17.ようこそ異世界へ
「はぁ…後1年…どうするかなぁ…」
「先生?」
今村が月美に領主の仕事を半分任せて自身の分の仕事を終えると溜息交じりに呟いたところに祓がお茶を淹れて現れた。
「あぁさんきゅ。」
今村は祓が淹れたお茶を受け取って和む。
「…それで、あと一年とは?」
「俺の元々の目的である転生者がこの世界には居るんだけど…あと2年で成人して冒険者になるんだよね。」
「…?成人して?成人しなくても冒険者には…」
祓は今村の連れて来た子供たちをギルドに通してすぐにAランクやSランクにした時のことを思い出す。が、今村は苦笑してそれを否定した。
「あれはSランカーの特権。推薦枠での成り上がりだ。」
尤もそれが許されるのは連れて来られた者たちのランクがB以上の場合だけだ。その特例が認められたのは過去にも数例しかない。
今回その常識を破壊してやったが…
「なるほど。地球からの転生者が目立つのを待っているんですね。」
「そゆこと。一晩で復興した町とか有名になるだろ?有名になった時に訪れて…」
そこで今村が顔を顰めて言葉を切った。祓は少々不安になって今村に声を掛ける。
「先生?」
「…ちっ。あの王そこまで腐ってやがったか…」
執務室の窓から天を仰ぎながら今村は文字通り目の色を変えて空に浮かぶ紋章陣を睨みつける。
「…召喚キャンセルは追いつかんな…じゃあせめてもの条件として…」
今村は右手で刀印(人差し指と中指だけ立て、他の指は握った状態)を作ると虚空に何か文字を書き始めた。
そしてそれが終わる直前に空から光が舞い散って大地に降り注いだ。
「…一応成功。まぁ後は知らん。…が、舐めんじゃねぇぞ糞王家…」
今村は不敵に笑った。祓はとりあえず今村が何を言いたいのか分からないが妙な状況になった事だけを把握して今村の横に腰かけた。
(何か近くね?…もしかしてこれから俺が何するか分かったんかね?なら丁度いい。)
「転移するぞ。」
「え?あ、はい。」
「『ワープホール』」
今村は祓の肩を抱き寄せて空間の穴に共に身を投じるとこの世界の創造神である青年の所に飛んだ。
「よぉ。今のやっぱアレ?」
「…馬鹿王家の召喚陣だねぇ…王宮魔導師50人を犠牲にして無理矢理地球人を捕まえてたよ。君が介入してくれたから最悪の事態にはならなくて助かったけど…」
青年神は溜息をついた。祓は会話に付いて行けず、どういう事か今村に尋ねる。答えたのは青年神だった。
「王家がね、彼を妬んで恐れて対抗できるように異世界から飛来者を連れて来てたんだよ。」
今村がそれだけでは何が言いたいのか分からんだろうと更に説明を入れる。
「地球はまぁこの世界より高次元だから潜在能力がこっちより高い。でも、魔法は中途半端だし科学技術も微妙らしい。だから初期段階でレジストは出来ない。」
(…まぁ俺的には娯楽が一級ってだけで十分だが…)
今村の個人的な感情は置いておいて、説明を続ける。
「だが、下の世界に行けばまぁ色んな能力が空きスペースに入って初期は使えない地球人でも今の俺が育てた子供たち位には成長する。王家はそれを狙って無差別に地球人を連れてこようとしてたんだ。」
祓はそこで首を傾げ疑問を抱くが、自身で解答を導く。
(王家に従わなかったらどうする気だろうと思ったけど…初期段階は術が効くんだ…なら呪具である奴隷の首輪を使えばいいのか。)
そしてそれは正解だ。一度発動すればそれは外せない。それを狙って王家は召喚を行ったのだが…
「まぁ、無差別は見ててムカつくという理由で俺が消した。まぁあんまり時間無かったし対象を死に瀕した者たちにする位の時間しかなかったけどな。」
「いやいや…個人的にはこの世界の説明を軽くでも行えたことに感謝したいね。君のおかげでしょ?」
「この空間を介すようにしたのは確かに俺だな。で、説明はしたんだろうけど…死なないように何やった?」
