8.五日目、軽く世界が大混乱に見舞われる。
この日、世界は震撼した。
各宗教の主神の声が信者の頭の中に鳴り響き、聖母の像が涙を流し、空には丸い虹が浮かび、海は凪ぎ、苦しんでいた人は安らかな表情を浮かべ、争うための道具は全て機能を停止して世界が平和に包まれた…
「あーっ!絶版の本が気ぃにぃなぁるぅっ!」
それでも今村は平常運転だった。
「くっそぉ…瀕死状態でこの世界に抗う力もなくなり気味…その所為で検索ができん…ヤバいな。色々やり残したことがあるが…もう帰るか…?」
「え…」
世界平和となっているこの現象だが、原因不明の異常事態という事になっており一般的には誰も外に出ないように厳命が下されている。
異常事態と国が発表したのに加えて神のお告げとしてこの日は安息日と宗教を越えて取り決められたらしいのだ。
それに反対した人々は軽く廃人になって、強制的に休養を取ることになった。明日には治るらしい。
因みに生活に必要なものは神々が賄ってくれている。電気に水道にガス、通信技術やその他諸々は正常に起動しており、それどころか食糧(一日分)がいつの間にか各家庭に支給されていたのだ。
気温はジャスト18度。2月中旬なのに過ごしやすい気候となっている。
そんな中で、今村は酷い目に遭っていた少女を侍らせて(実体が不安定な為近くにいる必要がある)ソファーでだらけていた。
「ん~テンションで何か色々イカレてることはまだ出来るけど…1週間の予定は切り崩した方がいいな。これ以上は無理だ!」
「ちょ…ちょっと待ってください!」
そんな今村に鈴音がストップをかける。鈴音は今日のアイドル稼業も例外ではなく休みになっており、それによって自宅でまったりしていた。
「ま…待ってください!まだ私は何にもしてないです!」
「…え?何する気?」
「恩返しとか色々…」
「あー…いらん。」
にべにもなく今村は断った。
「俺はね。俺の都合で拾っただけ。感謝される筋合いはない。」
「じゃあ私も私の都合で恩返しします!借りっぱなしは気分が悪いので!」
「わかった。いつかな~」
「…受け取る気がないでしょう…?」
ジト目になる鈴音。今村はそれを受け流す。
「ふぅ。そろそろ祓の回収しないとアレだし…」
「…ところで兄ぃ…?何で死にかけてるの…?」
この場で聞こえるはずがない声が聞こえてきた。平静を保っているように見えて声は震え、感情が爆発寸前の様相を表している。
「ん?あ、何してんだ?」
「…思いっきりこっちの台詞なんだけど?」
今村が声を感じた方を振り向けばそこには金色のふわふわした髪を光に反射させ白磁のような美しい肌を持つこの世ならざる美しさを持った少年がいた。
その少年はその中性的な顔を引くつかせて小さいながらに貫録のある立ち姿で今村を睨む。
「自分が作った世界から離れちゃ駄目だろアーラム。」
「…そんなことより、何してたの?死にかけてまで…」
「面白いこと巡りですけど何か?」
アーラムの怒りの炎にガソリンとトリニトロフェノールをぶちまけた。
「ふっざけんなよ!兄ぃ!そんなことで死んでもいいっての…」
瞬間。世界が軋み、あらゆる生き物が死に絶えるかと思えるような殺気がアーラムと今村を結ぶ直線状に突き抜けた。
「…そんなこと?テメェ…何言ってんだ?」
「何回でも言うよ!面白い事なんかどうでもいい!」
今村が薄く笑みを浮かべ始めた。
「…撤回した方がいいと思うぞー?ってか、撤回しろ…」
殺気と共に放たれる言葉の返事を待たずして今村の体に鎖が巻きつけられる。
「…今の兄ぃが僕に勝てるわけないだろ…?大人しく全ての力を回収して不老不死に戻りなよ…」
