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例外者の異常な日常  作者: 枯木人
章間5
113/644

恋人ごっこの前の一悶着

 本日二つ目です。

「…先生。そう言えばこんなの見つけたんですけど…」


 相馬が持って来たのは恋人をお金で雇うといった情報誌だ。祓はそれを見て相馬を八つ裂きにしたい気分になる。


(余計なことを…先生なら本気でそっちを選ぶ…?あれ…?)


 自分が好きだという事を知らない今村にしてみれば、口約束より確実なお金が絡む契約の方を選ぶことを予想していた祓は今村が難色を示しているのに気付いた。


(え…もしかして先生は…私と恋人役を…)


「ほら、美人な子も選べるらしいですし…」


 相馬が次に余計なことを言ったら意識を落とそうと決めた所で黙っていた今村が口を開いた。


「…仮に、そう仮にそれを選んで料金が安くて美人な娘を選んだとする。すると相手は何か厄介なことに巻き込まれている可能性が非常に大きい。」

「…え?」


 唐突に始まった仮定の話に相馬が戸惑い、祓が訝しむ。


「そして相手が死神との契約者だったとすると、俺は別に問題ないから早いところ証拠作って両親に報告する方を優先する。」

「え…えらく限定的な仮定ですね…それが嫌なら多少嫌でもまとまったお金を払ってきちんとした人を…」

「その結果、色んなところで死神が追ってくる。」


 今村は相馬の言葉を完全に無視して続けた。


「え…えぇと…」

「そうなると俺は『死神の大鎌』を使って脅すわけだ。そしたらあいつらは死にたくないから俺がいるときは近づけない。…が、時間外になるとラーナの所にやって来るんだ。」

「ラーナ…?」


 聞き慣れない単語、それも人の名前のような言葉に祓と相馬が不思議な顔をするが今村は止まらない。


「そしたらラーナは俺の所に居れば安全とばかりに家に転がり込んでくる。俺は土曜日が終わって日曜日に差し掛かったところで家の結界付近に死神の気配…それもる気満々の気配がすれば起きるな。」

「…って言うより…もしかして…」


 うすうす感じていたことを相馬が口にする前に今村が話を続ける。


「で、結果助けるわけだ。そしたら落ち着かせる為に俺の部屋に入れるとそいつ俺のベッドで横になるわ俺の服掴むわ…要するに親が起きると色々不味い状態にしやがるんだよ。」

「先生もう…」


 祓が察して止めようとするが今村は止まらない。


「で、うざっ!って思った俺は死神に直談判して、ラーナに『死神殺しの魔天狼』を預けることで一件を終える羽目になるんだが…こうなると面倒なんで相馬の案は却下。」

「…はい。」


 相馬は納得してくれたようだ。今村は苦々しげに続ける。


「…ついでに言うと、そいつは魔天狼を貸すまで『好きです』とか『あなたとじゃないとダメなんです』とか言うけど死神が来ないってわかると『えっと…お友達として好きなわけで…』とか『あはは…あの時はつい…勢いで…』とか言うようになるから俺の精神的にもよくない。」

「ごめんなさい!」

「…え?何で聞こえて…」


 相馬は今村のその状況に関して掘り下げてしまったことに謝罪を入れたが、祓の方はそうはいかない。

 自分の告白は全く聞こえないのにそんな奴の告白が聞こえたことに納得いかないのだ。



 これに関しては今村の呪いが「自身に対する好意の改竄」であることが関係する。つまり、好意の無い言葉は聞こえてしまうのだ。

 その点において、アーラムの考えていることは裏目に出ていると言えるだろう。


 なんせ、好意の無い告白は聞こえるのに本当に好きだと思っている人の言葉は聞こえないのだから。


 どれだけ好意があっても聞こえないのならば諦める人の方が多い。そして今村はマジックアーケードの利益を一部貰っている。つまり、金持ちであることは裏社会に知られている。


 それらが導き出すのはろくでもない下心を持つ人間が今村の下に集いやすく、純粋な好意を持つ者は減っていく一方だという事だ。

 だが、今村は自身に呪いがかけられていることを知らない。教えられてもその呪い自体によるフィルターによって聞こえなくなる。


 …要するにとても厄介な状態だという事だ。



 話は今村と相馬の会話に戻る。


「まぁ…魔天狼が俺の悪口を聞いた途端に俺の所に帰って来たから相手は怯えながら今暮らしてるだろうけど。『あの顔で私を金以外で満足させれると思ってんのかしら』って言ってたらしい。…別に金出すし、本当に付き合う訳じゃなくて恋人役やってもらうだけで良かったんだが…」

「本当に申し訳ございません!」


 相馬は今村が見せたお辞儀の仕方100選の中で最も深い礼を取った。祓はそんな相馬を無視して今村に言った。


「大丈夫です。私が頑張りますから。」

「あぁ…金は出すよ。」


 今村の言葉に祓は少し嫌な顔をして金銭の申し出を断った。


「そんなものは要りません。」

「…じゃあ何が?」

「何もいりません。」


 断言する祓だが、今村の方は顔を顰める。後でごちゃごちゃ言われる方が面倒なのだ。先に報酬を決めないと揉めることになるのは良くある。


「…でもな、先に報酬を決めないと…」

「じゃあ、二人きりで3泊4日の旅行の手配をお願いします。」

「…ふむ…いつ?どこに?」


 それならまぁ…という気分になる今村。費用を全て今村持ちというのならば場所にもよって条件にもなりえるだろう。


「そうですね…では、今年のクリスマスにお願いします。場所は先生が決めてください。」

「…それは…」


 困る。この世界でのクリスマスの位置づけはかなり高いのだ。特にフェデラシオンでは家族と一緒がデフォルトで決まっている。恋人同士というのは結婚を前提に付き合っている場合のみだ。

 …今村がいる地域ではそんなことはないが…


(あ、そう言えばこいつフェデラシオンで死んだことになってたんだった。)


 そこで今村は祓が帰る場所がないことに気付く。ついでにその時期には相馬も今村の作り上げた世界に旅立っていることだろう。

 そこで今村もいなければ、祓は一人きりのクリスマスを送ることになるのだ。

 今村は別に一人でいるのが当たり前の世界に属しているが、祓はイケイケのリア充世界の住民。シングルベルは嫌なのだろうと今村は判断。そして了承することにした。


「なら…仕様がないか…いいよ。」


 その時の祓は無表情ながら上機嫌な気持ちが滲み出てくるようだったという。


(…あ、)


 そこで今村は自分の予定について思い出した。


(…そう言えば俺そろそろ異世界行くんだった。…クリスマスまでに帰って来るかな…まぁ最悪3泊4日異世界に旅行ってことでもいいか。行き先は俺が決めるらしいし…)


 世界を跨ぐ壮大な旅行計画を今村は立てることにした。…が、今村は旅行の準備をその日の朝か前日の夜にするタイプ。

 その時は後でするか…と全部放り投げたのであった。




 ここまでありがとうございました!

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全盛期、相川だった頃を書く作品です
例外者の難行
例外者シリーズです
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