11.最終日、帰る前に少し出かける
「…鬼だ…鬼がいる…俺はまだ甘かったんだ…」
「ケケケケケケケ…世の中なんてそんなもんだ。粗を探せば穴だらけなんだよ…どこの世界でもな。」
夜通し行われた会談によって陸奥は今村の考えを叩き込まれて若干引いた。そして、VRMMOの真実を知る。
「この目で見たからには認めるしかないよな…」
「幻覚かどうかも疑っていいぞ?純然たる事実の前に屈してもらうがな。」
今村はそう言って笑う。それに対する陸奥は引き攣った笑いしか出ない。それは驚くだろう、ファンタジーの世界が本当に会ったのだから。
因みに今村が創った世界は今回3つ。一つは地球と同じ第二世界に創った才能によって実力が発揮される本気でキッツいファンタジー世界。
また、世界の狭間に創ったほどほど能力補正がかかったファンタジーほのぼのライフの世界。(ここに今村は貿易の穴を隠している。)
最後に第三世界に創った地球組は完全に補正されるファンタジーライフ。
これだけの世界とそこに付随する生物、それに世界間への穴を一瞬で創り上げた反動で今村は瀕死の重体だ。
…まぁ、今村自身は気にしていないようだが…
「さて…これで俺にもいろいろ言うだけの能力があることは分かったな?」
「…はい。」
「じゃ、何か大きな契約とか決め事がある時は俺に連絡をするように。…あ、乗っ取りとか考えたら世界間の穴を塞いで責任問題に発展させて辞任に追い込むから。いいな?」
「わかってますよ!大体恩人にそんなことしませんっての…」
「…まぁよろしい。」
今村はそう言って話を終えた。そして隣でゲームの解析などを行っていたアーラムに声をかける。
「おい、少し出て来る。」
「…僕も行く。」
「ん~?お前は嫌いな所だぞ?」
「兄ぃが行くなら僕も行く。」
「…じゃ、とりあえず外見17歳にしろ。」
少年神だったアーラムは美少女姿になった。
「…これでいい?」
可愛らしい声でそう言うアーラムに今村は手を額に当てる。
「何でお前は一々女になるんかねぇ…別にいいけど。」
「虫除けだよ。さ、行こ?」
「毒ガスにわざわざ突っ込む虫はいないと思うがね…」
今村はそれ以上何も言わずに席を立った。
「お…おい。今村さんあんたいったいどこに…?」
「…言葉遣いには気を付けろ。後…俺だけじゃない。お前も来るんだ。」
今村が本人曰く微小に殺気を放つと陸奥は震え上がって今村の後に黙って続いた。そして若干の服装の変更などを済ませて身支度を整えると一行は家を出た。
「…はぁ…ぅぅぅぅぅ~…」
鈴音は朝から憂鬱だった。今村が帰る日というのに、昨日の休みのつけのように今日は朝から学校となっていたのだ。
最近ただでさえ無理を言って作っていた休みから世界変動など色々あって休みを取りすぎていた鈴音は今日は22時まで学校のクラスかスタジオにいることになっている。
(…はぁ…見送りまで帰らないでほしいって言ったけど…今村さん…もう帰ってないよね…?)
周りの人にも迷惑をかけていることは知っていたので鈴音は自身を押し殺して考えるのを放棄して、この場にいる。
前ではいつもの様にクラスのスケジュールと鈴音は別であることを告げている担任のホームルームが行われているようだ。
これによって敵意と羨望、尊敬の感情が入り混じった視線を浴びるのにももう慣れ切ってしまい、この時間は特に周りを気にするのは止めていた。
「え~…最後に転入生が来る。」
(…?だれか新しいアイドルが有名になって来てたっけ…?)
