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三章 純白の憎悪とひび割れる平穏 その四

 黄昏時。

 陽が沈みかけた薄暗い世界では、すぐ傍の人間の顔さえ陰ってしまい、誰だかわからなくなる。

 故に、“誰そ彼”。

 それは逢う魔が時とも言われ、世界が赤で塗り潰されるとき、人は人ならざるモノと出会うという。

 まさに魔性の時間帯。

 事実、夕闇の中は多くの妖魔が好んで活動すると言われる。

「まったく腹立たしい!」

 そんな不吉さを漂わせる時間、サワメ・ナキは激昂していた。

 四年生と五年生――上級生の教室の在る第二校舎。

 三階の端にある空き教室である。

 ここはツクヨミ・ウズメ親衛隊の作戦会議室のような場所とされていた。

 もちろん無断に、だ。

 だが、特別誰かに迷惑が掛かるわけでもなく、そもそも使われてない部屋だったので、教官達は放置している。

 ……単に異様なまでの団結を誇る親衛隊に関わり合いになりたくなかっただけかもしれないが。

 空き教室は窓から入る夕陽の光で、外と同じく赤で染め上げられている。

 現在、人気のないそこに居るのは、サワメ・ナキを除けば、彼女の取り巻きである双子のハニヤ姉妹のみだった。

「ナキ様の言う通りです」

「一体、どうしてあんな男にウズメ様は御執心なのか……」

 スビコとスビメは、二人してナキに同意する。

 あまり感情を表に出す双子ではないが、内心はナキと変わらぬようだった。

「どうせ、あの男がウズメ様をかどわかしたに決まっています!」

 ナキは苛立たしげに吐き捨てる。

 そうだ。

 そうに決まっている。

 間違ってもウズメの方から、あの男に好意を寄せたなど有る訳がない。

 だから、これは嫉妬の感情などでは決してない。

 そんな無様な感情を、あんな平民の男相手に抱くなど、貴族の名門出の自分が出来ようか!

 ナキは悔しげに爪を噛み、

「なんとしてもスサノ・フウガをウズメ様から引き離さないといけませんっ」

 そう語気も荒く口にした。

「しかし、ナキ様……」

「下手に動けば、今度こそウズメ様の機嫌を損ねてしまいます」

「…………」

 ナキは歯噛みする。

 実際、その通りだろう。

 フウガをどうにかするなら、絶対にウズメに気づかれてはならない。

 だが、昨日の今日に行動を起こせば、それがナキ達の仕業だとあの少女が気づかぬはずもなかった。

 少なくとも、ほとぼりが冷めるまでは、下手な事は出来ないだろう。

「……歯痒いですが、今は様子を見るしかないという事かしら……」

 望まぬ結論にナキが至ろうとした、そのとき。


「あら、そんな面倒な事をする必要があるの?」


 鈴を鳴らしたような声が、その場に響いた。

「だ、誰ですか!」

 三人の視線が一斉に声のした方に集まり――息を呑んだ。

 声の主は沈む夕陽を背に、窓際にひっそりと佇んでいた。

 一言で表現するならば、白。

 髪も肌も瞳も――外套のような服すらも、全てが純白。

 赤の世界の中で、その色を喪失した小さな少女は独り立っていたのだ。

 年は、まだ十歳程だろうか。

 少なくとも学園の騎士候補生では有り得ない。

 学園に入学出来るのは、十四歳になった子供のみだからだ。上過ぎても、下過ぎても入学は許されない。それは騎士として教育するのに、精神的にも肉体的にも、十四歳という年齢から始めるのが最も適しているからである。

