15.帰りましょ
「ただいま~」
今村はにこやかに血を吐いて城に帰って来た。その光景に周りが悲鳴を上げる。特に驚いていたのが呼ばれて来ていた二人…アリアとアストーだ。
「ちょ…何で…?」
「あ、忘れてた。死にかけだったな~あっはっは。テンション高すぎると色々加減が飛ぶからなぁ…二人は悪いけどみゅうと協力して四次元生命体探して来て。これ治すから。」
「「すぐに!」」
二人は消えていった。そして残った元奴隷の子供たちを前に今村は挨拶をやり直した。
「よう!ごぷっ…」
また吐血。感覚的にあんまり問題ない気がしているのに吐血している今村は何が起きてるのか不思議に思い、軽くチェックした。
(…あ~声の出し過ぎで喉がいかれてるのか~)
自分が思っていたより更に大したことなかった。だが、周りの状態は最悪だ。今村は誤解という旨を伝えて全員を宥めてこの場を収めることに忙しくなる。
そして、何とか場が収まったところで獣人の女の子たちが今村に妙に迫って来た。
(…ん?さっき避けたからそれを誤魔化そうってか?別にいいけど…)
今村は色んなものにぶつけて微妙に元気がなくなっているライアーをちらっと見た。彼に逃げるつもりはなさそうなので今村は少女たちが言うままに別室に移動することになる。
「…まぁ…先程は私だけ先生の下に会いに行きましたから…仕方ないですよね…」
祓はアン、ミーシャ、メイ等の美少女に連れて行かれる今村を見送りながらそんな事を呟いた。
それを見ていたライアーが急に笑い始めて祓に語りかけた。
「質問です。俺は何で急にこの時期に戦争を仕掛けたと思う?」
「…先生が…」
「ハイ残念。答えは…もうすぐわかるからさっさと教えておこう。答えはこの季節が獣人の発情期だからさ。」
ライアーは得意げになって行った。その顔は縛られているのに嘲笑の姿にしか見えない。
「本当は彼が死んだから確実に勝てると思って戦争しておいたんだが…その後、手に入れた君たちを犯すときに大半が発情期だったら面白いだろ?口では嫌がっているのに体はどうしても反応する…ゴッが…それが見たくて戦争してたんだよ。」
祓が聞くに堪えないことだと判断して攻撃したものの、ライアーは黙らなかった。
「まぁ、実際は…帰って来られたから大失敗だったが…さて、何で俺は今そんなことを言ったと思う?」
そこで祓はハッとした。
「今の獣人の彼女たちは戦争という極限状態で本能によって種の保存を求めている。それにプラス元々発情期更に好きな人が帰って来た。しかも自分たちの為に戦ってくれた状態で、彼女たちの目にはもう彼しか映らない。イコール?」
「知ってたんなら言わんかい!」
今村が帰って来ていた。
「『眼』で見た時に発情状態って分かった時は何かと思ったが…そう言う時期で、本能とか…お前が植えたんだろ?その2つの本能。」
「まぁね。エロくていいじゃん。羞恥に耐えながら性欲を抑える女の子。可愛いじゃん。」
「…天眼で見てたわけか。」
「ご明察っ!」
とりあえず蹴っておいた。何となくムカついたからだ。そんな今村に祓が近付く。
「え…と。皆さんは…?」
すると今村はにやりと笑って何故か月美を具現化した。月美はその顔をほんのり朱に染めている。
「俺は触れてもない。だが、平和的に解決しておいた。…これ以上情報が欲しいならこいつに訊け。」
「…マスターは恐ろしい方です…」
祓は追及できなかった。それはそうとして、今村は鈴音のことをどうにかする必要があるという事を思い出していた。
「えーと、鈴音は…」
「あ、はい。何ですか?言っておきますけど帰りませんよ?」
「帰れ。」
