“彼女”と私 ―プロローグの前に思うこと―
私は“彼女”が嫌いだった。
“彼女”が皆に笑いかけるたびに。
“彼女”が私に笑いかけるたびに。
私の心は、ドロドロとしたどす黒いナニカで埋め尽くされていく。
だって。
“彼女”が笑うたびに、私は日向にいられなくなって。
“彼女”が笑うたびに、私は影だって再認識するんだ。
だから、私は。
“彼女”が好きになったもの全てを嫌いになる。
“彼女”が嫌いになったもの全てを好きになる。
“彼女”が受け入れたもの全てを受け入れない。
“彼女”が受け入れないもの全てを受け入れる。
“彼女”が《正義》を語るなら。
私は《悪》を語りましょう。
“彼女”が《正義》を愛すなら。
私は《悪》を愛しましょう。
…それって“彼女”次第ってことじゃないか、だって?
仕方ないじゃない。
当然なんだもの。それが当たり前なのよ。
だって私、“彼女”の影なんだから。
影は闇に生きなきゃいけないの。
“彼女”は光だから。
影は、光と反対のことをする。
だから私は、“彼女”と反対のことをするの。
何かおかしいことがあるのかしら。
それに、今更《私自身》なんて分かるはずない。
だってあの日から決まってた。
私が“彼女”の影だってことは。
そう決めたんだもの。
心の中で****と****に誓ったんだもの。
「私は“彼女”の影でいる」
って。
それが当たり前で、それ以外が異常だって。異端だって。
だから私は、自分のことを《私》って呼ぶ。
“彼女”は自分のことを「あたし」って呼ぶから。
だから私は、わざわざ丁寧な言葉を使う。
“彼女”は誰にでも屈託なく話しかけていくから。
だから私は、黒を中心とした寒色系しか着ない。
“彼女”は白や暖色系以外の色を着ているのを見たことがないから。
だから私は、無表情無感情無口で無愛想な人間を演じる。
“彼女”は表情豊かで感情も表に出ててよく話して愛想もいいから。
それに私は…
“彼女”の影を、やめようとしない。やめようと思わない。
「誰も私のことを見てくれない」
なんて悲劇のヒロインぶるつもりはないし、私が選んだことだって分かってる。
だからやめない。
今はやめない。
いつか、私自身が「“彼女”の影をやめよう」と思うまで、私は“彼女”の影でい続ける。
だから私は、彼女が嫌いだ。
だって“彼女”は、私を「好き」だと言って笑うから
だから私は…
“彼女”を溺愛して寵愛する“彼ら”が、大嫌いだ。
多分、これから先も。
ずっと。
“彼ら”を嫌う気持ちだけは、変わらない気がする。
読んでいただいてありがとうございます!
追記
7月5日
文章を多少変えました