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例外者の異常な日常  作者: 枯木人
第五章~家庭の事情~
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7.作戦決行

 そんなこんなで夏休みに入って初めの方。今村は祓を連れて自宅へ向かった。


「…『アクトイフラバーズ』…ちっ…入りきらんか…」

「…?何したんですか?」


 「幻夜の館」を出て自転車の後ろの荷台に祓を乗せ、自宅へ向かう前に今村は自己暗示をかけた。


「…あー気にするな。ちょっと想像が及ばなかったから役に入り切れなかったんだよ。さて行くか。」

「はい。」


 祓の今日のコーディネートは水色のノースリーブの上に軽く白い上着を羽織り、下は薄いラベンダー色のスカート。それに鈴蘭の花があしらわれたサンダルだ。

 そんな祓は自転車の荷台に乗って今村に密着している。身動きが取れずに落ちたらどうする気なんだろうか…と今村は思いながら自転車を進めて行き、そして自宅に着いた。


「…ちっ」


 玄関前に人の気配がして舌打ちを一つ打つと今村は玄関の鍵を開けて中に入る。祓もそれに続いた。


「お…お邪魔します。」

「はっはっは…はぁ!?仁!これはどういうことだ!?こんな可愛い子をどこで捕まえた!?」

「学校。」


 入るなりハイテンションの筋肉がいた。今村の父親礼二だ。今村は冷めた視線を向けると家の奥に進んでいく。祓はそれに付いて行く。


「いらっしゃ…」

「えぇっ!」

「お邪魔します…」


 進むと20歳くらいの長身の普通の顔立ちの女性、妹の呉羽と見ただけでは年齢が全く分からない女性がいた。

 今村は彼女たちの反応を見て苦虫を3ダースほど噛み潰した顔になる。


「…まぁいいや。さて、これでお見合いの件はなしな。」


 とりあえず単刀直入に用件を言ってのける今村。家族の反応を見ることにする。


(…『サイコハック』)


 ―――ここまで美女を連れて来るとは…うぅむ。仁めやりおる…あいつでもいいなら俺でもいいんじゃ…―――


(とりあえず父さんは論外として、)


 次に母親を見る。


 ―――…本当に付き合ってるのかしらねぇ…確かめないとねぇ…―――


(ふむ。少々疑ってるな。まぁこれ位なら問題ない…さて、問題は…)


 ―――絶対兄ちゃん騙されてるよ…こんな美人さんが兄ちゃんのことを好きになるわけがないもん…―――


(やっぱりか。さて、作戦決行。)


 案の定妹は疑ってかかっていたので今村は術を解いてハックを止めた。因みに今村がテレパスを使えることを初めて知った祓はこれまで以上にテレパスを使うのに慎重にしていこうと思った。


「まずは席に着いて?」


 母親の言葉に一同は席に着く。


「それじゃ自己紹介を…」

「天明祓です。仁さんの彼女で…今年15歳です。結婚したいと思ってます。」


 結婚の言葉に場の空気が変わる中、今村はいきなり予定外の言葉を言われて顔を引くつかせそうになるのを表情筋の力で抑ええた。


(だれがそこまで言えと言った…俺とお前は別れる設定だぞ?説明したよな?)


「け…結婚ねぇ…因みに息子のどんな所が…」

「捻くれてるけど優しくて、頼りがいがあって、物知りで…」


 祓の褒め言葉が続く中、今村は発狂したい気分を押し殺して平静を保って座っている。


(…後で憂さ晴らしにどっか行こう…)


 罪もない生き物の血が流れることが決定した。


 そしていつになく饒舌だった祓の今村賛美が3分を越そうというところで母親が祓を止める。


「わ…わかった。うん…」

「…?これだけでですか?」


(これのどの辺がだけ・・って言えるんだよ…)


