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例外者の異常な日常  作者: 枯木人
第六章~異世界その2~
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26.驚きの軽さ

 翌日、今村は軽く憂鬱な気分になっていた。


(…みゅうの所為で今記憶を無理に奪えば俺が良い奴認定される。)


 それは困るのだ。良い人と思われれば今村は人の流れに合わせているので無意識にそういう行動をとってしまう気がする。また、仮に悪いことをすれば勝手に幻滅される。

 それら自体は別にいいのだが人の強い思念はオーラで見てとれるこの世界においてそれは見てて気分の良いものではない。今村は思考を押し付けられるのが嫌いだからだ。


(はぁ…大体俺に関しては良い奴でも悪い奴でもない。俺の行動を勝手に見た奴が勝手に判断しているだけの事なんだがなぁ…後、俺は弱い奴が強い奴を食うのが好きなだけだから助けてくれてありがとうなんて感謝される筋合いもない…)


 「魔法」を使ったりや様々な世界を移動して来た今村にしてみれば良い、悪いは場所によって変わるもので、今村のルール的には自分の気分次第でころころ変わる。遠近法的思考をマルチに展開出来る今村にとって全ては気分次第なのだ。

 そしてその気分とは普段は周りに影響ながされている。


 例えば楽しいことがあってみんなが楽しんでいる時、特に楽しい事がなかった人でもどこか楽しくなり、寛大になれる。


 例えば嫌なことがあった時、イライラが周りにも移って他の人もイライラしやすくなる。


 これらは自身が別の感情を持っていなかった場合強力に働く。それは普段はヒトに擬態して生きている今村も同様なのだ。

 普段から今村・・として生きていれば他人のことを気にせず生きることは可能であるがそんなことは面倒なのでしたくない。流れを壊すのは簡単だが流れに沿わず逆らうだけというのは面倒なのだ。それに人の所為で自分を変えるなんてことはしたくない。


 そんな今村の擬態を止めた本当の基本スタンスは刹那主義で快楽主義。他にも色々な主義を持っているがこの二つは特に強い状態で生きている。

 そしてそれは後のことを考えて危険を冒さないという思考は基本しないという事だ。ただ、例外も勿論ある。今回の事案に関してはその例外の部類に位置しているのだ。


(…本人は戦いたくないって言ってたんだから色々面倒事に巻き込むのもアレだったし…俺に付いて来れるとは思わん。…それに、俺の事なんか別にどうでもよかろうに。)


 このように。巻き込んだ罪悪感。それに現実的な思考。後自身が下す自己評価。この三つの要素から今村はカトリーヌの記憶を奪った。


「あ~…何かごちゃごちゃ考えてるのもストレス溜まるなぁ…あんまり深入りする気はなかったんだけどな…」


 未だ布団の中でべったりくっついているみゅうの白銀色の髪を撫で、今村は溜息をつく。みゅうに関しては自衛もできると昨日判断できた。本人は今村のことを本気で親代わりにしているのでどうしても斬り捨てないといけないということもないだろう。

 それに「時空」の力はとても便利だから正直手元に残しておきたかったところでもある。


(…まぁ、ある程度大人になったらもう一回聞くけどな。)


 あまり依存させてしまうとエディプスコンプレックスを拗らせるかもしれないのでその辺は考えが必要だな。と手遅れなことを思いながら今村はみゅうが起きるまでは二度寝するか。とまた眠りについた。



