何やったとは今村たちが言うところの加護、もしくは能力の分与だ。分かりやすく言えばチートである。
「あー…来た時丁度テレビ画面でギャルゲやってて信頼が地に落ちたから微妙なのしかあげてない。…あ、でも何人かは面白いのあげたけど…」
「へー…ってそれ不味いんじゃね?信頼が地に落ちた神とあの狸王どっちを信じるか…」
そんな神談義に祓は一人黙って空気になっておく。
「…あ、今回こっちに来たのはアレだ。バスの事故で炎上しかかった人たち。神がいることは信じてるけど誰を信じてるかは特に決まってなかった人だね。」
「まぁ…その辺はいいんだが…手間が省けてよかったかもな…1年待たずに済みそうだ…あ、ちょっと下界を見せろ。」
「謁見の間?」
「そうそう。」
テレビ画面が謁見の間になる。そして会話が流れて来た。
「…何故だ?この国の者で、国賓の証である首輪を…これがあればそなたたちは何不自由なく暮らせるというのに…」
狸王の声が流れてくると同時に画面のカット割りがスタートする。今は王と代表者らしき若い男の対面式になっている。
「あ、この人はアレだ。人の趣味は色々あっていいんだって女の子を宥めた奴!」
「成程。イケメン主人公という事だな。」
男を見て二人は呑気に話し合う。
「神様のお告げで、それは隷属の首輪と言う者だと知りました。ですから我々は…」
そこで王は重苦しく溜息をついた。
「オイムカつくぞこいつ。」
「わざとらしいねぇ…」
二人が軽く後で神罰を入れておこうと決め、話が進む。
「そうだ…たしかにこれはそなたたちに強制的な力を加えて操るものだ。」
「っ…そんなものを我々に付けようとするあなたのことを信じることは…」
「だが…この世界で生きるには強くあらねばならぬ。そしてそなたたちは争いのない所から来たのであろう?いきなり殺せと言われても出来んはずだ。初めての時は他者に無理矢理させられた。という事で自身への嫌悪感を少なくしたいと思ったのだ…」
頭を抱える王。それに対する今村他神一人の感想。
「何言ってんだこいつ。」
「…論点のすり替えも良い所だね。最初の方で首輪付ければそれだけで何不自由なく暮らせる的なこと言ってたのに…」
こんな感じだ。だが、彼らの方は聞こえてないし、騙されている。
「そ…そう言う意図が…」
「大方その神を名乗る者は偽物であろう。余は本物の神より王であれと命じられ、そなたたちを召喚したのだからな…」
「確かに神にしては言動が少し…」
考え始めるイケメン主人公。青年神はもう信託系統を下さないことにした。
「折角忠告しておいたのに。」
「…まぁ。どっちが悪いとかは言えんなぁ…」
そして彼らは決心した。
「…分かりました。正直あの神様は信じられなかったところです。このお城にお世話になりましょう…」
「うむ。それでよい。いずれ強くなったところで魔王を倒し、恩は返して貰うから遠慮はせずともよいぞ。そなたたちの家と思って寛いでくれ。」
「はい。」
会談は終了したようだ。画面が消える。
「信じられないんだってさ!じゃあもういいや!知らない!」
「…大分酷い話だったんだが…よく納得したな。馬鹿なのかな?王の態度おかしすぎだろ。気付けよ。」
二人は会談に不満しかもたなかった。
「…まぁ地球から流れて来た者の話の内容じゃああいう勇者君よりこっそり出て行くやつが一番強いらしいが…そんな事より俺が怖くて召喚した癖に魔王討伐か…ってか魔王居たんだ。」
「うん。現在傷心中で引き籠りしてるけど。」
「…それを討伐ねぇ…別に実害ないんなら放っておけばいいのに…」
「…多分君が怖いから討伐しに行くんだろうね。」
そこで今村は王の狙いに気付いた。
「…あぁ、魔王の魔力を吸収すれば対抗できるかもって考えたのか。」
「だと思うよ?」
「…ふ~ん。」
「無理だと思うけどねぇ…」
その後、とりとめのない話をした後は自然解散となった。
ここまでありがとうございます!