「クカカカカッ…調子に乗るなよ小僧…『陰王発剄』!テェンションモードアルカホル。」
今村から瘴気が漏れ出し、鎖が弾けた。鎖の破片がソファーに突き刺さり、絨毯にばら撒かれる。
「…ちっ。エロゲ娘とアイドル勇者が死ぬな…『呪界降臨』」
「『天智天命』。」
二人は別世界に飛んだ。
「さぁて…殺しはせんよ~折角パスを繋げたんだからゲネシス・ムンドゥスが崩壊しても困るしね~」
「…兄ぃ…勝てるつもりなの?思い上がってるんじゃない?」
「んにゃ~?勝てるつもりじゃないな。もう勝った。」
瞬間。アーラムの体が少女になった。ついでに思考がドピンクに塗り潰される。
「なっ…」
「…さぁ創造神よ。想像してみな~俺に勝つように想像して創造が出来るかな?」
「何コレ…」
「アイドル勇者の姉が自室でやってるゲームの内容。」
最低だった。訳が分からない。
「何で…ってかなんなのさ!どうなって…」
「はぁ~…条件型の呪いは条件を満たせば相手が何だろうと発動するだろうが…まぁそんなことはいいや。」
今村が邪悪に哂う。
「で、今のご感想をどうぞ。」
「さ…最悪だよ…うぅうぅぅぅぅんっ!あぁっ!」
「アハハハハ!因みに『呪界降臨』の発動条件は思念だけで相手を呪い殺せるほど憎い相手をテンションが高い状態で罰する時だね。今みたいにテンションが高くないと出来ないのさぁ~」
今村はどこからか出したウィスキーを煽る。
「ケタケタケタ…ついでに余興をしましょ。そうしましょ。ニャハハハハハハハハハ!『アポーツ』」
「ふぇ?」
恋華が召喚された。
「アレなんてエロゲ?」
「ここは…?つっ!あの子どうしたんですか!?」
今村の問いに答えず恋華はアーラムに駆け寄る。そして今村をキッと睨むが今村は笑ってアーラムの身に起きている現象を教える。
「さっき君がやってたゲームのヒロインの感覚を頭の中に捻じ込み中~」
「ぅえええええええええええっ!?今の希美ちゃんは風が吹くだけでイッちゃうほど敏感状態なんですよ!?そんな状態…」
恋華が生唾を飲んだ。目の前の少女はとても愛らしい恰好になっている。
「…ふむ。その薬なら持ってるなぁ…あんまり面白くない…」
「…スミマセン…因みに今、あなたどんな気分ですか…?」
恋華はアーラムに恐る恐る聞いてみた。
「兄ぃ…うぅ…兄ぃ…そこは…」
「…成程。夢中で聞こえてませんか…」
「因みにさぁ…『呪界降臨』ってさ、この辺りの最も強い思念…普通は術者の殺意のイメージを叩き込むんだけど、今回この辺りの最も強い思念が君の煩悩だったことに何かコメントある?」
今村の質問に恋華の時が止まった。気まずい沈黙が流れ、アーラムの喘ぎ声だけが流れる。
「…まぁ、細かいことはいいか。」
「………………………忘れてください。」
「さて、そろそろ終わってもいいんじゃないかね?」
今村は少女アーラムの頭に手を翳した。…が、すぐに手を離し距離を置いた。
「っとぉ…?」
「どうしたんですか?」
「…うぉぇぇぇぇぇぇぇぇ…」
今村は気分がもの凄く悪くなった。アーラムの思考上では相手役が今現在の今村になっていたのだ。
今村のテンションがガタ落ちしてこの世界の維持ができなくなり、全員が朝倉家のリビングに戻る。
「…成程…このための作戦だったのか…」
「ぅぅぅ…兄ぃ…もっとぉ…」
「…何があったんですか…?」
「アイドル勇者姉。上手いこと説明しろ。…正直に話してもいいが…」
「不肖私めが説明させていただきます!」
五日目もカオスに暮れていった…
ここまでありがとうございます!
とりあえず何かスミマセンね!




