16.ミス
計画は整った。今村はウェスタの協力を得て能力も使わずに解決する方法を見つけることに成功したのだ。
「はい。この通りに話をすること。」
「…これで本当に私は…?」
「あぁ。ミスしなければな。その通りにやれよ?あいつの性格は殆ど読み取ってるしから本当にギリギリのところを渡ってるからな。」
今村はそう言って紙切れを手渡す。そして「呪具招来」を行い、白崎の前に極小の黒い点が浮かんだ。
「監視だ。何かあったらこれが一応防御してくれる。…まぁ俺が書いたとおりにやれば別に問題はないんだが万一ってこともあるから…」
今村は一応防御と言っているがこの機械の性能は【状態異常無効・一定以下の衝撃、斬撃無効】で、フェデラシオン軍が一致団結して全国の毒を塗った銃弾の雨にさらされても一週間(エネルギー切れ)まで平然としてられる防御力を誇る。
「フフッ…ありがとう。」
白崎はそんなことは知らず心配してくれていると嬉しくなりながら礼を言うと今村に別れを告げた。
「それじゃ…また今度。」
「あ、あとこれリモコン。監視で撮られるのが嫌なトイレとか気になる時に切ってくれ。それと、成功したらこの赤いボタンを押して俺の所に送り返すこと。いいな?」
「…大丈夫だけど…まぁいいわ!それじゃ…」
白崎はそう言って去って行った。今村もその言葉を受けてその場から去った。
「…これちょっと気に入らないわね…」
白崎は紙の中の一文を見て白崎は呟いた。
(…『人は見た目が全てよ、私に相応しいのはあなたのような男じゃないわ』何て今村が好きな私が言えるわけないじゃない…人は見た目だけじゃないわよ…この部分位変えてもいいかしら…)
白崎は飛行機の中で今村に言い返しておきたかった部分を凝視して言い換えることに決めた。
(…それに、これが私の好きな人って…全然違うのだけど…本当に好きな人の写真使っていいかしら…?)
相馬の写真を渡されていたが、白崎はこっそり隠し持っていた今村の写真を取り出す。基本写真に写るのが大っ嫌いな今村を珍しく真正面で隠し撮ったものだ。
「まぁこれくらいなら大丈夫よね…」
白崎はフェデラシオンに着くまでにシナリオを少しだけ変えた。
そして、フェデラシオンに着いてすぐに向かったのはインバイト家当主、ファエクスの下だ。
ファエクスは白崎が来るとすぐに出迎えに向かう。
「おぉ我が麗しの姫、よくぞ戻られた…」
(…私はあなたのものじゃないのだけど!)
「えぇ…ファエクス卿、お久し振りですね。」
白崎はファエクスに誘われるまま室内に移動し、今村の指令書通りの言葉を連ねていく。ファエクスはまるで掌で転がされるかのように話題を操作された。
(…ここまで来ると怖いわね…今村くんが凄いのか…この男が間抜けなのか…)
そして、頃合いかと判断した白崎は話の内容と雰囲気を一変させた。
「…そういえばあなた…ニア家のお嬢様と懇意にさせてもらっているらしいですね。」
今までの和やかな雰囲気を一転させ、白崎は今村の指令書にあった出来るだけ蔑むような視線という文言通りにそれを実行。その結果絶対零度の視線を向ける。
「そ…それが何か…?」
「私も少しウェスタ様とは個人的に仲を良くさせてもらっているのですが…少々不穏な噂を耳にしましてね…」
思ったより狼狽するファエクスに白崎は追撃を加える。
「何でも我がネージュ家の座を乗っ取ろうとなされているとか…」
「馬鹿な…そんなわけありませんよ!」
「Dシリーズの完成と共に兵力も揃いますし、資金の方もニア家のお力を借りればどうとでもなると仰っていたようですね。」
薪が燃えているとはいえ北国。室内はさほど暑くないというのにファエクスは汗を流している。
(くっ…アレは罠だったか…私としたことが…交流がないと思っていたがあるとは…)
事実唆されてそういったことを口走った覚えがある。そして、ネージュ家には翻意の懸念あり。というだけで貴族を殺すことができるくらいの権力を有している。
(この小娘が求めているのは何だ…?この話はすでに上に通っているのか…?)
