ご都合主義
告白する前から両思いだなんて単なるご都合主義だ。そんな考えを持つのは中学生にもなればなにもおかしなことではないと思う。
目の前の光景に思わず固まってしまった。いつも通りの時間に登校して、正門のところで友人と合流、そのまま教室まで一緒に来て、自分の席に着いたときだった。
なにやら真剣な顔をした彼女が机の前に立ち、自分に告白をしたのだ、好きです、と。
たっぷり30秒固まってしまった。次の30秒は周りを見回した。こういう場合、思いっきり騒ぎ立てるか盛大に冷やかすかのどちらかだと思うのだが今回は後者のようだった。
余りに唐突だった。僕と彼女の間にはなんのドラマもなく、なにかきっかけがあったわけでもない。昨日、一昨日といわず過去一週間思い返したけれど該当無し。だから、
「……何の罰ゲーム?」
を彼女がやらされているのだろうと、思わず呟いてしまうのは仕方のないことだと思う。
けれどその呟きは確実に彼女を傷付けたようで、彼女は瞳に涙を浮かべて教室から走り去っていった。
残されたのは自分の席で呆然としている僕と、僕に突き刺さる白い視線の矢の雨だった。手助けはなし、援軍もなし。孤立無縁で状況は最悪だ。
女性の涙は凶悪な武器に成るらしい。ほんのわずかで致死量級、今の一瞬で僕の社会的地位は消されたのも同然だ。
ここで僕はどうするべきか、答えは簡単だ。この状況を無視できるほどの度胸は無い。
迷いがなかったと言えば嘘になる。けれど、僕ははじめて授業をさぼることにした。廊下を走りながら思う。彼女の告白を信じられなかったのにはもうひとつ理由があったことを。
僕は彼女のことが好きだった、当然現在進行形でだ。
好きな人から好きだと言われる、そんな夢のような話にすぐに飛び付くことができなかったのだ。
分かれ道、階段。外か屋上か、彼女はどこへ行っただろう。
考える時間が惜しかったからとりあえず階段を駆け上がった。
一段とばし二段とばしで上がっている時に思い出した、一つだけきっかけがあったこと。自分が彼女を気になりだした出来事。
一ヶ月前にあった宿泊研修なる行事のオリエンテーリングで僕は彼女と他数名と同じ班になった。その時彼女の笑った顔が可愛いことに気付いた。たったそれだけのことでいつの間にか目で追うようになっていた。好きだと自覚したのはしばらく後できっかけなんて忘れてた。
彼女がどうして僕を好きになったかは分からない。けれど、僕と彼女にはほんの少しだけでも共有した時間があったことに気付いた。
入学して一ヶ月のオリエンテーリング、それから彼を好きになってから一ヶ月。
散々迷って告白したけど罰ゲーム扱いされてしまった。
彼はどういう意味で言ったのだろう?私が罰ゲームをやらされていると思ったのか、彼にとって私の想いなど罰ゲーム並に迷惑だったということか。
前者であったらまだ可能性がある。けれどそれはあまりに都合のいい考えでしかないように思ってしまう。
さわやかな風が髪を撫でていく。今ならどうして失恋をしたら髪を切りたくなるのか分かった気がした。何もかもが煩わしい。世界が重く感じられる。だから、ほんの少しでもなくし、軽くしたくなる。長く伸ばした髪はその時最適な標的となる。今日は髪を切りに行こう、そう決めた時だった。バタンと音がして扉が開いた。
そこにいたのは今一番会いたくなくて、でも会いたい人だった。
隠れたい。どうして私はこんな逃げ場のない所にいるのだろう。扉は当然一つだけでそこには彼がいる。
そもそも何も考えずに気が付いたらここにいたのだからどうしても何もなく、まして追いかけてくるなんて思ってもみなかった。
どうしよう、どうしたらいい。
どうして彼はここにいるのだろう。私を追いかけてくれたのだろうか、もしかしたらと期待していいのだろうか。
そうかもしれない、違うかもしれない。どちらだとしても自分の気持ちをちゃんともう一度伝えたいと思った。
決して罰ゲームではないこと、私はあなたが
「好きです」と。
「僕も好きだ」
彼女が言ってから即座に返事をした。
彼女は一瞬固まった。そして瞳に涙を浮かべて僕に抱きついた。僕は抱きしめ返していいのだろうか、少し考えて、だめだったら後で謝ることにした。
その状態のまま自分の気持ちを伝えた。きっと先ほどの彼女と同じようにうまく話せやしないだろうけど。
その日は二人で学校をさぼった。
次の日、二人はクラス公認となった。
初投稿ということで、申し訳ありませんが見苦しいところはお見逃しください。