7.学園への潜入1
三食ごはんが食べれる日々にまだ慣れない私は、むしろ勉強の時間にほっとする。ライゾン様のお屋敷に家庭教師が来てくれる。贅沢だ。子どもは学校に行くのが当然という常識もなかったので、文字の読み書きからだった。なぜかちっとも嫌じゃない。文字が読めれば本や新聞が読める。作り話も面白いが、痴情のもつれの殺人や神隠しのような事件が新聞に書いてあるとぞわぞわする。誰と誰が結婚したなんてことには興味なし。事件や事故はなくならない。
マナーなどはシャーロットさんも教えてくれるが、歴史などは家庭教師が私にわかりやすいように話してくれる。この年齢にしては利口ではないのかもしれない。実年齢よりも上の人になることが多いからもっと常識を身につけないと。
「ありがとうございました」
家庭教師の先生を見送ると同時にライゾン様が帰って来た。
「ただいま」
「おかえりなさい」
目が合いそうだったのに外される。
「旦那様、ご夕食は?」
シャーロットさんの言葉に、
「食べるよ」
と答えた。これは、あれだ。ピンときた。ライゾン様ってわかりやすいのよね。これでよく社長とか人を騙す商売をしていると感心する。もしかして私だけにわかるのかしら。
夕飯の終盤になってようやくライゾン様が口を開く。つらつらと仕事のことを話しだした。ライゾン様は私に仕事を頼むとき、ちょっと申し訳なさそうにする。あなたに囲われているのだし、そもそもライゾン様に救われた命なのだから存分に使って。
「生徒がいなくなる学園?」
あんなにおぞましい世の中の底辺に身を置いていたのに、私は怪談話のほうが苦手だ。
ライゾン様が仕事を頼める人間は私を含め、幾人かいるようだ。私ではどう足掻いても男の人の姿かたちにはなれないし、老人も不可能だ。割り振りはライゾン様が考えているのかしら。今回ばかりは子どもの私にしかできない仕事のよう。
「学園に子どもを預けた親からの依頼だ。去年から手紙は届くものの帰ってこないそうだ」
寄宿学校だからって長期の休みには家に帰されるのが普通らしい。
「戻らなかった理由は?」
私は尋ねた。
「冬休みは風邪をこじらせた、その前の夏休みは腹の具合が悪いと手紙が届いて、字は確かに本人のものらしいが誰かが似せて書いた可能性もある」
ライゾン様は厄介そうな案件に眉間に皺を寄せる。
「その子だけなの? もしいなくなったなら他の生徒が騒がないのはどうして?」
誘拐や事件ならば疑問に思うはず。今はすぐに新聞に載る時代だ。国の重要な機関では電話というものがあるらしいけど、まだ一般的ではない。
「わからない。閉鎖的な学園で情報が出てこない」
「子どもの私よりも大人を潜らせた方が事情はわかるのでは?」
学園の先生に空きがないのだろうか。ライゾン様のことだから周辺での聞き込みはもう済ませているのだろう。私が入り込まなければわからないことが山積しているのかもしれない。もしや、もう誰かを送り込んで失敗したのなら言ってほしい。いつもの数倍、気を引き締めるから。
さりとて、ライゾン様の役に立つのが私の生きる意味。宿命と言ってもいい。
「寄宿舎の裏手から入る算段はついている」
今回は学園へ潜入し、情報を探る。いつものように誰かに成り代わるほうが私にとっては楽なのだけれど、学校となると転入生にならざるを得ない。
「学園って勉強するところなんでしょう?」
通ったことがないから作法がわかりかねる。
「寄宿舎にはなんとか部屋を用意できたが学園のほうでは入学の許可が取れなかった。潜入はさせるが、あまり目立つなよ」
「了解」
ライゾン様から渡される小瓶には毒が入っている。もしものときはこの命をかけてあなたを守るわ。