この学校は有名になったアイドルがアイドルをやりつつも高校卒業資格まで取りたいと思った時に受け入れる体制が出来ている。
その為、転入生が入るのは珍しくもないのだが…
「それに、半日見学の方も来られるから…」
(…転入生の密着取材?これが重なるのは珍しいかな…)
そんなことを思っていると教室の前の扉が開いてそこからこの世のものとは思えない美少女とガラの悪そうな男が入って来た。
教室内がざわめく。アイドル、芸能人を多数輩出しており、顔にはかなりの自身を持つ者たちが多い中でも彼女の美貌は異常だったのだ。
「あ。しくった。入り損ねた。」
そしてその後に続く声で鈴音は完全に固まった。
その声の主は電子書籍を見ながら教室内に入ってくる。
「えー…入学して来たのは陸奥英雄くん。見学に来たのが…岩村 仁さんと花房牡丹さんです。」
(嘘でしょ…?今村さんじゃん…ってか偽名ならもっときっぱりとした偽名を使いなよ!)
そんな鈴音の心の声が聞えたのか、微妙な偽名を使ってきた今村は流石に機器を仕舞い前を向いた。
「えー…短い間ですがよろしく。」
「僕もよろしくね。」
「…陸奥英雄です。陸奥は日本の東北地方の昔の名前を使った漢字で、英雄の方は英雄って書きます。これからよろしく。」
今村とアーラムの適当な挨拶に代わって一番真面目な陸奥。そんなことは特に気にせず今村は教師の方を見た。
教師は一つ頷くと生徒の注目を集めた。
「では、先ほど言ったように本日の一限目は岩村先生にやってもらう。先生どうぞ。」
「あいよ。」
(うぇぇえええぇぇぇぇぇ~!?何で!?)
何となくしかホームルームを聞いていなかった鈴音は驚きの声を上げそうになるのを辛うじて抑え込んだ。
「…じゃ、陸奥。世界の名言ベスト200。言ってみろ。」
「…俺!?」
一瞬何のことか分からなかった陸奥が驚きの声を上げる。その間に担任は教室から出て行った。
それを見計らって今村はこう言った。
「授業を放棄します。今から健康診断を行う!一列に並べ!」
最早何が何だかわからない生徒たち。しかし、言われるがままに並ぶと今村は小声で呟いた。
「…やべぇ…こんな感じで並ばれると刀持って首の高さに構えて脇を疾走したくなるな…」
大量殺人者一歩手前の今村はそう言って不思議な壺を出す。これは由緒正しき粗悪品で、今村が作ったYKZの前身会社が売っていた幸運を呼ぶ壺を改良したものだ。
商品登録は過去の前身会社がやってくれていたものだと信じる。
「はい手を入れろ~」
その中に手を入れていく生徒たち。ざわめいているがそれでも言われた通りにして行く。今村は彼らの将来が軽く心配になったが人の人生だしいいか。と割り切った。
そして全員がくぐり終わったところで壺の側面から紙が大量に出て来た。それの一番上にある名前を呼んで返していくと生徒たちの顔色が変わった。
「はい。現在の疲労度とか健康状態が出ているな?これを基に君らを取り巻いている現状について話したいと思う…」
(だる。もう実験終わったし帰りたいなぁ…)
実際はVRMMOを作動するにあたっての健康問題基準を満たしていない人物が判別されるかという幸運を呼ぶ壺(量産型)の最終テストだったので、授業云々は最初からどうでもよく、流し気味に今村にとっての当り前のことを述べて終えた。
「岩村さん!あの!どこのエステティシャンの方ですか!?」
「流行には敏感なつもりだったんですけどぉ…知らないんですよねぇ?」
しかし結果的になんか囲まれたりして今村は少し面倒なことになったなぁ…とか思いつつ男子高校生の相手をしているアーラムこと牡丹を連れて学校から出て行った。
ここまでありがとうございます!
因みに今村くんのVRMMOは1日3時間までしかプレイできません。しかも健康状態に異常があれば使用できないことになっています。今村くんはその他にも色々先手を打って開発してます。




