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ハッピーエンドチャート

 今日の訓練を終えた私は、いつものように管理局の資料室に向かった。


 珠洲が外で警備してくれている間に、できるだけ多くの情報を集めなければ。


 資料室は、ビルの地下にある。普段は職員しか入れない場所だけど、今は誰もいない。入り放題だ。


(さて、何から調べようか)


《管理局の成り立ちからじゃねえの?》


(だよね)


 私は書庫の奥へと進む。古い書類や記録が山積みになっている。


 埃っぽい。誰も来ないんだろうな、ここ。


(うわ、めっちゃ埃)


《お前、掃除しろよ》


(今そんな場合じゃないでしょ)


《ですね》


 私は適当に書類を引っ張り出す。


「八罪管理局設立の経緯について」


 お、これだ。


 パラパラとめくる。


(えーっと……1993年設立。へー、57年前か。意外と最近なんだ)


《最近っつっても、お前が生まれる前だけどな》


(そりゃそうだけど)


 読み進める。


 設立者は――不明。


(は? 不明?)


《隠されてんのか?》


(みたいだね。でも、初代局長は……)


 名前が書かれている。


「初代局長――藤崎ふじさき のぞみ


(希……)


《聞いたことねえな》


(私も)


 でも、なんだろう。この名前、どこか引っかかる。


 私はさらに資料を漁る。


 すると、ボロボロのノートが一冊、棚の奥から落ちてきた。


(なにこのノート)


《ノートが本棚にあるって言う違和感よ》


 私はそのノートを拾い上げる。


 表紙には何も書かれていない。


 開いてみると――手書きの文字がびっしりと書かれていた。


(……これ、日記?)


《の様な、何かだな》


 最初のページを読む。


『この本を見つけた君へ。


 管理局のどこかに私の手製のこの本を見つけた君。


 君がいつの時代の者かわからないが、助けになるようにここに記しておこう。


 こんなくたびれた本にもならないノートに縋らなければいけないほど、差し迫っているんだろう?』


(……!)


《おい、これって》


(未来の誰かに向けて書かれてる……?)


『君がこれを読んでいるということは、きっと大きな問題にぶち当たっているんだろう。


 私にはそれを直接助けることはできない。


 だが、彼女――希の言葉を、ここに残しておこう』


(希……初代局長が同じ名前だったよね?)


《な。初代局長のことかねこれ》


『希は、憂鬱の半魔だった。


 目も見えず、ベッドから出ることもできない少女だった。


 だが、とても優しい子だった。


 だからこそ、現実の残酷さに耐えきれず、憂鬱の半魔になってしまった』


(……)


『私は彼女の幼馴染だった。


 彼女が怪物になってしまったと泣いた時、私は言った。


 じゃあ、君みたいに怪物になってしまった人を救える組織を作ろうじゃないか


 組織のトップは君だ。


 僕はそれ以外の全てを用意する。


 人材、場所、コネ、金、全て。


 だから笑っておくれ、とな』


(なにこれ、もしこれが本当だったらさ)


《……ああ、この男スーパーマンなんてもんじゃねぇな》


(泣ける)


『彼女の憂鬱は、私の言葉で取り払われた。


 そして、憂鬱は希望へと昇化した。


 その能力は――未来視』


(未来視!?)


《マジかよ》


『彼女はこれから起こることを全て言い当てている。


 それは私も体験済みだ。保証するよ。


 これを見た君がぶち当たるであろう問題も。


 大きな出来事で、彼女から聞いた未来のことを記しておこう』


 過去に起きた大きな事件がいくつか書かれていたが、読んでもしょうがないのでページをめくっていく。

 

 するとお目当ての部分に行きついた。


『この世界は、遠くない未来に崩壊する』


(……やっぱり)


《今まさに体感中だからな》


『だが慌てるな。


 彼女が言うには、その崩壊は希望の裏返しだという。


 詳しくはわからないが、希望のためには崩壊が必要なんだそうだ』


(希望の裏返し……?)


《どういう意味だ?》


(わかんない。でも――)


 私は、ノートをじっと見つめる。


(もしかして、私達がこらからしようとしてる事が、希望ってこと?)


