3.パーティ1
「キリーナちゃん、もうちょい顎上げて。そう、目線こっち」
ミランさんはライゾン様に雇われている専属のヘアメイク。私の瞼を斜め上に引っ張るように押さえながらアイラインを引く。
「はい」
彼女の手にかかると私はどんどん大人の女の顔になるから不思議だ。お化粧って最初は嫌いな匂いだと思ったけど、最近は美人になれる魔法の道具だと痛感している。
「うん、完璧」
私も鏡の中の自分と目が合う。満足したようにミランさんも頷く。
「毎回思うけど別人みたい」
これこそお人形さん。私じゃないみたい。ミランさんが凄腕なのだろうが化粧って怖いわ。仕上げにこれでもかと粉をはたかれる。
「素材がいいからね」
ミランさんもきれいだけれど私の3倍以上は生きている。手に職があれば女一人でも生きられる時代にようやくなってきた。
コンコン。
このノックの仕方はライゾン様だ。
「どうぞ。ちょうどお化粧が終わったところよ」
ミランさんに促されて椅子から立ち上がる。高いヒールでも足に力を入れて踏ん張る。
「これはまた、きれいだよ。キリーナ。違ったな。今日はメアリー嬢だ。16歳に充分見える」
ライゾン様が腕を差し出してくれる。
「ありがとうございます。ミスターライゾン。違いましたね。今日はマルコス卿。私はお姉様が結婚したからようやく社交界に顔が出せますの。おほほほほ」
「うむ。もうちょっと初々しさが必要だな」
ライゾン様に言われて口調を直す。
「あら、ごめんなさい。浮かれてしまって」
「では、参ろう」
今日は白のドレス。ライゾン様も白のタイに深緑のジャケット。
ライゾン様のために仕事でミスをするわけにはいかない。
ふうっと息を吐いて私は背筋を伸ばした。こうするとヒールのおかげでいつもよりもライゾン様のお顔が近い。
彼の腕に手をかけて同じ速度で歩く。早く大人になりたいと思わずにいられない。そうしたらずっとこうして出かけるたびにエスコートしてくれるのだろうか。
「緊張してるかい?」
馬車に乗った私にライゾン様が聞く。
「いいえ、おじ様」
声は少し低くして、大口でなんて笑わない。口元は扇子で隠して、それでも少し微笑むの。目配せ、思わせぶりな態度、それらはライゾン様から習った。
私はライゾン様とパーティを催す家に堂々と潜入。少し前までは怪しまれることもあったし、招待状が手に入らなければ窓から潜入したこともある。
今日は楽器隊までいる大きなパーティ。舞踏会では誘われないように気をつけなければ。うまくあしらわなければ注目の的になる。トラブルは避けたい。私とライゾン様は仕事で来ているのだ。
「あの方、素敵」
それはライゾン様に向けられた言葉。おいおいおい、目立ってる場合じゃない。
「隣りも見かけない令嬢だな。美しい」
私に注目なんてなさらないで。私たちはお仕事中なのです。
人々をかき分け、ターゲットを見つける。
「あいつだ」




