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例外者の異常な日常  作者: 枯木人
第一章~最初の一年前半戦~
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10.料理

 今村が祓の部屋に行くと祓の部屋には昨日まではなかった白と黒を基調とした家具がたくさんあった。


「えーと、ここ昨日と同じ部屋だよな……」

「はい。テレパスがなくなったので睡眠なども取れるようになって人並みの生活ができそうだと思いました。それに、先生が生活感がないことが気に入らないと仰っていたので揃えました。」

「……そんなに困ってたなら最初に言えよ……『黒魔こくま卵殻らんかく』ぐらいすぐに作れたのに……」


 呆れる今村の言葉に祓は興味を持ち、今村に尋ねる。


「……『黒魔の卵殻』って何なのですか?」


 その質問に今村は若干楽しげに、そして少し早口で答える。


「あー、呪力じゅりょくのみで構成される薄い膜みたいなもので、使用者を外界からのストレスから守るものかな……で、大体は寒暑が厳しいところに行くときに使う。普通の人外は魔力頼みで解決するから基本俺しか作れないんじゃねぇかな? ああ、余計なこと言ったがまぁこんな感じ。」

「……呪力って何ですか?」

「ん~今は答える気分じゃないな。大体飯食いに来たんだろ? 俺が言うのも何だが、冷めるぞ?」


 祓はそれ以上の追及は不可能と判断して昨日までは缶詰しかなかったキッチンに行く。そしてすぐに料理を持って来た。


「お~すげぇな。」


 祓が持って来たのは焦げ目ひとつない綺麗な卵焼きだった。今村は祓に勧められるまま黒のテーブルの方に行き、席に着いて卵焼きを食べる。が、一口食べて首を傾げた。


「……味がねぇ? 祓、調味料は何入れた?」

「調味料?」

「……お前調味料も知らずにこれ作ったのか?」


 今村の問いに首を傾げた祓を見て今村は驚愕する。祓は話を続けた。


「お姉さまに簡単な料理を訊くと卵を何度か重ねて巻く簡単な料理と聞いたのでこれにしたのですが……」

「……その情報量でこれって……天才じゃねーか……」


 更に驚く今村だったが気を取り直して祓に言った。


「調味料は昨日買った奴の中に入ってる。それ使え。で、料理に調味料使うのは基本中の基本だからな? 特に使い古しの表現だが『さしすせそ』の順番で入れて……」


 長くなりそうな今村の説明を祓はぶった切った。


「……わかりました。今回はその中の何を入れればいいですか?」

「……まぁ『せ』だ。わかってるなら説明はいいだろ。頑張れ。」


 説明を途中で遮られたので説明をやめると祓はキッチンに戻って行った。今村はその間に味なし卵焼きを食べて待つ……が、そのとき祓がキッチンに持って行ったものが目に入り、席を立った。


「……何してるのかな?」


 今村は卵を割り終え、軽くかき混ぜた祓に口元をひくつかせながら丁寧に訊いた。


「……え?」

「……俺が作った青酸カリを何に使おうとしてるのかな?」


 今村は祓の持っている大きめのカプセル―――青酸カリ(シアン化カリウム)と書かれたそれを取り上げて祓に再度尋ねた。


「? 料理ですけど……」

「俺をどう料理する気なんだ? わかってねぇじゃねぇか!」


 祓がこいつ惚けたか? という視線(今村主観)をぶつけてきたので若干大声になる今村。だが祓は冷静に返してきた。


「え……ですが、先生が昨日買ったもので今日残ってる『せ』のつく物ってこれしかないですよ?」

「『せ』はせうゆ……つまり醤油だ……」


 今村は疲れたようにそう言った。


(確かに前世じゃ毒物を好んで食ってた時期もあるが……今は普通に人間やってるんだから止めてくれよな……)


 そして嫌な予感がする今村は続ける。


「……他のはわかるよな……いや、フェデラシオンじゃあないかもしれないからどうなのか知らないが……『そ』は規則破りの味噌だからこの国でもわからなくていいと思う。」

「……大丈夫です。先生が昨日買ったもので『さ』、『し』、『す』で始まるものですよね?」

「あぁ。」


 今村が頷くと祓は思い出すために顔を伏せ、すぐに顔をあげると言った。


「では、サリチルアニリド、硝酸、水酸化ナトリウムです。」

「……俺なんか恨まれることしたっけ?」

「……? 違うんですか?」


 今村の呟きに祓は可愛らしく首を傾げた。そんな物を買っている今村も今村だが、先日とは違う可愛らしさを伴う表情を見せる祓に今村は自分で答えを出させるためにヒントを出すことにした。


「……食えるもの。っつーか味ってわかるよな?」

「甘味、酸味、苦味、塩辛さ、そしてうま味ですよね?」


 祓が即答すると今村も満足げに頷く。


「うん。わかるんなら話は早い。それがあるものが調味料だ。」

「……わかりました。では、サッカロース、ショ糖、スクロースですね?」

「お前それ全部同じ……ってか甘味しかねぇ……」


 今村は諦めた。


「あー……まず『さ』は砂糖。」

「……スクロースじゃないですか……」


 何となく不満げな祓を無視して今村は続けた。


「『し』は塩」

「……塩化ナトリウムなのに……」


 またも不満気な祓。しかし今村は無視する。


「『す』はそのまま。酢だ。」

「……酢酸ですよね?」


 今村が頷くと祓は不満げな顔をさらに深めた。今村は何とか納得するように努める。14歳の祓ちゃんはしぶしぶ納得して、薬品を片付けた。


 そして薬品を片付けた後今村は祓にこう言った。


「……まぁ個人的には玉子焼きについては出汁巻きが好きだから出汁入れた方が早いんだけどな。」


 祓は卵焼きに今村が昨日買っておいた市販の魚と昆布の混合出汁を入れて焼いた。とてもよくできていて、美味しかったそうです。





 因みに薬品の説明として(あんまり読む必要はないです※訂正は大歓迎です)


 サリチルアニリド:抗カビ、抗菌剤として用いられた。皮膚や粘液に対する作用が強いので現在は使われていない。※食べられません


 硝酸:濃度によって使用方法は様々。濃度によらず基本強い酸化剤。因みに市販の濃硝酸の濃度は60%~62%位。今村は頑張って銃火器に使う発煙硝酸(濃度86%以上)にしてた。※食べられません


 水酸化ナトリウム:強塩基。空気中の水分すら持っていく困ったちゃん。皮膚に触れると皮膚の水分を無理やり吸収。皮膚は黒く焦げる。※食べられません


 青酸カリ:体内に入ると血液中のヘモグロビンと強く結びつくので呼吸困難になる。外気に触れると二酸化炭素と結びついてアーモンド臭がする。ただしかなり酸化しやすいので外気に触れるとすぐに炭酸カリウムになる。こうなると無害だが、お腹は壊すかもしれない。※食べられません


 以上ファンタジー溢れる説明でした。

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全盛期、相川だった頃を書く作品です
例外者の難行
例外者シリーズです
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