《そうだったらいいけどな》


(この人は、私みたいに困ったことが起きた時のためにこのノートを残してくれたんだ)


《だが、過去にこれを見た人はいなかった様だな》


 私は、ノートの最後のページを開く。


『管理局のどこかに私の手製のこの本を見つけた君。


 役に立ったなら幸いだ。


 ――創設者より』


(創設者……)


《名前はねえのか》


(ないね)


 私は、ノートを閉じる。


(ありがとう、創設者さん)


《で、これからどうする?》


(問題点を洗い出す)


《問題点?》


(そう。今の管理局の問題点)


 私は、別の資料を引っ張り出す。


「八罪管理局の活動記録」


 パラパラとめくる。


(うーん……)


《どうした?》


(管理局って、枢要罪の事件に対処する組織だったんだよね)


《ああ、そうだな》


(だから、珠洲みたいな存在は否定された)


《……ああ》


(魔物と同一視されて、生まれることすら許されなかった)


《そうだな》


(それに、魔物を事件としか見ていなかったから、対処が遅れたんだ)


《確かに》


(だから――)


 私は、メモを取り始める。


(管理局を、魔物や原罪魔群(オリジンシン)を潰す組織に変える)


《潰す組織?》


(そう。事件対処じゃなくて、根本から潰す)


《でも、魔物は消えねえだろ? 人間がいる限り》


(うん。だから、対処を完璧にできるようにする)


《なるほどな》


(そうすれば、三毒会はできない)


《三毒会ができない?》


(三毒会は、管理局のやり方に反発して作られた組織でしょ? だから、管理局が完璧なら、三毒会は必要ない)


《ああ、そうか》


(それに、珠洲も望まれて生まれる)


《……そうだな》


 私は、さらにメモを書き加える。


(それと、局長)


《根倉のことか?》


(そう。根倉さんは優秀だったけど、リーダーにはなれても、ボスには不向きだった)


《ボス?》


(うん。組織のトップとして、全体を引っ張るのは得意じゃなかったんだと思う)


《確かにな。あいつ、めんどくさがりだったし》


(だから、私が上に立って、局長を二番手にする)


《お前が?》


(そう。局長として)


《局長……なんか偉そうだな》


(偉いんだよ、実際)


《まあ、そうだけど》


 私は、次の資料を開く。


「半魔登録者一覧」


 みんなの名前が並んでいる。


 根倉さん、竜司さん、紅葉さん、烈志さん、いろはさん、灯さん、狩野さん、誇さん、依里ちゃん、乙葉……。


(みんな……)


《どうした?》


(いや、みんなの経歴を見てたんだけど)


《ああ》


(みんな、半魔になったことで悲惨なことに巻き込まれてる)


《……そうだな》


(だけど――)


 私は、メモに書き加える。


(戦力は必要だから、半魔になるまでは手を出せない。でも、半魔になった瞬間、救い出す)


《なるほどな》


(例えば、依里ちゃんと誇さん)


《あの爛れた兄妹か》


(そう。依里ちゃんは兄さん大好きだし、誇りさんも依里命だから――)


《だから?》


(お前ら人間じゃなくて半魔だから、好きにちちくりあえって言う)


《ちちくりあえって何だよ》


(いちゃいちゃしろってこと)


《んなこたぁわかってんだよ。それで良いのか? ってこと》


(だって、人間の兄妹だからどうしようもなかったんだよね)


《そうだな》


(だから、半魔の兄妹なんだからいいじゃんって)


《……まあ、そういうことにしておこう》


(それで狩野は)


《ああ、あいつか》


(妹の病気を止める)


《止める?》


(治すことはできないけど、私の能力で進行を止められるはず)


《おれたちの能力でってことか?》


(そう、多分できるよ)


《多分ねぇ》


(それに、灯さん)


《三毒会の奴だよな》


(そう。灯さんは、暴れられる戦場に常に連れ出す)


《戦場で制御の仕方を学んでもらうってことか》


(そう。だから、ストッパーに烈志さんをつける)


《烈志が?》


(うん。烈志さんなら、灯さんを止められるでしょ)


《まあ、そうだな》


 私は、さらに資料を読み進める。


 根倉さん――二代目局長、半魔化は20歳の時、2024年。


 烈志さん――半魔化は18歳の時、2036年。


 いろはさん――28歳半魔化は20歳の時、2041年。


 灯さん――半魔化は14歳の時、2038年。


 狩野さん――半魔化は19歳の時、2045年。妹の優香さんは20歳で亡くなった、2048年。


 誇さん――半魔化は12歳の時、2041年。


 乙葉――半魔化は17歳の時、2049年。


 私は、メモをまとめる。


(よし、問題点の洗い出しは終わった)


《次は?》


(次は、ハッピーエンドチャートを作る)


《ハッピーエンドチャート?》


(そう。みんながハッピーエンドになるための計画表)


《……お前、本気なんだな》


(当たり前じゃん)


《でも、全員をハッピーエンドにするなんて、無理じゃねえか?》


(無理じゃないよ)


《根拠は?》


(ない)


《ないんかーい》


(でも、やるんだよ)