 少女はころころと笑うと、

「大切な先輩のためなんでしょう? だったら、彼女にどう思われようが邪魔な人間は排除すべきよ」

 幼い容姿にそぐわぬ大人びた口調で、いきなり物騒な事を口にする。

 可愛らしい仕草なのに、見る者を酷く不安にさせる――そんな矛盾した空気を彼女は持っていた。

 そう。

 まるで、この世の者ではないような――

「ど、どこの誰だかは知りませんが、そんな事は貴方に言われる筋合いはありません! それよりも――一体、いつの間に入って来たのですか?」

 そう問うたナキの声は緊張を含んでいる。

 彼女の異常な風体や、わからぬ正体の事もあるが、何より。

 あの少女が居るのは窓際なのだ。

 つまり、廊下に続く扉とは、正反対の位置。

 それなのに、ナキもスビコもスビメも――三人の中の誰一人もが彼女が教室に入って来た事に気がつかなかった。〈言力〉を用いて窓から入って来たにしても、誰にも感づかれずに侵入するなど出来るとは思えない。

 いや、そもそも、そんな“普通の行為”で、ここに姿を見せたかすら怪しいだろう。

 ナキの言葉に、少女はつまらなそうに唇を尖らせる。

「どうでもいいじゃない、そんな事。それよりもフウガをどうにかしたいんなら、私が良い方法を教えてあげるわ」

「なんですって……?」

 ナキは不審を隠さず、怪訝な表情を浮かべる。

 傍に居る双子も警戒した様子で、身構えていた。

「簡単よ」

 少女がにこりと笑う。

 そこに邪気など一切ない。

 まるで楽しい玩具を見つけた子供のような笑顔で、

「彼を殺せばいいの。引き裂いて、突き刺して、踏み潰して、ぐちゃぐちゃにして捨ててしまえばいいのよ。……ねえ、簡単でしょう?」

 そんな事を言った。

「なっ――」

 ナキは絶句する。

 スビコもスビメも、ただ呆然としていた。

 あまりに突然に姿を見せた白の少女は。

 無邪気な笑顔で、こう言ったのだ。

 邪魔だというのならば、スサノ・フウガを殺せと。

 無慈悲に、残酷に、冷酷に、殺し尽くしてしまえと。

 そんな行為は、当たり前で簡単なのだと。

「み、見損なわないでくださいませ! 如何に相手が下賤の者であろうと、貴族たる私がそんな非道な、事……を……」

 ナキの怒りは続かない。

 細まった少女の双眸が、不意に怪しい光を灯していたのだ。

「ねえ、そうしましょう?」

「――――」

 引き込まれる。

 心が引き込まれる。

 思考が。意思が。信念が。

 捻じ伏せられ。踏み躙られ。叩き折られ。

 ナキの心は、別のどす黒い何かに埋め尽くされていく。

 それは、傍に立つ双子も同じだった。

 何かの正体は、憎悪。

 彼女達のものではないそれに、三人は身も心も支配される。

「さあ、行きましょう。貴方達の大切なツクヨミ・ウズメを穢したスサノ・フウガを殺すの。望むままに。憎むままに。ただ一途に」

 血を塗ったようにそこだけ紅色の唇を三日月にして、少女は笑う。

「大丈夫。許されるわ。血も罪も後悔も、全て貴方達に降りかかるけれど――私だけが許してあげる」


 黄昏時。

 陽が沈みかけた薄暗い世界では、すぐ傍の人間の顔さえ陰ってしまい、誰だかわからなくなる。

 故に、“誰そ彼”。

 それは逢う魔が時とも言われ、世界が赤で塗りつぶされるとき、人は人ならざるモノと出会うという――。


 ◇ ◇ ◇


「いいか! アンタらは阿呆で! 馬鹿で! 考えなしで! どうしようもない大ボケ野郎共だ!」

「「…………はい」」

 容赦なんて欠片一つない罵倒を食らって、ベッドに横になったフウガとそのすぐ傍で椅子に腰掛けたソウゴは身を小さくする。

 ここは学園の第三校舎の一階にある医務室だ。

 あの特訓を終えて、当然のように立ち上がる事も出来ないほどボロボロになったフウガはそこへ運ばれたのだ。そして、それに驚き、ライの話を聞いて事情を知った医務室の責任者――スクナ・ヒナコに速攻で叱責されたのである。

