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例外者の異常な日常  作者: 枯木人
第六章~異世界その2~
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13.クラン

 そこからさらに数ヶ月。今村たちはこの前行った街アベントゥラを目指して進んでいた。行きとは違い、皆自力で空を飛んでいる。


 この世界の人は普通飛べない。宮廷魔導師でも飛べない。


「そろそろ着くな。はい!入る前に覚えておくこと!一つ目!」

「人間は脆いから気を付ける!」

「二つ目!」

「出来る限り滅ぼさない!」

「三つ目!」

「実力はある程度隠す!」

「四つ目!」

「分からないことがあったらすぐに訊く!」

「最後!」

「ムカつく奴はぶっ殺す!」

「よぉし!」

「良くないです!」


 ミーシャが叫んだ。が、いつもの事なので誰も気にしない。そんな漫談をしていると目的地にすぐに着いた。


「みゅう。結果外じゃ俺が登録してから何日経った?」


 雑踏ではぐれないように子供たちが今村に付いて行き、時々誘拐犯を捻りあげている中、今村はみゅうに訊く。みゅうは小首を傾げて答えた。


「一週間経ってないかな…?」

「ふむ。」


 ガラの悪い男が今村とその周りを見て今村にいちゃもんをつけようとして祓に吹き飛ばされているのを尻目に適当に進んでいく。進路については祓が道案内してくれているので特に問題はない。


「あれ~?おかしいな…思ってたより人が弱い気が…」


 ミーシャがしきりに首を傾げながら子供たちの後ろを守りつつスリを威圧で気絶させる。「いや、それでも私がこの中で唯一の常識人だから…」と手遅れな台詞を吐きながら一行はギルドに着いた。


 ギルド前では青い顔をしたダクソン(副ギルドマスター)と笑うしかないと言った風のフォルトナが待ち構えていた。


「よ。登録しに来た。全員挨拶!」

「「「「よろしくお願いします!」」」」

「はは…はははは…なんだこりゃ…これの所為でうちのA未満担当の鑑定士たちは失神したのか…?」

「ん?まだ甘かったみたいだな…全員『絶』!」


 今村の号令の下、子供たちの気配が完全に消え去った。もうギルドマスターたちはどうしようもない。


「…登録受け付けてまぁす…どーぞ。」


 投げやりに言い捨てて今村たちを中に招いた。



















 結果、身分証の代わりにもなるという事なので全員がとって、Aランク11名、Sランク29名、規格外2名となり、ギルド内がお通夜みたいになった。


「…どこから来たんだこの子供たちは…」

「まぁいいじゃねぇか。」

「…しかも規格外のお嬢ちゃん達が言うにはそこの2人はまた別格って言うし…」


 ダクソンが呻くようにそう言って今村を死んだ目で見る。本家死んだ目の今村はそれを見返すと、軽く言った。


「ところでクランってあったよな?」


 その言葉を聞いてダクソンが震えた。


「ま…ままま…まさか…その…全員…」

「ん?まぁその辺は知らん。とりあえず俺のクランを作りたい。」


 ダクソンはどうにかしてそれを止めようと思った。…世界一イカレた軍団ができそうなのだから当然だ。だが、その苦労はフォルトナによって叩き潰される。


「じゃあ、この用紙に必要事項を記入して。」

「おぉ。」

「てんめぇっ!なぁに勝手な真似してんだこの禿がぁっ!」

「禿てねぇっ!」


 この辺は結構切実な問題。フォルトナがすぐに反論する。言い争っている間に今村は必要事項を一ヶ所を除いて書き終えていた。


(…クランの名前ねぇ…)


 色々名前を使ったので新しいのが思い付かない。少し止まっているとみゅうが手元を覗いて来た。


「クラン名~?」

「ん?あぁちょっといい案が出なくてな…」

「『今村ファミリー』とかどう?」

「却下。」


 斬って捨てた。が、子供たちには好評だったようだ。祓も推してくる。ミーシャは「ファミリーって…家族のことよね…今村さんの家族になるなら私の立ち位置はどこ…?しっかりものの若妻?内縁の妻…第5夫人くらい…?」」とか言ってトリップしている。


