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悪魔の隣りでお昼寝させて~幼い私があなたをお慕いしていることは誰にも内緒です~  作者: 吉沢月見


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1.籠の中の鳥

 籠の鳥は窮屈だと言う人がいる。でもさ、飼われていれば自分で餌を取らなくていいし、寒くて凍えることもない。具合が悪くなったらお医者様に診てもらうこともできるかもしれない。

 自由に羽ばたくか、はたまた籠の中で安住を手に入れるか。人間の人生もそれと近しい。親が金持ちで周りが優秀ならば自分は息を吸うだけでいいんだもの。


 ピチチチ。小鳥に餌を与えるのは日課ではない。気まぐれだ。野生のこの鳥は私の餌ばかり食べていては生きられなくなってしまうから。


「キリーナ。おや、君はまた野生の鳥に餌を与えていたのか? そんなに鳥が好きなら籠とヒナを買ってこようか? 飼うといい」


 ライゾン様の言葉に私は強く首を振る。


「私、まだ子どもだもの。生き物を飼うって責任がいるでしょう? お金だってかかるし」


 窓辺に食べ残しのパンのカスを置いて、それを鳥がついばむのを見ているくらいでいいの。今日はアカゲラまで来ていた。


「そうか」


 私の頭に手を置くこの人は、当主のライゾン様。私を養ってくれている人。親ほど年が離れているけれど、家族ではない。親なしの私をいつからか家に住まわせてくれた恩人。


 あの頃の記憶はひどすぎて、あんまり覚えていない。寒くてお腹が空いていた。ライゾン様は気の抜けた顔をしているけど、これでも立派な会社の社長なの。


 大昔の貴族様はそれだけで生きられたらしいが、昨今の不況も相まって爵位を持って様々なお仕事をする人も少なくない。大金持ちの商人に爵位が与えられるケースもあるらしい。ライゾン様も一応は貴族。


 王都のちょっと郊外にあるお屋敷で私とライゾン様は暮らしている。そろそろ春になりそうなのに寒い日が続いていた。



 ライゾン様が私の目を見て言葉を選んでいらっしゃる。視線が鋭いから、殺気を感じて鳥は飛んで行ってしまった。


「その顔はお仕事ね、ライゾン様」


 私は言った。ライゾン様は私に仕事の依頼をするとき、やや気まずそうな態度をするからからわかってしまうの。


「キリーナは鼻が利くな」


 私はまだ11歳で、食べるものにも困っていたせいかこの間までは同い年の女の子と比べても背が小さかったほうなのに、このお屋敷に住むようになって普通の生活を送っていたら急に女の人みたいな体つきになって自分でも困っているところ。


 ライゾン様のお仕事は表向き奴隷商。と言っても、貧困層の人たちに常識を教え、きちんとしたところ勤めさせて食べるものに困らない生活を保障している。と同時に裏ではしたくない結婚から逃げたい令嬢の代わりを用立てたりお金持ちのために愛人を見繕ったり、とにかくいろんな仕事をしているみたい。恋人と逃げたい本人や、まだ身分制度に拘ってあんな家に嫁がせたくないという侯爵夫人からの依頼を受け、代わりの人間を斡旋して会社は莫大な利益を受けている。


「今回、私は何を?」


 先月は結婚間近の辺境伯のロリ好きを私に見極めさせたり、その前は婚約者の気持ちを令嬢から逸らしてほしいとか、そんなことばっかり。


「男爵の息子と婚約した家から彼の女癖を調べてほしいと」


 よく依頼される仕事だ。


「潜入捜査ね」


 パーティか家のお食事会へ呼ばれるのかしら。ライゾン様とのお出かけは心躍る。昨年までは娘設定が多かったけれど、このところは同伴者としてエスコートしてくれるから嬉しいの。


「急で悪いが明日の夜に。昼過ぎにはミランが来る。令嬢に見られるくらいに仕上げてもらえよ」


 ライゾン様、そんなに頭を撫でられては困ります。彼が私を好きなのはこのくるくるの髪だけなのかもしれない。家では撫でまわすくせに外に行ったら別人のように腕を組むだけ。


 ライゾン様が懐中時計を取り出す。


「ライゾン様、お出かけ?」


 私は聞いた。彼は夜になると出かける。日中も仕事で屋敷にいないことが多い。男の人は忙しいらしい。


「ああ。これも仕事の一環さ」


 男の人はポーカーや葉巻を集まって吸って情報交換をするそうだ。あの会社が儲かっている、あそこの家はもう没落しそうと噂を聞くのも彼の仕事につながること。


「いってらっしゃい」

 と階段を下りるライゾン様に手を振って見送る。子どもじみてる? それとも女房面?


「いってきます。早く寝ろよ」


 なんていつまでも子ども扱い。拾われた身だからしょうがないわね。


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