6.ライゾン様のおば様
翌日、シャーロットさんと私がベリーを洗っていると、滅多に来客のない我が邸宅にヒールの音がカツカツ響く。その人が来ると私の鼻は香水臭さでもげそうになる。
「ライゾン、いい歳なんだから早く身を固めて頂戴」
ライゾン様のおば様は化粧も濃くて服も派手なのよね。顔がはっきりしているのだからそんなに飾らなくてもいいと思うのだけれど。声もでかいうえに抑揚がすごいし、怒っているような口調だからつい耳を塞いでしまう。
でも彼女が来るといつもよりちょっといいおやつが食べられるから、それだけは嬉しい。
「結婚なんて、まだ仕事も忙しいし」
ライゾン様も圧に押されてたじたじ。私は奥に隠れていたいが、
「キリーナ、ケーキをいただいたぞ」
と声がかかるからしぶしぶ彼女の対面に座った。
今日はかぼちゃのケーキ。シャーロットさんが紅茶を運んでくれる。きっとライゾン様はおば様に私のことを養女と嘘ついているのかも。
だからって、ライゾン様の顔と男爵の地位なら、それでもいいという女性もいるだろう。
おいしい。今年のかぼちゃだろうか。旬には早い。甘くて色もきれい。
「俺はうちを継げないから他の家に養子に入ったのに、その家が取り潰されて仕方なく商売を始めたただの男ですよ」
ライゾン様も面倒な育ちらしい。結婚相手の条件として家柄を重要視することはまだまだ根強い。
「今はそこそこの暮らしができてるんだからだからいいじゃない。それに、いいうちのご令嬢と縁を結べばあなたの商売も安泰でしょう? 仕事のためにもきちんと考えなさい」
おば様の言うことも一理ある。
「自分のような者を伴侶にした女性は幸せになれませんよ」
ライゾン様が言う。ライゾン様の商売のことを知っているのはごく一部の人間だけ。表向きの仕事もしているし、一緒に暮らしたら奥様にも嘘をつき続けるのだろうか。私なら、あなたにちょうどいいのではないかしら。無理よね。私まだケーキがおいしい子どもだもの
。
「そんなことないわよ。お金があって、顔だってくたびれているけれど悪くない」
おば様、私もそう思うわ。
「結婚はもう少し先かな」
とライゾン様が答える。
「相手がいるのね?」
おば様、急に立ち上がらないで。
「いるじゃないですか、あなたの前に」
へ? おばさまの蛇のような眼が私へ向く。
「まさか、この小娘?」
「俺は今すぐにでも構わないのですが、あと数年すればいい女になるでしょう」
私ってこと?
「やめてよ。冗談でしょう?」
おば様の声が震える。
「本気ですよ」
ライゾン様が私の口元のクリームを舐め取る。それを見たおば様は震えるほど激怒して帰って行った。
「幼女好きと噂が立つのでは?」
私は聞いた。お仕事に差し障りがあっては困る。
「そうなってくれたほうが諸々助かる」
お仕事関係からもお見合い話があるようだ。
「これで私はライゾン様の婚約者ね」
それは嬉しい。
「あの人が許すはずない。次はどこぞの家柄の女を見つけてくるに違いない。自分の息子たちが片付いたからって、暇なんだから」
ライゾン様もようやくケーキを口に運ぶ。
「私がもう少し大人なら助けてあげられた?」
まだ小さな自分の手が憎らしい。
「あと何年かすればキリーナも大人だ」
「早くなりたい」
のんびりもしていられない。私たちがこうしている間に助けられる命があるかもしれないから。
ライゾン様が結婚なんてしてしまったら、私は寂しくて毎晩泣いているでしょう。そもそも、そんなことになったら私もこのお屋敷にはいられないかもしれない。
あなたから離れて生きるなんて、できるのかしら。