 ヒナコは、切れ長の目に、赤色の髪を肩の辺りで無造作に切り揃えた男勝りな二十代後半の女傑だ。第一ヒノカワカミ学園の騎士候補生の健康管理は全て彼女が受け持っており、候補生の男女問わず「スクナ先生にだけは逆らってはならない」というのは共通の意見だった。

 ウズメが学園最強なら、ヒナコは学園最恐なのだ。

 ちなみに、白衣を自分流に着崩す彼女は、〈言力師〉の中でも数少ない治癒専門の〈言力師〉でもある。

 ヒナコは煙草を口の端に咥えたまま柳眉を逆立て、

「簡易の訓練場を作ったって所までは良い! だがな、そこで一教官と一候補生が〈錬守結界〉内だとはいえ、本気で戦り合うなんて正気か、アンタらは! 〈錬守結界〉ってのは、確かに中に居る人間がどんな攻撃を受けても、死なない程度にまで緩和してくれる。それでも、それはあくまで“死なない程度”に過ぎないんだ! 強い攻撃を受けりゃあ、骨の一本や二本はヒビいったり折れたりもするし、内臓にも損傷は蓄積する。それが積みかさなりゃあ、万が一でも死ぬ事もある! ……おい、聞いてんのか!」

「「き、聞いてます!」」

 二人は背筋を伸ばして、すぐさま返事をする。

 怪我一つなく椅子に腰を下ろすソウゴはともかく、フウガの方はベッドに横になっている上、肋骨やその他各所の骨に何本かヒビが入っており、吐き気や痛みのオンパレードだ。しかし、そんなものを一時的に忘れるほどにヒナコの怒りは凄まじかった。

 ちなみにライ、ゴウタ、レナ、ミヨの四人は、口を挟む事も出来ないので、医務室の端っこで大人しくしていたりする。フヨウの姿がないのは、医務室に入る前に「…………用事があるから」と言い残して姿を消したからだ。今にして思えば、彼女は、この事態を予想して、先んじて逃げ出したのだろう。

 ヒナコは呆れ果てた顔で、手入れなど全くしていないのに滑らか髪を保つ頭をがしがしと掻いた。

「ったく! ソウゴもソウゴだ。アンタが戦いの場に立ちゃあ、歯止めが利かなくなるのは本人が一番わかっているだろうが……!」

「……面目ない。もう、出来る弁解もないよ」

 眼鏡を掛け、いつも通りに戻ったソウゴは項垂れて、謝罪を口にする。

 しかし、フウガは、

「いや、スクナ先生。特訓の相手を無理言って頼んだのは俺なんです。だから、シンラン教官は悪くない」

 と、すぐさまソウゴを庇う言葉を口にした。

 だが、それはヒナコの鋭い視線で封殺される。

「誰が言い出したのかが問題じゃないんだよ。結局の所、教官であるコイツが候補生のそんな無茶を容認した事をアタシは怒っているんだ」

「…………」

 そう言われると、何も言い返せずフウガは沈黙する。

 彼女は何よりフウガの身を案じているからこそ、本気で怒っているのだから。

 ヒナコは咥えていた煙草を指で掴むと、ベッドのフウガへと突きつける。

「いいか。学園の医療責任者の人間として命令する。もう、こんな馬鹿げた特訓は一切禁止だ。スサノの事情はわかるが、呪いを解く前に身体を壊してちゃあどうしようもないだろ」

