「はっは。そう来ると思って耐性上げといた。…でも実際美味いよなぁ…こっちのクッキーは?」
「4兆年物の破壊神の涙と5兆年物の創造神の粉塵を練り合わせたモノに昔滅ぼした世界の希望の種を砕いて混ぜた物です。希望の種が良い歯ごたえなのでオススメです。」
「ほービンテージものか。」
誰も喜ばない組み合わせのそれを今村は普通に食べた。そして少し首を傾げる。
「ん~…絶望の種の方が良かったんじゃないか?多分食感だけならこっちがいいけど味も考慮すれば向こうの方がいいと思う。」
「あぁ…分かりやすいように最初の少し毒を多めに入れてますから…苦味が薄いんですよ。」
今村は最初の紅茶を空けると二杯目に手を付けた。
「あぁ…成程。」
「はい。それでは奇跡の水で一度口の中の味をリセットしてまた別の味を愉しみましょう。」
お茶会はまだ始まったばかりだ。
「…休憩しましょうか。」
「…ですね。」
―――うぅ…重い…―――
祓、安善、芽衣達三人は商店街を歩いていた。結果、本人たちが欲しいとも思っていなかったものを大量にもらうことになりかなり疲れていた。
尤も、欲しいと思っていなくても使えるので貰っておくのは忘れない。貰えるものは貰うし使えるモノは使うと今村から教えてもらっているからだ。
「…安善?重いなんて嘘でしょ…?」
―――重いよ。この前全力でご主人様に突撃した罰で『弱化』の呪いかけられてるんだから。―――
「…それは…」
「自業自得ね…」
安善の発言を疑問視した芽衣が底の部分を訊いてみると何とも言えない答えが帰って来た。それに溜息をつきつつ三人は喫茶店と思わしき店に入る。
それを見て更に多くの人たちがその喫茶店に入って行った。
「…人が多いですね。」
「人気店のようですね。」
―――ん~…ご主人様より祓ちゃんより美味しそうじゃない…―――
匂いで判断し、ストレートに意見を言う安善を芽衣が黙らせた。
「こういうのは雰囲気にお金を払っているの。祓さん。注文はおすすめメニューにしとく?」
「…そう…ですね。私はレアチーズケーキのブルーベリー添えの紅茶セットにします。」
「……じゃ…あ、私は…変えよ…」
因みに今村の好きなケーキの種類はチーズケーキ。ベイクドもレアも好きで、好きなジャムはブルーベリーだ。
―――私はお菓子作れないしいいや。今焼けてる良い匂いは…ピーチタルトかな?それにしよ!―――
「…そうですね。三種のベリータルトにします。」
「…先生が好きそうな味でしたら…」
「そちらこそお願いしますね?」
注文が決まった。3人はウェイターを呼ぶ。
「はい。すぐに迅速にただ今向かいます。」
気配的にずっとこちらの気配を伺っており、スタンバイしていた男が3人の下へ来た。
「ご注文は…こちらの方がお勧めですが?」
男が指したのはガトーショコラ。だが、三人は普通にそれをスルーする。
「ティーセット三人前で、」
「セットのケーキの方はいかがになさいます?」
「三種のベリータルトとレアチーズケーキのブルーベリー添え、それにピーチタルト…」
―――あ、私オススメって言ってくれたやつに変える!―――
男の顔が破顔した。もうにこにこしてみている方が気持ち悪いと思える顔だ。
「畏まりました。少々お待ちください。」
男は三人の目から見てもなかなかの速さと思える速さで動いた。
「…祓さん…何回か言いましたけどその胸何とかならないんですか…?」
「無理ですね。先生が大きい方が好きそうだったので隠す気もないです。」
芽衣がウェイターの注目―――引いては商店街の人々の視線を引いている祓の胸について言及して来た。だが、祓は全く隠すつもりすらない。
「むぅ…服の上からわかるって隠しようもないですしね…」
―――芽衣もおっきいじゃん…―――
安善からクレームが入る。安善も決して小さくはないのだが二人と並ぶと物足りないというところだ。
そんな感じで男子トイレが混むような会話をしているとすぐにケーキと紅茶が来た。それにサービスという事でシュークリームまで付いてくる。
「それではごゆっくり…」
やたら配膳に時間をかけていた男が去って三人は実食に移る。結果、何気にジャム系統が美味しく食べさせ合ったりして知識を深めることになった三人は満足してそこから出て行ったのである。
「あ~…『不死殺しの毒』とか珍しいもんばっかり食ったな。」
「はい。結構奮発しました。この辺で体力も回復なされたことでしょうし、私からは以上です。」
その頃今村の方のイカレたお茶会も終わっていた。今回のお茶会に使われた毒は最低最弱レベルでもボツリヌス菌のタイプH型の1000倍の毒素レベルだったという。
それらを平然と平らげて今村は次の相手に移った。
「それじゃ【怒り狂いし破壊竜】が行こうか…俺はまぁ…うん。面倒だし…今回はどうしよっかな?」
「…まぁ、お前は俺の中でも結構出やすいしな。」
「そだな。ん~…何にしようか考えてたが…目の前を行きかう毒物たちがあんまりにも気持ち悪くて考えてなかった。」
【怒り狂いし破壊竜】はそう言って考えた後、適当な試練を決めたようだ。
「それじゃ、始めよっか。」
第三戦が始まった。
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