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一章 オロチの呪いは○転換!? その二

「どういう事ですか?」

 フウガは不審を隠さない表情のまま、ソウゴとシズネの顔を交互に見る。

「本当なら、この事はあまり話したくはないのだけど……ここに至っては致し方ないわね」

 シズネは観念したように頷いた。

「スサノ君、確かに貴方の言った話は間違いではないわ。オロチは五十年前に何の前触れもなく姿を見せ、王国を地獄絵図には変えた。ただ……地獄とは言っても、大都市を一晩で滅ぼしたとか、大挙した兵達を独りで返り討ちにしたとか、そういう事ではないの」

「僕も当時は生まれていなかったから、聞いた話だけどね。オロチによる直接的な人命の被害は、一つもなかったらしい」

「ええ?」

 シズネとソウゴの言葉に、フウガは、ますます困惑する。

 では、一体、オロチは何をしたというのだろう?

 少なくとも神聖騎士団が出張り、神器を用いてまで封印をしたのだから、何かしら只事ではない事を引き起こしたはずだ。

 シズネは、フウガの疑問を察して、本題を口にする。

「オロチはね……その最強の力を使って――」

「使って?」

「うん……その……悪戯をしたの。思いつく限りのありとあらゆるね」

「…………」

 シズネの言った意味をすぐには呑み込めず、フウガは目をしばたたかせて、しばらく沈黙する。

 時間にして、二分ほど。

 そして、ようやく、

「い、悪戯……? 悪戯って、あの悪戯?」

 そのあまりに馬鹿馬鹿しい事実を理解した。

 ソウゴがなんとも微妙な表情で頷く。

 その顔から見ると、彼も初めてこの事実を知ったときには、フウガと似たような反応をしたのかもしれない。

 シズネは顔をしかめて、当時の事を説明していった。

「いやね? 当時の王国の混乱は凄まじかったのよ? なにせ、オロチの悪戯といったら、浮気している男達が愛人と逢引している場に妻を放り込んだり、女性の目だけ男の服が透けて見えるようにしたり、王国中の街の地面を全て氷みたいに滑るようにしたりという大掛かりなものから、砂糖と塩をこっそり入れ替えたり、会う人と会う人を背後から大声で脅かしたりとかいう小さなものまで……もう無茶苦茶で」

「…………」

 それは、確かに――ある意味で地獄絵図なのかもしれない。

 普通に暴れるよりはマシではあろうが、相手が最強の妖魔である以上、ただの悪戯でも、やたらと質が悪過ぎる。

 だが、それにしたって、

「……く、下らない……」

 その一言に尽きる。

 こんな阿呆で馬鹿馬鹿しい妖魔を封印するために、神聖騎士団が動いたというのは、確かに後世には残したくない事柄だろう。

 羞恥心を誤魔化すように、シズネは曖昧な笑みを見せる。

「と、ともかく、本当の事を貴方達に教えなかった理由は理解してもらえたでしょう? 一応、嘘は言ってないわけだから、そこは勘弁してもらえると助かるわ」

「はあ……」

「また、あんな事態を招くのは絶対に避けたいし、オロチは呆れるほど悪戯好きな部分を除けば、理性的で人間に対しても悪感情を抱いていない善良な妖魔よ(……認めたくはないけど)。だから、この取引は、決して無謀なものではないはずなの」