 きょとんとしている祓に対して今すぐ塩を口の中にぶち込んで甘さを緩和したい今村。リップサービスにもほどがあると思っていると母親の矛先がこっちに向いた。


「それであんたは?どこが好きなの?」

「全部。」


 面倒だったのでこれで済ませる気満々だった今村。だがそうは問屋が卸さない。


「それじゃわかんないでしょ。祓ちゃんはしっかり言ってくれたんだからあんたも言いなさい。」


(あ~チャーンドが冥界に何か変なの作ってたよな。あれに行くか。それはそれとして『イーヴィルウィスパー』対象祓)


 ダンジョン崩壊の危機が訪れる中、祓が興味津々で今村の様子をうかがっていると今村の頭上に変な靄が現れた。


 ―――キキッ。あの女は君に好意を持っているわけじゃないんだよ?保険を掛ける意味で君に料理を振る舞ったり接してくれているだけさ。他の人にも同じことをしているに決まっている―――


「料理上手で、人に分け隔てなく接すること…」


 ―――その中でも君と一緒にいるのは憐みの心と君が強いからで…―――


「優しくて頼ってくれる…」


 ―――それにあの女は君の金も目当てで君自体には何の魅力も感じていないんだから―――


「思慮深くて慎み深い…」


 見事な変換能力を示す今村。祓は今すぐにでもあの靄を取り払って大声で違うと言いたいのだがこの場でそれは出来ない。

 家族の方は今村が他者を褒めるのが珍しかったのだろう。目を真ん丸にしている。


 因みに今村の今の感情は無だ。機械的に変換して目の前を見ているだけである。


(違います…そんなこと…私は先生だけしか…先生だけで…)


 泣きそうになる祓。あの能力が何なのか分からないのが不安に拍車をかける。もし今村が考えている思考の一部だとすればこの前の怪談の比ではないくらい恐ろしいのだ。


「あぁもういいや惚気は…」


 今村の母親がそう言って止めるまで靄は晴れず、祓は今日の明るい気分が台無しになった。


「はい!兄ちゃん因みに馴初めは!?」

「鍋。」


 祓の心の中とは別に盛り上がる空気の中妹の呉羽が質問して今村が即答した。また空気が止まる。


「栄養が偏ってたから鍋を作って食わせた。」

「…どこで?」

「こいつの家。」

「向こうの両親にはもう挨拶したの!?」

「…いや…こいつ親いねぇし…」


 止まった空気が冷え込んだ。そんな中今村は思う。


 ―――だから一応こいつが成人するまでは面倒を見ないといけない気になるんだよな~結構付き合いあるし、身内にいれてもおかしくはないからな。…まぁそんなこと言ったらこいつは嫌がるだろうが…―――


 その言葉に祓は一気にテンションを上げる。先程まで嫌われているのではないかと思っていた所に身内入りを言い渡されたのだ。テンションが下がるわけがない。


「いえいえ…気にしないでください。今は仁さんがいますから。」

「…惚気るね…」


 気まずい空気にしてしまった呉羽がジト目で祓を直視して顔を赤くさせる。文句を言いたくても直視すれば嫌でもその美貌が分かってしまう。その為何も言えなくなるのだ。


「そ…それじゃあ今日の予定は?」

「あ、仁さんにお任せします。」


 祓の言葉に母親は頷いた。


「…ないなら親睦を兼ねてご飯食べに行こうと思ってるんだけど?」

「それでいいんじゃね?」


 そして今村家一同プラス祓は外に行く準備を始めた。


 その時、何者かが一時消えて冥界に行き、チャーンドが仕事の合間を縫って一生懸命作った迷宮を壁破壊と床破壊という手段を以てものすごい速さで攻略し、チャーンドを涙目にすることで憂さを晴らした人がいた。

 その人はそれで幾分か気を良くして帰って来てお土産を祓に渡したそうだ。




 ここまでありがとうございました!


 …そうは問屋が卸さないって死語ですかね…?

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全盛期、相川だった頃を書く作品です
例外者の難行
例外者シリーズです
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