35.ライゾン様のお見合い相手
ライゾン様のお見合い相手はライゾン様の仕事に関心があるようだった。裏ではなく表の。
「素晴らしいです。適材適所という言葉もありますし。そのために人を教育して立派ですわ」
彼女の言い草は裏家業にも通じる。優しそうな彼女は週末、うちに来てお茶を飲むようになった。男の子は学校に行くけれど女性は行かないのかしら。
「あなたの家に比べれば小さな住まいでお恥ずかしい」
だから諦めてほしいというライゾン様の口ぶり。
「養女までいらっしゃるんですね。こんにちは」
と私に向かって言った。その目に私はライゾン様に養われている卑しい娘に見えるのだろう。実際そうだったからいいのだけれど。令嬢を見るたびに思う。私は取り繕っても彼女のようにはなれない。華奢な鎖骨、それなのに豊満な胸。どうしたらそんな作り物のような体になれるのだろうか。
「こ、こんにちは」
陶器のように美しい彼女の肌に見とれて私はおどおどと返答することが精一杯。身の内から醸し出される彼女の高貴な空気に委縮する。
「お菓子を作ったのでこれから教会へ行きますの。ライゾン様も一緒にどうです?」
お心まできれいなのですね。施しはそちらの人間にとっては義務みたいなもの。
「午後は仕事が入ってまして」
ライゾン様が断る。
「そうですか」
とご令嬢は残念そうに帰って行った。帰ってくれて私もライゾン様もほっとした。顔だけでなく、圧の強い人だ。
ライゾン様が仕事というのは嘘ではないようだった。うちの前に馬車が止まる。
私が同席することに依頼人は驚いたようだった。
「秘書ですから」
とライゾン様が言うと、依頼人は口を開いた。中流貴族の両親の顔には苦悩が出ていた。
「嫁いだ娘と連絡が取れない」
と父親は言った。
「最後の手紙です」
母親が一通の手紙をバッグから取り出す。
「読んでも?」
ライゾン様の問いかけに二人は頷いた。
『幸せに暮らしております』
文末にはそうしたためられていた。特段変哲のない、嫁いだ娘が親にあてる手紙に私には思えた。
「普通、実家の親には不満や不安を書くものでは?」
ライゾン様が言った。
「実は…」
両親はなんと結婚したくないという娘の代わりに、メイドの友達を娘に仕立てて嫁がせたらしい。
「彼女には相応の金を渡して教養もつけさせた。うちの娘よりも利口で、農民の娘にしておくのはもったいない子でしたよ」
確かにその娘を心配しているというよりも過去の偽りが露呈するほうが困るというのが両親からは窺えた。
ライゾン様はそれからしばらくその嫁ぎ先のことについて調べたようだった。私を潜入させてほしい。もっと使って。
ライゾン様は近頃、街の子どもたちの一派を取り込んで彼らに下調べを任せているようだった。子どもは動けるし、嘘もつける。無邪気にもなれる。




