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例外者の異常な日常  作者: 枯木人
第六章~異世界その2~
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28.屑どもの協奏曲

「はっはっはぁっ!生きてるって素晴らしいっ!死ねこの野郎!」


 もの凄いことを言いながらいつからかこの世界に住み着いたという「古代竜エンシェントドラゴン」と乱闘を繰り広げて血みどろになって闘っていた今村にみゅうから連絡が入る。


「あ~生きるか死ぬかの紙一重の所に生命の輝きってあるよな?」

「…ぜぇったいに死んじゃ駄目なんだからね…?」


 ジト目のみゅう。黒い膜につつまれた謎の事件の影響はもう抜けきっており、平常運転だ。


「だらぁっ!勝負はお預けだタコ!」


 今村が質量差を無視して「古代竜エンシェントドラゴン」を投げ飛ばし、みゅうとの会話に専念することに成功した。


「で?お前から通信ってことはアレか。出来たのか。」

「うん。パパのちゅーがあればどこまででも行けるよ~?」


 愛情表現ではなく物理的に「プリンスキス」が必要という事だ。…どのへんに物理があるのかは分からないが…


「じゃ、呼びに行くか~先に情報を仕入れないとな。うん。」

「お呼びですか?」


 呼ぶ前にアンが今村の目の前に現れた。この程度の事には今村は慣れっこなので普通に会話したが、そこで驚きの事実を知る。


「へ…?アイドル勇者が奴隷オークションに掛けられてる…?」

「はい。今日の午後出品予定です。」

「…俺、何かあったらすぐに連絡入れろって言ってたよな…?」

「すみません。記憶が混沌としているのでわかりません。」


 だが、目の前にいるアンはどう見ても困惑しているようには見えない。淡々としている。

 普通なら何を考えているのか分からないが、結構長めの付き合いをしている今村は彼女の感情を表情から見て取った。


「根に持ってるのか…」

「当たり前です。なくなった物は仕方ないと割り切ってこれからご主人様とのたくさんの思い出を作ると切り替えても嫌だったものは嫌なのです。」


 拗ねた。まぁ子供の事だから仕方ない…とは思うものの、アイドル勇者の方に関して仕方ないで済ませることはできない。大事な地球への道標なのだから。


「経緯と敵の報告を帰ってから。」

「はい。」


 二人は「ワープホール」でパラディーソに帰って行った。



















 報告が終わると今村は嘆息した。


「それはどう考えても大事件だろ…何で報告してない…ってか何で俺の耳に入ってないのかが不思議でならん…」

「皆ご主人様がここから出て行くというのが嫌で嫌で教えたくなかったんです。情報もそれとなく操作してました。」

「意味分からん…」


 報告をまとめるとこういう事だ。


 アイドル勇者の鈴音が王都に戻るとすぐにその元パーティーが現れ、鈴音の身柄を拘束したらしい。

 正直実力差があり、いつでも逃げられると判断したらしい鈴音は一度大人しく降伏することに決め、投獄される。

 暴行を受けそうになったのに反撃したりしていると王の間に呼ばれた。そして魔王を倒したというのは嘘だとされ、国民を騙したと犯罪者扱いされる。


 鈴音は必死に抗弁したが、同行者だった元パーティーが家の力を使って封殺。また、そこに下水道に投げ捨てられていた変態簀巻き勇者が帰還して元パーティーの話に同調。

 鈴音は危機感を覚えて脱走しようとするが、規格外パラディーソの町の下水にいた異形の者たちと死闘を繰り広げ、強化されていた変態簀巻きに負けてしまい隷属の首輪を付けられている。ということだ。


「…本っ当に何で報告しなかったのか…」


 この話で変態簀巻きはパラディーソの見回りの目を逃れるだけの実力はつけていたらしい事が伺え、鈴音が負けるのも仕方ないと分かる。


「知れば行くじゃないですか。」

「…はぁ。もういい。行ってくる。」


 これ以上は埒が明かないと今村は論争を諦めた。色々今村にも責任がある話なのでこれで何かしらの問題が起きていたらかなり寝覚めが悪い。


「ま…さっさと助けることにするが…他の地球人はどうするか…牢に入れられっぱなしじゃ話通してないだろうし…まぁ、信じなかった方が悪いからいっか。」


 鈴音を助けようとする人がいなかったから牢に繋がれていたのだろうし、助けようとしていた人間がいるのなら同じような目になっているはずなので割り切ることにしてさっさと飛んだ。


