創設者にあったよ
過去に辿り着いた私達は、まず能力がどこまで使えるのか確認する必要があった。
タイムスリップの代償で能力が劣化しているのは確実だ。どの程度使えるのか、どこまで制限されているのか。それを知らなければ、これから先の計画も立てられない。
それに、初代局長の藤崎希さんと創設者を見つけなければならない。
《どうやってその二人見つけるんだ?》
(うーん、前やった乙葉探すのと同じ方法でいけるかなぁ?)
(とりあえず能力のチェックしないとね)
《どこまでできるか、だな》
周囲を見回す。人通りが多い。こんなところで能力を使うわけにはいかない。
少し歩くと、公衆トイレが見えた。
(あそこでいっか)
《トイレで?》
(他にないでしょ)
《まあ汚くなければ良いか……》
私達はトイレに入り、個室に入る。
やはり、どの時代でも日本のトイレは綺麗だ。
(よし)
《やるか》
「欲望解放」
小声で呟くと、ポン吉が仮面に変化し、服装がタキシードドレスに変わる。
そしたらまず、簡単なものを作り出してみるか。
手のひらサイズの小さな球体は――。
(できた)
《これくらいはな》
次は、もう少し複雑なもの。
小さな花。花びらの一枚一枚まで精巧に作り込む。
(これも、できた)
《これだけ出来るなら、基本能力に変化はないな》
(そうだね)
次は、深化と昇化を試す。
まず、深化。
「深化」
装いが変わる。ドレスが、より豪華になる。
(変身自体はできるね)
《能力は?》
私は、トイレの反対側の壁を見る。
瞬間移動を試みる。
(……!)
一瞬で壁の前に移動した。
が――。
《どうだ?》
(瞬間移動は見えてる範囲にしかできないっぽいし、連続で使うのも無理そう)
《劣化してんな》
(遠隔発動も見える範囲しか無理みたい)
《ひどいな。そしたら次は、昇化》
仮面が、より妖艶な雰囲気を纏う。
(加速能力は?)
《やってみるか》
ポン吉は、集中し時間を、私を、加速させていく。
(……)
トイレの外の音がゆっくりになって聞こえてくる。
でも、それだけだ。
《劣化ひどいわ。俺たちが少し早く動ける様になる程度だな。某ゲームのヘイストって感じか》
(こっちも劣化酷いね)
《まあ、しゃあねえか》
(でも、空間の固定化は使えるから、完全防御はできるね)
《完全防御?》
(ぶっちゃけ、この完全防御を盾と同じ精度でできれば無敵だね)
《あー》
(全身にピッタリ服みたいに張り巡らせば、何にも効かないじゃん)
《最強乙女昴爆誕じゃん》
(まあ、能力の劣化で立方体とか長方体みたいな感じにしか発動できないから無理だけど)
《無理なんかーい》
(でも、基本能力は変わりないから、探せるね)
《どうやって?》
(憂鬱の半魔の波動を探す機械を作り出せばいいんだから)
《……お前、またあれやるのか?》
(やるしかないでしょ)
《鼻血出して、頭の血管切れそうになってやっとできたやつだぞ》
(それだけでできるんだから、簡単じゃん!)
《簡単とは一体なんなのだろう》
私は、目を閉じる。
能力を最大限に使う。
憂鬱の半魔の波動を感じ取る機械を、作り出す。
世界を騙す。
ありえないを、現実にする。
(うぐっ……)
激痛が、頭を襲う。鼻血が出る。でも、耐えた。
(ほらほら、話してるうちにできたぁあー吐きそう。ってか出る)
《おい!》
私は、便器に胃の中のものを全部吐き出してしまう。
(ふう……トイレでやっててよかった)
《珠洲のお手製料理が全部トイレに流れて行ったな》
(なんか寂しげなこと言ってるけど、所詮吐瀉物だからな)
《過去へ来て早々汚ねぇ会話だなぁ》
(ごめんごめん)
《んで、見つかったのか?》
(ん。反応一つ)
《どこだ?》
(病院みたい)
《病院? つーことは、あたりか》
(多分ね。そこ行ってみようか)
私は、変身を解きトイレを後にした。
お目当ての病院へ歩き始める。
病院は、街の中心部にあった。公衆トイレからさほど離れていなくて助かった。本当に。
お金も持っていないからタクシーも何も公共交通機関が使えないので、本当に良かった。
病院の総合受付で、藤崎希さんへの面会を申し出る。
「藤崎希さんへの面会できました。」
「お名前は?」
「鏡昴と申します」
「少々お待ちください」
受付の人が、何処かへ電話をかける。
しばらくして。
「どうぞ。三階の個室です」
(あっさり面会通されたな)
《昔はやっぱプライバシーとかセキュリティとかその辺甘々だったんだな。こわあ》
(2050年もそんなにすごく厳しくなかったよ)
《いやそんなことないだろ?》
私達は、しょうもない会話をしながら三階の個室までやってきた。
(ここにいるのか……)
《どうした? 天下の昴様が緊張か?》
(いや緊張は別にしていないんだけどさ、希さんが私に惚れちゃったら創設者さんに悪いなって)
《心配して損したわ。早くいこーぜ》
ポン吉に急かされながらノックする。
「どうぞ」
中から女性の声が聞こえ、ドアを開けた。
部屋の中には、ベッドに横たわる女性。
黒髪のロングヘア。色白の肌。ノートにあった様に目が見えないのか瞑っていた。
だが、笑顔を浮かべこちらの方を向いていた。
「いらっしゃい。待っていたわ」
(……!)
