12.お祭りの手伝いを終えて
一日中売り子に徹して手にしたお金は900ヌボール。人の値段なんて知りたくない。奴隷としては若い男の人が一番需要はある。力があるから役に立つ。きれいな女の人が高いと思いがちだけれど、お金を積む人の要望に合う人が最も金になる。だからライゾン様は客の要望に応えるべく、ふくよかな人、歌のうまい人、銀の髪の人を見繕う。偽装じゃない。それに近しい人をちゃんとあてがう。
「キリーナちゃんが男に口説かれてばかりでかわいそうよ」
店の片づけをしながら奥さんが旦那さんにぼやく。
「もう少し成長してからほうが心配だ」
笑い合う二人を見ているこっちが微笑んでしまう。二人のように、自分だけにしっくりくる相手がいればいいなと思う。奥さんが重いものを持つと旦那さんが代わる。二人の間には小さな子どもがうじゃうじゃしていた。どちらかに似ていて、羨ましい。私は親に似ているのかも覚えていないから。
働いた賃金と売れ残りのクッキー数枚をいただいてライゾン様を探す。どこにいるのだろう。
「お酒でも飲んでいるのかしら」
大人はいいわね。単純に楽しそう。それに、もっとお金も稼げるだろうし。私はいつか自分の家が欲しいわ。広くなくていい。困った人たちをかき集めて屋根がないところで眠れない子がいないように。
「キリーナ」
あなたの声に瞬時に反応して駆け寄るなんて私ったら犬のようだと自分でも思う。
「ライゾン様、どこ行ってたの?」
まさか女の人のところ?
「領主にあいさつに行ったら自慢のワインをしこたま飲まされた」
手にもワインを持っている。
「従者を連れてくるべきだったわね」
会社にはライゾン様の秘書もいる。
「今日は休日だ。休ませないとすぐにへそを曲げるからな、あいつは」
だからって、ふらふらのライゾン様が私の肩に寄りかかっても重たすぎる。
「レディを迎えに来ないうえにこんなことまでして」
ライゾン様、ちゃんと前に歩いて。
「レディ? どこにいるんだ? ああ、キリーナのことか」
こんなふうになるなんて珍しい。話すたびに口からアルコールの匂いがきつい。へらへらしちゃってどうしたのかしら。
片づけ始めた出店が多いので、レストランへ寄った。
「こういうところ初めて」
町の食堂ときっちりしたレストランの中間のような店。ライゾン様がトマトソースの肉の煮込みを頼んだから私は魚。ミンチを揚げた家では食べない味だ。
店には客が少なかった。お祭が終わり、みんな家に帰ったのだろう。
「領主さんはお祭にいらっしゃらなかったの?」
私は聞いた。収穫祭じゃないから領主の主催じゃないのかしら。近頃、フェスティバルが増えたような気がする。
「奥さんが出産間近で落ち着かないそうだ」
「そう」
ライゾン様はお店でもお酒を飲んだ。
「若い奥さんでびっくりしたよ」
ちょっと酔っているのか、ライゾン様は私がその手の話が怖くなっていることを忘れているよう。
少し前までは14歳とかで結婚した王妃もいたって知ってる。私とライゾン様だって歳が離れている。自分のことを棚に上げて、なんで私は他の人たちは汚いって決めつけているのかしら。こんな自分、嫌いだわ。
嫌でも大人になる。涙ぐむのは食べつけない味のせい。香辛料とハーブの食べ慣れない味。
馬車で家に帰る。隣りに座ったら、酔ったライゾン様が私に寄りかかる。身長差があって首が痛いだろう。あなたの頭って重いのね。なんだかちょっと大人になった気分。寝顔なんて普段は滅多に見れない。恩返しはできていますか? 今日の仕事代はお小遣いにしろともらった。私はあなたに少しでも返したいのです。どうしたらもっとあなたの役に立つ?
夜よ、まだ訪れないで。家がもっと遠ければいいのに。