今村は鈴音を「ワープホール」に突っ込んで地球に強制送還した。…が、何故か鈴音はここに戻ってくる。3回目の挑戦で今村は術式を止める。
「…?何でだ?空間魔法とか…いや、大体からしてお前が『魔法』を使うなんてことは出来ないはずだが…」
「その辺は努力で何とかしました。」
実際は今村がVRMMOの為の異世界を創っていた間にテンションが高いみゅうが鈴音の下に行って細工していた。でなければ鈴音は今村の補助なしに時空の狭間で生きているなんてことは出来ない。
理由はよく分からない今村だが、今の今村ではその効果を上回る術の発動はできないと判断し、諦めるしかないなと決め直した。
「…ところで、ライアー。この世界どうする気だ?」
「んー?別にどうも?人口が増えすぎてたからいい感じに減って丁度良かったし、後、僕の僕による僕の為の可愛い助手が寝取られたから新しいスペックの創らないと。」
「…寝取ってはないがな。まだ清い体だぞ?うん。」
その言葉に月美が顔を無表情を保ちつつまたほんのり朱に染める。
「…ってか、大体さぁ…君の所ばっかり可愛い子行くの不公平だと思うんだけど?」
「ん~?まぁでもアレだ。別に俺のこと好きってわけじゃねぇからなぁ…お前が望むことは殆どないぞ?ホレ。」
今村は自身の視界を少し弄ってライアーに貸してみた。
「ん~?頭の上から出てる赤い矢印は?」
「恋愛感情。」
「へ~…って、それなら俺も持ってるよ。」
「じゃあ貸した意味ねぇじゃん。」
今村は理不尽にライアーを蹴っ飛ばした。衝撃を一切逃がさないように無駄にどこかの流派の奥義を使っている蹴り技だ。
だが、ライアーは今村の目と自分の目で見ている物が違うことに気付く。
「え、待って、俺のと君の全然違うんだけど…」
「ん?同性愛とかアップロードしてねぇんじゃね?因みに俺の場合赤が恋愛で紫が…」
「じゃなくて、って嘘っ!」
実際にどこからか紫の糸が自分に繋がっているのを見て驚愕するライアー。だが、それはさておいて今目の前にいる超美少女から発されている物が全く見えていない今村の目と、下手したら視界を覆い尽くさんとする隣の魔神さまへの赤いものが出ている自分の眼。
これはどういう事なのか?と思っていると貸し出されていた目が今村に戻された。
「まぁ、萌芽まで含んでるからなぁ。俺の場合。うん。このダメダメっ子はまだ誰にも恋愛してないけど。」
「あう。」
そう言って今村は祓の頭をぐりぐり弄る。それだけで祓の顔はどこか幸せそうなのが下から見ているライアーはよく分かった。
「…成程。道具に頼ると目先のものまで見えないという事か…」
微妙に間違った解釈をしてライアーは納得した。
「ん?何の話だ?…まぁ特に興味ないけど。ってか、戦争とか危機的状況になったんだったら吊り橋効果的な感じで恋愛感情がもっと増えててもおかしくないのになぁ…さっき俺を犯そうとした愚か者たちは…若干一名萌芽している以外はなんにもなかったし…」
因みに萌芽は好意の萌芽で、レベル的に言ったらかなり低い。触れられてイラッと来ないレベルだ。恋とかにはまだかなり早い。
それまで見えるとなればもの凄く視界が悪くなるので今村は基本そんな感じで見てはいない。
…というより、基本的に特殊な目を使っていると生活に支障が出るので使わない。
「…ま、いっか。とりあえず今日はもう寝て、明日ゲネシス・ムンドゥスに帰りましょ。鈴音は…まぁ来る?」
「勿論です!」
「…後はまぁ…この腐れた世界に残るかどうか決めてもらおうか。『契制約書』で二度と侵略しないってさせるけどこの世界はもう嫌だって奴もいるだろうからな。」
今村はそう言って寝ることにした。
ここまでありがとうございます!




