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異変

 私は、管理局ビルの自室のベッドに仰向けになって、天井を見つめていた。まだ心臓がドキドキしている。


 この間乙葉とデートをした。恋人になってから初めての、ちゃんとしたデート。


 私は「罰ゲームで女装」という建前で、本来の姿――女の子としての格好で乙葉と街を歩いた。ショッピングモールで服を選んで、カフェでお茶をして、公園を手を繋いで散歩した。


(やばい、思い出すだけで顔が熱くなる)


 乙葉が試着室から出てきた時のこと。「どう?」って聞いてきた乙葉が、本当に可愛くて。私も思わず「すごく可愛い」って言ってしまった。


 それから私も試着して、黒いワンピースを着て出たら、乙葉が息を呑んで「昴……すごく綺麗」って。


《おいおい、いつまでニヤついてんだよ》


 ポン吉の声が脳内に響いて、私ははっと我に返った。


(うるさいな、ニヤついてたら悪い?)


《ひっでぇ顔してんぞ。鏡見てみろよ》


 私は枕元のスマホのカメラ機能を起動して、自分の顔を映した。


 ――うわ、めっちゃニヤけてる。


(まぁそういうこともあるよね)


《昴お前、デート中もずっとあんな顔してたんだぜ? 周りから見たら完全に幸せカップルだったな》


 ポン吉は私の肩に乗っかって、ふわふわの尻尾を揺らしている。赤いスカーフを首に巻いた、ただのたぬきにしか見えないこいつが、私の唯一の本音を話せる相手だ。


(でも本当に楽しかったんだよ。久しぶりに女の子として外を歩いたし、乙葉が全部受け入れてくれて)


《ああ、分かってるよ。お前が本当に嬉しそうだったのは俺が一番よく知ってる》


 ポン吉の言葉に、私は少しだけ胸が温かくなった。


(いつもありがと)


《礼なんていいから、さっさと着替えろ。その格好のままベッドで寝転がってたら、間に合わなくなるぞ》


(そうだね)


 私は慌てて起き上がる。そして鏡の前で髪を解いて、いつもの男装スタイルに戻る準備をする。肩にかかる黒髪をざっとまとめて、明日はまた短髪に見えるようにセットしないと。


《なあ昴》


(なに?)


《お前、このままずっと乙葉と一緒にいられると思うか?》


 ポン吉の急な質問に、私は手を止めた。


(それってどう言う意味?)


《いや、別に深い意味じゃねえよ。ただ、お前も分かってるだろ。半魔ってのは、いつ魔物化するか分からない。それにこの前は4体同時に魔物が発生してるし》


 ポン吉の言葉に、私は少しだけ不安が胸をよぎった。



(大丈夫だって。私たち、狩野……深度3の魔物だって倒せたんだから)


《まあ、そうだけどな》


 ポン吉は何かを言いかけて、でも結局何も言わなかった。


私 は髪をまとめ終えて、ベッドに座り直した。スマホを見ると、乙葉からメッセージが来ていた。


『この間は本当に楽しかったね! また一緒に出かけようね』


 私は思わず笑顔になって、返信を打った。


『私も楽しかった。また行こうね』


 送信ボタンを押してから、私はベッドから立ち上がる。


(ポン吉、今日もよろしくね)


《おう、任せとけ》


 ポン吉の言葉に、私は安心した。こいつがいれば、どんなピンチでもなんとかなる。そう思ってきたし、今までずっとそうだった。


(でも、本当に大丈夫かな)




 暫くして私は、管理局の会議室にいた。定例のブリーフィングの時間だ。


 根倉局長が資料を配りながら、いつもの飄々とした口調で話し始めた。


「はーい、皆さんお疲れ様です。今日のブリーフィング、始めまーす」


根倉局長はいつも眠そうな目をしていて、やる気がなさそうに見えるけど、実際は誰よりも有能な人だ。怠惰の半魔の癖にその能力は計り知れない。


「まず、昨日までの魔物発生件数ですが……ちょっと多いですね」


 根倉局長が配った資料を見て、私は目を見開いた。


 先週だけで、東京都内だけで魔物の発生が15件。しかもそのうちの5件が深度2。


「これ、本当ですか?」


 私が思わず声を上げると、根倉局長は頷いた。


「本当です。しかも、これは東京だけの数字。全国で見ると、先週だけで50件以上」


「50件!?」


 会議室にいた他の人たちも、驚きの声を上げた。


 烈志さんが拳を握りしめて言った。


「おかしいだろ。今までは月に一回あれば多い方だったのに」


「そうだよね。明らかに異常事態だよね」


 根倉局長は資料の次のページをめくった。


「さらに問題なのは、魔物の発生パターンなんだ。今までは、個人の感情が爆発して魔物化するケースがほとんどでしたが、最近は……」


「最近は?」


 高城誇が促すと、根倉局長は真剣な表情になった。


「複数人が同時に魔物化するケースが増えています。まるで、何かが引き金になっているかのように」


 会議室に重い沈黙が落ちた。


《おい昴》


(うん、強盗事件がそんな感じだったよね)


「それで、私たちはどうすればいいんですか?」


乙葉が不安そうに尋ねると、根倉局長は優しく微笑んだ。


(大丈夫あなたは私が守るもの)


《そのセリフ言うとお前がめっちゃ怪我する気がしてならないわ》

 

「とりあえずは、今まで通り魔物を見つけ次第討伐してくくれれば大丈夫。ただし、無理は禁物。深度2以上の魔物と遭遇したら、必ず応援を呼ぶこと」


(まぁ? 深度2程度単独でやっちゃってるしぃ?)