 だが、それに、

「それは――出来ません」

 フウガは、即座に反抗した。

「……んだと?」

 ヒナコは明らかに癇に障った様子で、眉をひそめる。

 下手な事を言えば、それこそ拳の一つや二つは飛んでくるだろう。

 それでも退けなかった。

「俺は強くならなきゃいけない。ツクヨミ先輩に勝って、こんな呪いをすぐに解いて、オロチを〈妖界〉に叩き返すんです。だから、特訓を止める事は出来ません」

「スサノ君……」

 ソウゴが驚いた顔で振り返る。

 ――そう、これはすでに決めた事。

 これ以上母の夢を裏切らないためにも、フウガは男で在り続けなければならないのだ。

 これだけは譲れない。譲るわけにはいかない。

 例え、それでヒナコの心配する気持ちを蔑ろにする事になろうとも。

「……ちっ。生意気な」

 強い意志を宿した瞳で満身創痍のフウガに見据えられ、ヒナコは忌々しげに舌打ちする。

「アタシが何と言おうと退く気はなしか? それでソウゴやアンタの友達に迷惑が掛かる事になっても?」

「退きません。もし、そうなったなら教官やライ達には、後で土下座して頭を何度地面に擦り付けてでも謝罪をします。それで足りなければ、埋め合わせが出来るまでどんな事でもするだけです」

 数瞬の沈黙。

 対峙する二人以外の顔には、あのヒナコに正面から反抗する少年への驚きが浮かんでいた。

 そして、不意に。

「これだから意固地なガキってのは……本当に質が悪い」

 腰に手を当て、ヒナコは諦念を面に浮かべながら溜め息を吐いた。同時に、先ほどまでの怒りや威圧感は収まっている。

「それじゃあ……」

「――ああ、特訓を続ける事を許してやる。……ただし」

 ヒナコは指を三本立てる。

「三日に一度だけだ。それ以上は、いくらアタシが治癒してやろうが、アンタの身体が保たないだろう。それに文句があるなら、一日でも早くソウゴともっとまともに戦えるようになるんだね」

 きっとそれが、この特訓に対する彼女にとって最大限の譲歩なのだろう。

 同時に、これ以上は決して譲らないという意思表示でもある。

 フウガは首の痛みも無視して、力強く頷いた。

「……わかりました。その……ありがとうございます、スクナ先生」

「ふん。言っておくが、約束を一度でも破ったら、即座に特訓は中止させるからね。覚えときなよ」

 そう言って、ヒナコは再び煙草を咥えると、紫煙を吐き出した。

「……とりあえず一件落着って事みたいやな。いやー、良かった。あの後、俺らも叱られるもんやとひやひやしとったんですよ」

 医務室に端にいたゴウタが、ほっとした様子で口を開いた。

 それに反応して、ヒナコがじろりとそちらを睨む。

「そういやアンタらの事を忘れてたね。黙って協力してた時点で、アンタらも同罪だし、本当ならガツンと言っておく所だけど……」

 途端、「げっ!」っと後方に退くゴウタを含む協力者の四人。

 しかし、ヒナコは鼻を鳴らして、ただ咥えた煙草を器用に上下させるだけだった。

「まあいい。今回は勘弁しといてやる。この先、こいつが無茶しないように、アンタらがしっかりと監視しときな。もしものときは、今度こそ一緒にお仕置きだからね」

『りょ、了解しました!』

 敬礼でもしそうな勢いで、四人は返事をする。その後、「助かった……」と胸を撫で下ろしていた。

「それじゃ、これからこの馬鹿の治療に入るから、関係ない奴はとっとと帰りな。本当なら、もうとっくに寮に戻ってる時間だろ。ソウゴも明日の準備があるんだから、こんな所でゆっくりはしてられないんじゃないの?」