《……ったく》


 私は、新しいノートを開く。


 そして、書き始める。


「ハッピーエンドチャート」


 まず、管理局を変える。


 枢要罪の事件対処組織から、魔物・原罪魔群(オリジンシン)撃滅組織へ。


 そのために、私が局長として上に立つ。


 根倉さんは副局長として、実務を担当。


 次に、半魔たちを救う。


 依里ちゃんと誇さん――半魔同士なら問題ないと伝える。


 狩野さん――妹の病気の進行を止める。


 灯さん――戦場に連れ出す。ストッパーは烈志さん。


 珠洲――望まれて生まれるように、管理局の方針を変える。


 三毒会――作らせない。管理局が完璧なら、必要ない。


 原罪魔群(オリジンシン)――倒す。特に、ピエロマスク。


(……ピエロマスク)


《どうした?》


(全部あいつの筋書きだったのかなってさ)


《だったらどうするよ》


(その脚本を……ぶっ壊す)


 私は、ノートを閉じる。


(よし、これでチャートの土台はできた)


《次は?》


(次は、細かいところを詰めていく)


《めんどくせえな》


(めんどくさいけど、必要なことだから)


《まあな》


 私は、また資料を漁り始める。


 管理局の歴史、半魔たちの経歴、魔物の発生パターン、原罪魔群(オリジンシン)の情報……。


 全部、頭に叩き込む。


(これ、全部覚えなきゃ)


《無理だろ》


(無理じゃないよ。メモ取るから)


《それでも無理だろ》


(大丈夫。私、意外と記憶力いいんだよ)


《そうか?》


(そうなの)


《……まあ、そういうことにしとくよ》


(うん)


 私は、何時間も資料を読み続ける。


 目が疲れる。でも、止められない。


 全部、覚えなきゃ。


 みんなをハッピーエンドにするために。


(……ふぅ)


《疲れたか?》


(ちょっとね)


《休憩しろよ》


(もうちょっとだけ)


《無理すんな》


(大丈夫)


 私は、また資料を開く。


 そして――。


(……あ)


《どうした?》


(これ……)


 私が見つけたのは、一枚の写真だった。


 写真には、若い女性と男性が写っている。


 女性は、ベッドに横たわっている。笑顔だ。


 男性は、その横に座っている。優しい顔だ。


(これ、初代局長と設立者……?)


《みたいだな》


(二人とも、幸せそう)


《ああ》


 私は、写真をじっと見つめる。


(私も、こうなりたい)


《こう?》


(乙葉と、こんな風に笑いたい)


《……それが叶わないって知っててもか?》


(……うん。たぶん乙葉は、次に会う私には恋しないからね)


 私は、写真をノートに挟む。


(よし、もうちょっと頑張ろう)


《おう》


 私は、再び資料を読み始める。


 何時間経ったか、わからない。


 でも、少しずつ、情報が頭に入ってくる。


(よし……)


《終わったか?》


(うん。大体、頭に入った)


《すげえな》


(でしょ?)


《で、次は?》


(次は、ハッピーエンドチャートを完成させる)


《まだやるのか》


(当たり前じゃん。これからが本番だよ)


《……ったく》


 私は、新しいノートを開く。


 そして、書き始める。


 みんながハッピーエンドになるための、完璧な計画を。


(絶対に、成功させる)


《ああ》


(絶対に)


《ああ》


 私は、ペンを走らせる。


 何時間も、何時間も。


 でも、疲れなんて感じない。


 今は、これに集中する。


(乙葉……)


 心の中で呟く。


(絶対に、ハッピーエンドにするからね)


《ああ》


(みんなで、笑うんだ)


《ああ》


 私は、ノートを閉じる。


(よし、できた)


《完成か?》


(うん。完璧なハッピーエンドチャート)


《……お前、すげえな》


(でしょ?)


《さすが相棒だぜ》


 私は、立ち上がる。


(さて、次は――)


《タイムスリップだな》


(そう)


 私は、資料室を出る。


 珠洲が、入口で待っていた。


「お疲れ様」


「ん。お疲れ様」


 珠洲が、小さく微笑む。


(可愛い)


《お前、また……》


(いいじゃん、可愛いんだから)


《……ったく》


「珠洲ちゃん、準備できたよ」


「ん?」


「タイムスリップの準備」


「ん」


 珠洲が、頷く。


(実行する前にちゃんと言わないとね……)

 

「ねぇ珠洲ちゃん」


「ん?」


「私ね過去に行こうと思ってるの」


「ん」


「そこで、こんな未来を全部無かったことにして、私の望む未来に変えようと思ってる」


「昴……」


「うん。わかってると思うけど、今の珠洲は居なくなる。完全に全く別の珠洲になると思うだから……」


 っ!!

 謝ろうとする私の唇を、珠洲は自分の唇で塞ぐ。


「大丈夫。昴大丈夫だよ。珠洲、何回生まれ変わっても、昴、好きになるよ」


 その言葉に返事をできないでいると、珠洲はまた外に繰り出していく。過去に行く私に邪魔が入らない様に食い止める気なんだろう。


「いくんでしょ? 過去。じゃあまたね」


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