《オレがな? お前じゃなくオレがな》

 

「了解しました」


 私たちは全員で頷いた。


「それから、もう一つ重要なことが」


 根倉局長は最後のページを開いた。


 そこには、八つの枢要罪を象徴する紋章が描かれていた。


原罪魔群(オリジンシン)についてだ」


原罪魔群(オリジンシン)……?」


 私は初めて聞く名前に、首を傾げた。


(資料のルビめっちゃかっこいいんだけど)


《オリジンシン、だけじゃなんかインパクトないだろ? きっと事務の人めっちゃ考えたんだよ》


(その人絶対厨二病でしょ。ウケんな) 


 根倉局長は真剣な表情で説明を始めた。


「ああ。理性を保ったまま魔物化した、最強の存在たちだ。通常、魔物は感情に支配されて理性を失うが、深度3まで行くと話は違う。彼らは完全に理性を保ったまま、魔物としての力を使いこなす」


 根倉局長は資料の図を指差した。


「知っての通り魔物の強さは、生まれてからの時間で変わる。生まれたばかりの魔物は深度1。数ヶ月生き延びると深度2になり、固有能力を身につける。そして年単位で生き残った魔物は深度3になり、理性を再取得する」


(前教えてもらったやつだな)


《深度3……狩野、手強かったもんなぁ》


「深度3……狩野さんもそうでしたよね」


私が言うと、根倉局長は頷いた。


「その通り。半魔が魔物化すればそのまま深度3の魔物となる。そして深度3になった魔物は本当に厄介だ」


「それで、原罪魔群(オリジンシン)は……?」


原罪魔群(オリジンシン)は、各枢要罪における最強の深度3の集まりとされている。傲慢、憂鬱、憤怒、怠惰、強欲、暴食、色欲、虚飾。八つの枢要罪それぞれに、一体ずついるとされている」


(なんかアニメだと、それぞれ対応する枢要罪とサシで戦ったり、逆に不利な枢要罪とそれぞれ戦ったりしそうだな)


《そしたら確実に死ぬな》


(いや、ワンチャン……ねぇか)


《そしたら、絶望しかねぇじゃん? 本当にいんのかよその集団》

 

 根倉局長の言葉に、会議室の空気が凍りついた。


「統率しているのは、傲慢の魔物とされている。が、実際に遭遇した記録も何も無いので本当にいるかどうかは確定していない」


(知らないのになんで具体的な資料あるんだろうな)


《今度聞いてみるか》


(だね)

 

「オリジンシンは、人類史の裏で幾度となく魔物大災厄を引き起こしてきたとされている。ただし、実際に姿を見た者はなく、存在自体が都市伝説のようなものだった」


「だったって……まさか」


 誇が鋭く尋ねた。


「ああ。最近の魔物発生率の急増は、原罪魔群(オリジンシン)が動き始めた事によって起きている可能性がある」


 根倉局長の言葉に、全員が息を呑んだ。


「ただし、これはあくまで可能性だ。確証はない。でも、万が一に備えて、皆には知っておいてもらいたかった」


 根倉局長は資料を閉じた。


「以上だ。質問はあるかな?」


 しばらく沈黙が続いた後、烈志が手を上げた。


「もし原罪魔群(オリジンシン)と遭遇したら、どうすればいいんですか?」


 根倉局長は少し考えてから答えた。


「逃げる。相手は各枢要罪最強の存在だよ? 単独で戦っても勝ち目は薄い」


「でも、逃げてる間に被害が広がったら……」


「その時は、全員で対処します。だから、無理だけはしないこと」


 根倉局長の言葉に、烈志は渋々頷いた。


「分かりました」


「他に質問は?」


 誰も手を上げなかった。


「では、ブリーフィングは終わり。皆、今日も安全第一で。頑張ろう。」


 私たちは会議室を出た。


 廊下を歩きながら、私は乙葉と並んで歩いていた。


(乙葉ちゃん今日もきゃわわ)


《真面目な会議をしてたとは思えない発言だわ》


(正直ほぼ乙葉ちゃんしか見てなかった)


《知ってた》


「昴はすごいね」


「ん? 何が?」


「あんな話聞いても平然としてて」


 乙葉の不安そうな顔を見て、私は笑顔を見せる。


(乙葉ちゃんしか見てなかったから……)