《待ってた?》
「初めまして。鏡昴と申します」
「藤崎希です。初めまして。大変だったわね。本当に。全部知っていたわ。」
(全部……?)
「ごめんなさい。いきなり言われても困るわよね」
希さんは一呼吸おいて説明してくれた。
「私は、未来が見えるの。だから貴女が辿って行った未来。貴女にとっては過去かしら。それを全て知っているの」
「でも、ごめんなさい。私は何も助言できないのよ」
「……と、言いますと?」
「昨日まで未来は、貴女が辿った流れの一本道だったの。でも今日からは、未来が二本になっているわ。そして片方、そう、今ここにいる貴女が進んでいく未来は真っ暗で何も見えないの。いい未来なのか悪い未来なのか、それすら見れないの。だから――」
「いいんです」
私は、彼女の言葉を遮る。
「助言をもらいに来たんじゃないので」
「……では?」
「私を、鏡昴を二代目局長にして欲しくて来ただけなので」
「……え?」
「あ、今じゃないですよ。2025年あたりで良いです」
「えー、そしたら私、六十過ぎのおばあちゃんじゃない? それまで働かせるつもり?」
「えー、あー、はい。必要な時まで矢面に立ちたくないので」
「正直ねぇ」
希さんが、くすくすと笑う。
「あなたもそう思うでしょ?」
「え?」
その時、ドアが開いた。
男性が入ってくる。
スーツ姿の、落ち着いた雰囲気の男性だ。
「藤崎一と申します。騙すようですまない。妻は大丈夫と言っていたんだが、やはり愛するものは全力で守らねばならぬからな」
(旦那さんってことは、例の幼馴染だよね? だよね? 違かったらやだよ)
《NTRダメ、絶対》
「ところで、その頃には貴女も結構な年になっていると思うが?」
「あー、私、永遠に歳取らないので。傷も治らないし。この通り」
私は、手を見せる。新聞紙で切った傷が、切った瞬間そのままの状態で止まっている。
「それはまぁ、難儀な体だね。ということは君も妻と同じ……」
「ええ、化け物です」
(自分で化け物とか言っちゃうやつ痛いよね)
《それ希さんにも刺さるやつ》
(いっけねー、てへぺろ)
「あー、今後君たちみたいな存在を、化け物という呼び方はしないようにしたんだ。これからは半魔と呼ぶように、妻と二人で決めたんだ」
「半魔……」
「そう。半分、魔物。でも、半分は人間。だから、半魔」
「……いい名前ですね」
「だろう?」
一さんが、笑う。
「で、君は本当に局長になりたいのか?」
(なりたくない!)
《なりたくないんかーい》
「はい」
「理由は?」
(おっぱいを揉むためです!)
「みんなを救いたいからです」
《恋人のおっぱいって言わないとヤバいやつだぞ》
「みんな?」
(いや、普通にどっちもヤバいやつでしょ引くわ)
「はい。私の大切な人たちを、全員」
《え? なんでオレが言った流れになってんの?》
「……そうか」
一さんが、希さんを見る。
希さんが、小さく頷く。
「分かった。君を、二代目局長として迎えよう」
「本当ですか?」
「ああ。ただし、条件がある」
「条件?」
「今すぐじゃない。2025年まで、希が局長を続ける」
「はい、それで構いません」
「それと、君は今から管理局の運営を手伝ってもらう」
「運営を?」
(普通に、願ったり叶ったりなんですが)
「そうだ。君の力が必要だ」
《滑り出し好調過ぎてあとがこわい》
「……分かりました」
私は、頷く。
(よし、これで第一段階はクリア)
《ってか、なんでもったいぶった感じで了承してんの?》
(その方が雰囲気出るやん?)
《雰囲気大事マンめ》
(ウーマン!!)
《分かってるよ》
私達は、笑い合った。
(さあ、始めようか)
《ハッピーエンドへ向けて》
(長い旅を)
《ああ》
そして――歩き出す。
第2部スタート