 「ワープホール」で飛ぶと「魂魄の欠片」の効果で当然ながら祓が付いてくる。今村はそのことを忘れていたが、王都の城門前に着いたときに隣に祓がいたのを見て思い出した。


「…一刻も早く『スレイバーアンデッド』を解かないとな…」


 隣で包丁を握って辺りを見渡して状況の把握に努めている祓を見て今村は思わず呟いた。


「それはもの凄く後回しでいいんですが、ここ王都ですよね?」

「…どの辺も後回しでいいわけがないけどそうだな。」


 今村はここに来ることになった経緯を祓に説明した。


「という事で、遅ればせながら助けようってことになっているわけだ。」

「…まぁ、先生が半分、あの子たちが半分悪いですね。」


 祓がそう言うと今村は首を傾げた。


「ん?俺が全部悪いだろ。少しでも他人・・の事なんか信じてた俺の失態。あいつらは悪くないぞ?」

「…意味が分からないです。」

「まぁそんな事よりアレだな。少し時間あるし、ゴミ掃除と人助けどっちからやるべきか…あと祓は庖丁を仕舞え。」


 周りの目など気にせず今村は2秒考えて結論を出した。


「多分不安とか絶望感でいっぱいなアイドル勇者の方を助けるか。将来を悲観して自殺でもされれば困るし。」

「『円知』…あっちですね。」


 今村と祓は鈴音の「氣」を頼りに移動していった。


「どれくらい時間があるんですか?」

「…30分ぐらい。もう受付は始まってる。」


 早歩きでサクサク進み、10分ほどで今村がこの世界で子供たちを買ったスラム付近に着いた。


「そこの者。止まれ。ここは今日王公爵のみの参加出来る…」

「パラディーソ公爵だ。通るぞ。」


 入り口付近で兵が絡んで来たが、今村は特に欲しくなかった勲章であっさり通過。何となく壁をぶち破って登場するのも良かったかな。とか思いながら普通に中に入ると周りの目が鬱陶しかった。

 そんな中おっそろしく太った男が今村の方に近付いて来て挨拶して来た。


「おぉ、パラディーソ公爵。ご高名はかねがね聞かせてもらっておりますぞ?」

「あぁどうも。」

「それで…そちらの娘は今日出品されるのですか?」


 男の目が祓にねっとり絡みつく。


「あ~…出すつもりはないですね。」

「…そうですか。…因みに売るとすればおいくらで…?」

「売らないんで。」


(しっつこいなぁ…バラそうか?)


 祓を横目で見て何故か少し嬉しそうなのを不思議に思いつつ思考操作(多少後遺症あり)を使って目の前の男を黙らせると丁度オークションが開始された。


「あ~…面倒だなぁ…」


 どんどん売れていく奴隷たち。今村は王族専用とか書かれている席に座っている王が偉そうにしているのが気に入らないな…とか思っているとオークションは終わりに近づいていた。


「さぁ最後の目玉商品!堕ちたる勇者!朝倉鈴音でございます!」


 会場がざわめきに包まれる。そして少しやつれた鈴音が現れた。


「容姿端麗!異世界の知識も持っているこの少女!最低金額100G(100万円)からです!」

「1万G(1億円)」


 今村はさっさと手札を上げて無表情にそう言った。いきなりの高額宣言に会場が静まり返る。


「な…?」

「い…1万100Gだ!」


 王が今村の存在に気付いて値を吊り上げて対抗する…が。


「面倒だなぁ…100万G(100億円)」


 今村はこの国の年間国家予算に相当する金額を提示する。王は顔を青くして呻いた。


「え…えぇと…パラディーソ公爵…その費用は…」


 今村は面倒臭そうに白金貨の袋を出した。


「あ…ありますね…」


 今村は引き攣る顔をしたこの場全員を特に顧みることもせずに鈴音の前にふわりと降り立った。


「悪かったな。俺の所為で。」


 そう言って今村は鈴音を外に連れ出した。




 ここまでありがとうございます!

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全盛期、相川だった頃を書く作品です
例外者の難行
例外者シリーズです
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