《それでちゃんと内容聞いてたのかよ》


「大丈夫だよ。だって私だよ? 何が来てもどうにかしてみせるよ」


(まぁ? 多少はね)

 

「本当に?」


《多少じゃなくて、全部把握しろし》

 

「本当に。任せて」


 乙葉は少し考えてから答えた。


「ふふ、それじゃちゃんと守ってね昴」


(きゃわゆい、あたし、まもりゅ)


《乙葉の笑顔で、昴の知能指数が下がってしまった》

 

「了解。じゃあ準備したら出発しよう」


「うん!」


 乙葉は元気よく返事をして、自分の部屋に向かった。


 私も自分の部屋に戻る道中、ポン吉が問いかけてくる。


《なあ昴》


「何?」


《お前、本当に大丈夫か?》


 私は周りに誰もいないことを確認してから、小さく息を吐いた。


(大丈夫なわけないじゃん。無理無理あの狩野でさえ1人で倒せないのに。逃げるが勝ちだよ)


《まあ、そうだろうな》


(いや、自分で蒔いた種だけどさ、期待が重い重い。そこまで大したやつじゃねえって)


《おいおい、そこまで卑屈になるなよ》


 ポン吉は私の頭をぽんぽんと叩いた。


《お前は今まで、どんなピンチでも乗り越えてきただろ? 自信持てよ》


(ありがと、ポン吉)


《礼なんていいから、さっさと準備しろ。乙葉が待ってるぞ》


(だね)



 渋谷のスクランブル交差点。


 平日の昼間だというのに、たくさんの人で賑わっている。私と乙葉は、私服に着替えて街をパトロールしていた。


「昴、あそこのクレープ屋さん美味しそう」


「パトロール中だよ」


「でも、ちょっとだけ……」


 乙葉が上目遣いで見つめてくると、私は負けそうになった。


(やばい、可愛すぎる。買ってあげりゅ)


《おい、またアホになってんぞ》


 ポン吉のツッコミで我に返った私は、咳払いをした。


「パトロールが終わったら、ね」


「やった! 約束だよ?」


「約束」


 乙葉は嬉しそうに笑った。


 その時、私の携帯が鳴った。根倉局長からの連絡だ。


「はい、昴です」


『昴くん、今どこだい?』


「渋谷のスクランブル交差点です」


『ちょうど良かった。そこから徒歩5分くらいの場所で、魔物の反応がある。すぐに向かってくれるかい?』


「了解しました」


 電話を切ると、乙葉が心配そうに見ていた。


「魔物?」


「うん。近くにいるらしい。行こう」


「うん」


 私たちは人混みを抜けて、指定された場所に向かった。


 路地裏に入ると、そこには――。


「あれは……バンシー?」


 憂鬱の魔物、バンシー。下半身が鱗で覆われ、濡れた髪が顔を覆い隠している。涙と水を纏った、泣き女の姿。


(対応楽なやつでよかった)


《鳴けない、泣き女は、ただの女》


「深度は……1かな」

 

 乙葉が判断した。


(クッソ意味不明。草すら生えないわ)


《今の無し今の無し》

 

「生まれたばかりみたいだね。すぐに片付けよう」


 私は虚飾の力を発動させた。


(バリアを張って、声を封じて、そんで完封。はいただの女になったバンシーちゃんです)


 イメージした瞬間、バンシーの周囲に透明な壁が出現した。バンシーが泣き声を上げようとするが、声は外に漏れない。


《忘れてください……》

 

「今だ、乙葉!」


「うん!」


 乙葉が変身して、巨大な拳でバンシーを殴り飛ばした。一撃で、バンシーは霧散した。


「よし、終わり」


 私が安堵のため息をついたその時、また携帯が鳴った。


「はい、昴です」


『昴くん、悪いんだけど、新宿でも魔物の反応が。そっちに向かってもらえる?』


「了解しました」


 電話を切ると、乙葉が不安そうに言った。


「また?」


「うん。新宿らしい」


「分かった。急ごう」


 私たちは新宿に向かった。


 そこでもまた、深度1の魔物、今度はスライム――怠惰の魔物を討伐した。


 それから池袋、上野、品川。


 次々と魔物が発生して、私たちは一日中走り回っていた。


 夕方になって、ようやく一息ついた時、私達は疲労困憊だった。


「はあ……はあ……」


「昴、大丈夫?」


 乙葉が心配そうに声をかけてくれた。


「大丈夫……乙葉は元気そうだね」


「私は、食べれば回復するから」


「そうだったね。羨ましい限りだよ」


《おい昴、さすがにペースがおかしい。今日だけで何体倒した?》


(えっと……わかんにゃい)


《普段なら月に一回あれば多い方なのに、今日だけでこんなに。明らかに異常だ》


 ポン吉の言葉に、私も不安になっていた。それからまた何件かこなした後暗くなったあたりで切り上げる事にした。


「乙葉、今日はこれで終わりにしようか」


「うん。さすがに私も疲れちゃった」


 そんなやりとりをして私達は帰路へついた。


唐突すぎたかもしれん

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