「あ、そうだね!」

 ソウゴは慌てて席を立つと、

「じゃあね、スサノ君。僕が言えた事じゃないけど、調子が悪いようなら、明日は無理に学園に来なくても大丈夫だから」

 最後にフウガの身を案じる言葉を残して、医務室を出て行った。

 続いて、

「んじゃ、俺らも先に帰るわ。フウちゃん、また明日や」

「スクナ先生の治療は荒っぽいから覚悟しておいた方がいいよ、フウガ」

「……ま、死なない事を祈ってるわ」

「レナちゃん、それって今から治療を受ける人に言う言葉じゃないよ……」

 四人が四人、それぞれの台詞を口にして姿を消した。

 その様子は、明らかにとばっちりが来る前に退散したいという本音が見え見えである。

「良い友達を持ったもんだな、スサノ」

 ヒナコが皮肉交じりに言う。

 それにフウガは苦笑で返すしかない。

「さて、それじゃ上を脱ぎな」

「はい」

 フウガは身体を起こし、ベッドの端に腰を下ろすと、身体の節々の痛みに顔をしかめながら、服を脱いだ。

 ヒナコは、フウガの怪我の具合を指で丁寧に触れて確かめながら、ふと、

「――これは呪いとか特訓とかとは別の話だけどね……」

 そう切り出した。

「……何ですか?」

 フウガは静かに問い返した。

 脇腹の部分を触診するヒナコは俯いているので、表情は読み取れない。

 だが、声だけでそれが真面目な話である事はわかっていた。

「アタシなんかが安易に言える事じゃないだろうが……それでもアンタにとっちゃ辛い過去だというのだけはわかる。だけどね、いつまでもそこに囚われていたままじゃ、アンタは前に進めないだろう。いいかげん忘れる事は無理でも、なんとか振り切る事ぐらいは出来るんじゃないのか?」

「…………」

 それはつまり。

 スサノ・フウガは、いつまで学園で落ちこぼれを演じ続けるのか、と。

 そう問うていた。

 だが、それは今まで様々な人間に、何回も言われてきた事。

 故に、フウガの答えは変わらない。

「先生、違いますよ。忘れるとか、振り切るとか――俺にとってあの過去は、もうそういうものじゃない」

「スサノ、アンタ――」

 ヒナコが顔を上げた。

 途端、とんでもないものを見たように絶句し、固まる。

 それは。

 フウガの目があまりに空虚だったからだろうか。

 まるで大切な部品こころが壊れた人形にんげん――そんな虚ろな姿。

「あの光景は、俺にとってもうどうしようもないほど心に深く刻み込まれたもの。取り除きたかったら、それはもう抉り取る以外にない。だから――俺はもう死ぬまで、こう在るしかないんです」

「っ……スサノ」

 驚きから我に返ったヒナコは、憤怒を抑えるように唇を噛む。

 そうだ。

 スサノ・フウガは、あの日、あの瞬間、過去に囚われたのでもなく、止まったのでもない。

 そういう存在に成り果てたのだ。

 悪意に満ちた呼び方をすれば、まるで過去の亡霊のように。

 妄執の幽鬼のように。

 ――と。

「この……!」

 不意にヒナコが、ぐいっとフウガの腕を捻った。

「――――っ! いっつううううううう!!?」

 完全な不意打ちの激痛に、フウガは涙目になって絶叫を上げる。

「な、何してんですか、スクナ先生! そこヒビいってるんですよ!? 痛い! 半端なく痛い!!」

「やかましい、このクソガキめ! さっきから生意気なんだよ! こうしてくれるわっ!!」

「ひぎっ!? ま、参った! 参りました、先生! だからもう勘弁してくださいっ!!」

「いいや、勘弁しないね! もうそんな下らない事を言いたくなくなるくらい苛め抜いてくれる!」

「それって本当に医者が言う台詞ですか!?」

 ヒナコが的確に骨にヒビを入った箇所を押さえ、フウガが悶絶する。

 そんな異様な光景が医務室で繰り広げられ、他の医者や看護婦達は止める事も出来ずにおろおろと見守るだけだった。


 ――そして。

 痛みに夢中で、フウガは気づいていなかったのだ。

 そうやって少年を容赦なく叱咤するヒナコの目元が。

 自身の不甲斐なさ悔いて歪んでいる事に。

お読み頂きありがとうございました。

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