「…ん~痛い。」


 流石に自分の名前は痛すぎるので無難な感じに『レジェンドクエスターズ』として「全員入るのかよー」と虚ろな目で平淡にいうダクソンに渡しておいた。


「はい!了承!」

「頭おかしいんじゃないか?あぁ…王国から叩かれる…帝国から圧力がかかる…あぁぁああぁぁぁぁああぁぁぁぁぁあ…」


 髪の毛をわしわしするとダクソンの頭から結構な数の本数が抜け落ちた。しかも白髪交じりのものが多い。


「苦労してんだなぁ…」


 元凶がそう呟くと優しい目で髪の毛をそっと植え直しておいた。結構痛かったらしく悶絶して突っ伏したダクソンの後ろにいるフォルトナに声を掛ける。


「あ、本拠地は今から買ってくる。買ったら浮かび上がってくるからよろしく。」

「本当に何でもアリだな…」


 流石のフォルトナも苦笑いして今村を見る。今村は手続きを済ませると子供たちの方を向いた。


「あー…とりあえずアレだ。もう独立したい。俺の下なんざ真っ平だって奴は何もしないから手ぇ挙げろ。置いて行く。」


 誰も手を挙げなかった。今村は言い方を変える。


「うちのクランに入る人は手を挙げろ。」


 全員が手を挙げる。寧ろ当然のことを何故聞いているのか分からずに首を傾げている。


「…ん~じゃあ40人ぐらいが住める所にしないとなぁ…」


 今までは占領した砦で暮らしていたのでその辺は考えてなかったし、「ワープホール」を使えば別に砦からの通勤で良かったのだが、何か怖いとのことで子供たちが使いたがらなかったのだ。

 仕方がないので今村は家をこちらにも持つことにしていた。


「ん?空間捻じ曲げよっか?」

「いや…それは最終手段。まぁ適当な貴族の粗探しして家ぶんどるかなぁ…それとも普通に家買うか…」

「物騒なことは止めてくれ…」


 おそらく今、この世界一の苦労人ダクソンが今村にお願いする。それで今村は仕方がないので後で金貨を大量に作ることにして、何となくそんな気分だったので依頼を受けることにする。

 それを目ざとく見ていた少年が目を輝かせて今村に声を掛ける。


「師匠!やっぱり冒険者になったら縁起を担いで薬草採りかゴブリン狩りですか!」

「…そうだなぁ…ゴブリン狩りにしようか。」


 今村は少年が持って来たゴブリン討伐用紙を見る。ランクは無差別、討伐確認は魔石で行うとのことで魔石の質と量に応じて報酬が支払われるらしい。


「ん~何体か決めておかないとこの世界からゴブリンが絶滅するかな…」


 今村はそう呟いた。頭の中には、


 下級魔獣召喚→幻術行使で直進させる→風魔法で風の刃固定→デスマーチ開始→終了→絶滅。


 …の効率の良い流れ作業がある。しかも、子供たちは今村が教えた瞑想の技術によって、比較的短期で魔力を回復する。そのため交代制で作業・・をすれば魔力切れを起こすことはない。簡単に実現可能だ。


「えぇと…なんつうか…絶滅すると…困る…」

「知ってる。」


 今村の呟きにダクソンがもうライフポイントゼロなのに頑張って声を上げた。


 魔物がいなくなれば冒険者の存在価値が危うい。だが、魔物による被害のことを考えればいて欲しいとも言えないダクソン君が非常に言い辛そうに今村に止めてくれと言外に言っておいたのだ。


「ん~じゃあ一人300体まで。」

「多い!普通の冒険者…いや、ベテラン冒険者でも15体も狩ればいい方だ!」

「はぁ…ごちゃごちゃうるさいな…仕方ない。ゴブリンロード一人15体までな…」

「三文字多い!ロードを抜け!」

「あんまし血圧上がると禿るぞおっさん。」


 血圧ついでに今村は何となく威圧しておいた。ダクソンが青い顔をして黙る。子供たちはこれがまだ今村の冗談の範囲だと分かるレベルの威圧だったので平然として受けた。今村は続ける。


「じゃあ競争にするか。メイとアンはタッグ。それ以外は4人一組で50体。制限時間は30秒返り血はプラス2秒な。」


 子供たちの大半が了承する。生産職の子供たちは一部乗り気でなかったが、折角だし…といった感じで普通について行く。


「それじゃ…よーいスタート!」





 結果、最速はいつの間にか参加していたミーシャで0.98秒。時点でメイ・アンチーム4秒29。次いで獣人・エルフ・人間の少女グループ5秒89。その0.02秒遅れで自称祓親衛隊。最下位のチームが10秒01という事で勝負終了。

 ギルドはお通夜状態から大混乱。しかし、ダクソンの「今日は徹夜決定だ。アハハハハ…」という声がやけに良く聞こえたという。




 ここまでありがとうございます!



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全盛期、相川だった頃を書く作品です
例外者の難行
例外者シリーズです
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