『まあ、そういう事だな。私はこう見えて、紳士なのだぞ?』

「騎士団を動かすような悪戯をしまくる紳士がどこに居る!?」

 自慢気に言うオロチに、思わずフウガは突っ込む。

 そして、次に盛大な溜息を吐き出した。

「……とりあえずわかりました。正直、納得はしたくはないんですけど、そうしないと話が進まないですし……」

「そう、助かるわ!」

 シズネは安堵し、隣でソウゴが申し訳なさそうに笑みを浮かべていた。

 次いで、シズネの視線がオロチへと移動する。

「それで、オロチ。貴方は取引を受ける気はあるのかしら?」

『ふむ、そうだな』

 顎に指を当て、オロチは考え込む。

『まあ、〈人界〉での悪戯は、ほぼやり尽くしたしな。また封印されるぐらいなら、このまま〈妖界〉に戻る事自体に異存はないが……」

「では……」

『ただな』

 オロチ以外の三人がぱっと明るい表情を見せかけた所で、悪戯好きの妖魔は言った。

『このまま、あっさりと帰るのも味気ない。せっかくだから、最後に私も〈人界〉で思い出作りをしたいのだよ』

「思い出作りだって? 一体何を……」

 嫌な予感を覚えて、フウガが訊く。

 しかし、それには応えず、オロチは腕を組むと、うんうんと唸り声を上げながら、何かを長々と考え込む。

 そして、不意に、

『よし、思いついたぞ!』

 ぽんっと拳で自身の掌を打った。

 そして、怪しい光を宿した双眸でフウガを見ると、指を鳴らす。

 途端。

「へ?」

 フウガの右手の手の甲に、淡い光と共に蛇の紋様が浮かび上がったのだ。

「げ!? なんだこれ!」

『呪いだよ、少年』

「呪いだって!?」

 フウガは目を剥く。

 シズネとソウゴも予想外の展開に唖然としていた。

 オロチは顔の横に手を持ってくると、指を三本だけ立てた。

『三ヶ月だ。もしも三ヶ月経っても、この呪いが解けなかった場合――』

 フウガは、ごくりと唾を呑み込む。

「ど、どうなるんだよ」

『少年は……』

「俺は……?」

『完璧な……』

「完璧な……?」

『女になるのだ!』

 沈黙。

 静寂。

 外で雀が何度か呑気に鳴いた。

 その後で、

「「「ええええええええええええええええええ!?」」」

 今度は三人一斉に、驚愕の声を上げた。

 フウガは慌てて、オロチに詰め寄る。

「ふ、ふざけんな! 今すぐ解け! こんな呪い!」

『無理だな。この呪いは一度掛けると、私でも解く事は出来ん。もちろん、他の人間などでは、話にもならんだろうさ』

「マ、マジかい……」

 怒りを通り越して、フウガは絶望をする。

 それでなくても、自分は悪人面で苦労しているのだ。

 これで女になったりしたら、どれだけ悲惨な人生を歩む事になるか……。

 ――いや、それだけじゃない。

 自分にはもう一つそれを受け入れられない理由がある。

『逸るな、少年。ある条件を満たせば、その呪いは自動的に解ける』

「な、何だ、それは! 教えろ!」

 再び復活して、問い詰める。

『シズネ。この学園には、ツクヨミ・ウズメという超強い女子の騎士候補生がいるな?』

「え?」

 いきなり話の矛先を向けられて、シズネは目をしばたたかせる。

 ツクヨミ・ウズメ。

 学園内規定の階位で最高位であるS参に、史上初めて認定された少女だ。

 まだ騎士候補生の身でありながら、現在の実力でも神聖騎士団の師団長を務める事さえできるだろうとまで言われている。

 彼女に関してなら、フウガも知っている――というか、学園はもちろん、王都でも彼女の名を知らぬ者など居はしないだろう。

 シズネは訝し気な顔で首肯した。

「え、ええ。確かに在籍していますが……何故、それを?」

『なに、この少年の記憶を少しだけ探ったのだ』

「何してんの、お前!?」

『怒るな。ちょっとだけだ。それでだな』

 びしりとフウガの鼻先を指差すと、最高に嬉々としてオロチは、それを言い切った。

『学園史上最低の落ちこぼれ言われている少年――スサノ・フウガ。お前がガチンコでそのツクヨミ・ウズメと戦い、勝利する事。それが、この呪いを解く条件だ。どうだ、面白いだろう!』

 フウガは口の端を盛大に引きつらせる。

「……おい、それは本気で言ってるのか?」

『私は悪戯に関しては、常に本気だ』

「で……」

『で?』

「出来るかあああああああああああああああああぁぁ!!!」

 今日、三度目になる絶叫を、フウガは学園長室に響き渡らせた。

お読み頂きありがとうございました。

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