 その頃女性陣。


「みゅう様のはなしからすると全力抵抗しか道はないという事ですかね?…正直勝てるヴィジョンが全く浮かばないんですけど…」

「…いや…多分先生は捻くれてるし…あんなことみゅうさんに言われたら本気を出し辛くなると思う。」

「あの人が一度上げた目標を下げることを見たことないんですけど…」

「飽きたり面倒になったりすれば時々止めることがあります…いや止めることの方が多いかな…?」


 彼女たちは朝から討論していた。アンとミーシャの質問に祓が次々と答えていく形式で話は進んでいく。アイドル勇者はそれを興味深そうに聞いていた。

 メイは未だ就寝している。因みに彼女は昨晩から常に頭を「神氣」の膜で覆っておくようになっていた。


「え…祓さんとご主人様はどれくらいの付き合いになるんですか?」

「…体感で一年半ですね。世界の塗り替えとかで時間の流れが曖昧だったのでよく分かりませんが…」

「それだけ!?」


 今まで沈黙を保っていたアイドル勇者、鈴音がいきなり大きな声を出した。話し合いに意識を集中していた3人が一斉にそちらを向く。


「…悪いですか?」


 祓が不機嫌そうに鈴音を見る。鈴音は慌てて首を横に振ってキラキラした目で祓に訊く。


「どうしてあの人を好きになったんですか?」

「…いいでしょう。」


 早口で今までの経緯と体験を話して1時間。祓はキリの良い所まで話し終えた。


「うん。大分好きって話が多かったし、それを省けばもう少し縮まった気がするけど…要するに今最大の問題はこちらがどれたけ領主様を想っていても届かないってことで良い?」

「はい。好意が通じない呪いで…」

「じゃあ、好意をなしで一切の感情を抜きにした合理論を展開すればいいじゃん!」


 鈴音はとても楽しそうにそう言った。


「あんな露悪的に振る舞うってことはあの人相当いい人だし、自分のことを重視してないから心配って言ってたでしょ?それを逆手にとって…」

「そうか…私たちはどれだけ先生の事が好きか伝えることしか考えてなかった…」


 盲点だったとばかりに祓は呟き、そこから考えを巡らせた。しかし、それはすぐに止められる。


「そろそろ起きろ~。後、アン。1日考えてみてどう?やっぱ半端じゃあれだろうし消しとく?それとも残しとく?」

「残します!」

「そっか。じゃあいいや。」


 ドア越しの会話にこの部屋の全員が固まった。今までの話は何だったのだろうか。今村の気配が去って行った後、どっと疲れが襲ってくる。


「軽い…」

「…先生にとって先生といたという記憶の価値はどれだけ低いんでしょうかね…そんな些事じゃないんですけど…!一生を変えると言ってもいい…」


 祓に形容しがたい思いが込み上げてくる。自分の一番大事なものを本人から否定されている気分なのだ。

 だが去来した怒りのようなものはすぐに悲しみに転じる。過去の一端しか知らないが今村がそう思うのも仕方ない所もあると分かってしまったからだ。


 一番の親友に裏切られ、一番の弟子に裏切られ、繋がりが長かったはずの人には裏切られる。それなら繋がりとは独り善がりだったものなのでは?と思うのも仕方がない。


「…つまり、先生の敵が全部悪い…」

「…えぇと?どういう経緯で…」

「簡潔に言うと先生は親友に裏切られたりして前世で死んでます。それで一緒の時間を軽視してるんだと思います自分がどう思っていても接していても他人は裏切ると。ですからそのように裏切った敵が悪いという事です。」


 祓は珍しく早口で一気に捲くし立てた。


「そう言えばその時好きだ好きだと言ってた人も裏切ったらしいです。それで自分のことを好きだという人間もいないと思ってる…全部それの所為だ…」


 祓の感情が角度と向きを変えた。


「先生を裏切る人は許さない…傷つける人も許さない…先生はこれから癒される必要がある…私も色々我慢して少しでも近くに行けるようにならないと…」


 当初の目的を遥か彼方へと追いやった祓は心を入れ替えて今村の近くにいようという自分の意思を再認識した。





 ここまでありがとうございます!


 ヤンデレの範囲が分かりませんが、個人的にはセーフ判定が出てます。

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全盛期、相川だった頃を書く作品です
例外者の難行
例外者シリーズです
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