「この話はまだ上にはいってないわよ?」
思考を読んだかのような台詞を吐く白崎に男は口を挟めなかった。
(…ここからは今村くんが考えたことと違うことをするから切っておかないとね…多分違うことしたら怒られるし…)
この時点で勝ちを確信した白崎は今村が付けた監視機械の電源をリモコンで切った。そして、自分で考えた台詞を語り始める。
「私に相応しいのは、本当に能力がある人。そして、思い切りが良くて一緒にいると安心が出来て頭の回転がいいこの人しかいない。」
白崎はそう言って今村の写真を見せる。するとファエクスは顔を青くした。
「こ…これはあの大会の時にいた…」
「…見えてたの?そうよ。彼。私と…」
白崎が何か言っているが、ファエクスの耳には入らない。
公女がこいつと付き合うというのに婚約者である俺は邪魔だろう。消される…それに例え消されなくともこいつが居ればDシリーズの研究は必要ない。凍結される…どちらにしろこいつが来たら俺は…俺の未来は…)
思考が真っ黒に染め上げられていく。そして白崎のある言葉を聞いてファエクスは行動に移すことを決めた。
「…まぁこれだけ言っておいてなんだけど、まだ彼は私に興味をもってくれてない……」
白崎は不自然過ぎるタイミングで急に眠りに落ちた。ファエクスが荒い息を吐く。
「お前が悪い…お前が悪いんだ…」
そう言うとファエクスは白崎の美しい白い髪を掴んで自分の隠し部屋に引き摺り込んでいった。
「…おね…白崎さん大丈夫ですかね…」
「んー?まぁ大丈夫だろ。色ごとにうつつを抜かしてるアホ王女の汚名は被るかもしれんが一時的なもんだ。婚約破棄が成立してから汚名を雪げばいい。」
今村は計画に協力してくれたウェスタ・ニアに料理を振る舞いながら祓の問いに答える。
「…というより、私担がされてましたのね…専属料理人じゃないんですか…あむ…まぁ美味しいからいいですけど…」
「追加。」
「あ、私の方もお願いしておきます。」
「うぎゅう…美味し過ぎる…もうお腹いっぱいになりつつある私の体が恨めしい…」
ウェスタが食べ終わっても周りの親衛隊の分もあるので料理を続行している二人を前にウェスタが苦しげな声を出す。美味しそうな料理がどんどん出ているのにもうそろそろ限界なのだ。
「あ、あのホテルに技術提供してるから…今俺が作ってるレベルだったら出せると思うぞ。」
「…因みにあなたの全力で作った料理を食べてみたいのですが…」
「死ぬ覚悟があるなら…いや、精神力磨いて来い。強くなったらその分レベルを上げよう。」
ウェスタの頼みに今村はこう答えた。そして、宴会は終了となり、残った食材の争奪戦などが行われ、今村は楽しげにそれを見送った。
(…そろそろ監視が送られてきてもいい頃なんだが…うーん。まぁ話し合いが長引いてるのかもしれんしな…白﨑が余計なことを言って怒らせてるかもしれんし…それでもまぁ1週間はもつようにしてるから大丈夫と思うが…)
人間如きに破られるものではない結界を生成する監視なのでその点には不安はない。ただ、時々白崎が訳の分からないことをするのが気にかかる。
(相手を知らず知らずに追い詰めるのが得意だからなぁ…あいつ。)
それでも一応義理は果たしたと今村は気にしないことにする。それに1週間無傷なのにやられる程馬鹿ではないと思っているのだ。
「ま、それなりに信用してるしな。」
「…先生…あの…私は二人でも大丈夫ですから…私を捨てないでくださいね…」
信頼関係のようなものを見た祓が不安気にそう言ってくるが、今村は何のことかわからない。だが、何となく不安気なのは分かったので宥めておく。
「何のことかわからんが…とりあえず最近蔑ろにしすぎな気がするから今日は『幻夜の館」に残って出来る限り楽させてやろう。」
恋人役まで買ってもらっていた相手に対して流石に酷いと思っていた今村はこれまでの償いの意味を込めて甘やかすことにした。
薄暗い部屋の中、意識のない白崎を前にファエクスが下卑た笑みを浮かべる。
「クックック…第二公女が生きていたのか…これは本当にネージュ家を…」
手に持っていた注射器を捨てて、ファエクスは良い情報を得た…とほくそ笑む。
「リッシュ家の坊主がコロル様に心底惚れきっていたからな…大金を積んで婚約者になった位だ…この情報があれば資金は…」
白崎を部屋の中に取り残してファエクスは笑いながら奇怪な屋敷を後にした。
ここまでありがとうございます!
ファエクスは貴族ですが、研究一本だったため、腹芸に慣れていなかったのです。




