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恋人宣言

満腹乙葉は廃工場の隅に座り込み、携帯電話で管理局に連絡を取っていた。戦いが終わった今、体の疲労が一気に押し寄せてきていた。


「もしもし、根倉局長ですか? 乙葉です」


 電話の向こうから、局長の安堵の声が聞こえてきた。


「乙葉! 無事だったのか! 昴も一緒か?」


「昴くんも無事です。狩野さんは……」


 乙葉は言葉に詰まった。仲間だった狩野が魔物化し、自分たちを襲ったという事実を受け入れるのは辛かった。


「やはり、狩野が裏切り者だったか……。それで狩野はどうした?」


「私を襲って、昴くんを誘き出すと言って」


「そうか。昴はそれに気づいていたんだな。だから私たちを待たずに、1人で助けに向かったのか」

 

 局長の声に、深い悲しみが込められていた。


「はい。昴くんが守ってくれました」


 乙葉は思い返していた。

 狩野さんは、呼び寄せる餌だと言っていたけど、それは死んでも生きていてもどちらでも役目を果たせる。昴くんがきていなければもしかしたら……。


「そうか、怖かっただろう。組織を預かるものとして失格だった。本当にすまない」


「いえ、昴くんが来てくれたので良いんです」


「そうか……。では迎えを送るからそこで待っていてくれ。動くんじゃないぞ? また捜索なんて勘弁だからな」


 電話を切ると、乙葉は昴の方を見た。昴は仮面を外し、長い髪を整えていた。その姿は、間違いなく美しい女性のものだった。


「昴くん……」


 乙葉が呼びかけると、昴が振り返った。


「ん? どうしたの?」


 昴の口調はいつもより柔らかく、自然体に感じた。いやいつも自然体に感じていたのだが、より自然体というか……。乙葉は誰に言い訳する必要もないのに心の中で思考を巡らせていた。


「その姿、もしかして女装……というよりは、女の子そのものだよね?」


 乙葉の言葉に、昴は苦笑いした。


「あー、その……そうなんだ。私は女だよ」


 昴は長い間言葉に詰まり、やっと絞り出した。

 

「その……どうして、男の子のフリしていたの?」


 昴は少し考えてから、話し始めた。乙葉は昴の過去を静かに聞いた。中学時代の告白の失敗、いじめ、そして男装を始めた理由。全てを率直に話してくれる昴の姿に、乙葉は感動していた。


「辛かったんだね」


 乙葉が心から言うと、昴は肩をすくめた。


「まあ、過ぎたことだし」


「でも、どうして私には教えてくれなかったの?」


 乙葉の質問に、昴は困ったような表情を見せた。


「言おうと思ってたよ。ずっと」


「ならどうして……」


「怖かったんだ。違うって分かってる。今までの人達と乙葉ちゃんは違うって」


 昴が珍しく歯切れの悪い答えをする。


「でも、もし女だって知ったら、乙葉ちゃんが離れていくかもしれないと思って」


「そんなことないよ」


 乙葉が被せ気味に答える。


「昴くんは昴くんだもん。性別なんて関係ない」


 その言葉に、昴の表情が明るくなった。


「ありがとう、乙葉ちゃん」


 しばらく沈黙が続いた後、乙葉が勇気を出して尋ねた。


「昴くん……私のこと、どう思ってる?」


 昴の顔が僅かに赤くなった。


「どうって……」


「昴くんは、危険かもしれないのに1人で私のこと助けに来てくれた。それは仲間だから? 友達だから? それとも……」


 乙葉は、昴の瞳をまっすぐ見つめて聞く。 


「ああ、それは……」


 昴は、変身を解いて男装に戻るとはっきりと告げた。


「何よりも大切な人だと思ってるからだよ。それこそ自分の事よりね」

 

 その告白に、乙葉の心臓が跳ねた。


「本当?」


「本当。初めて会った日から、助けてもらったあの日から私の心は乙葉ちゃんでいっぱいなんだ。と言いたいところだけど……」


 昴が言いかけて、乙葉の顔色を伺う。


「?」


「実は、最近気になってる子が他にもいるんだ」


 その言葉に、乙葉の表情が曇った。


「そ、そうなんだ……」


「乙葉ちゃんに隠し事はしないって言ったから。もう嘘つきたく無いから」


 昴が続ける。


「三毒会の、三毒会が作られた原因になった子なんだけど、どうしても気になってしまうんだ。」


 乙葉は心の中で複雑な感情が渦巻いているのを感じた。昴が自分を好きだと言ってくれたのに、同時に他の女の子のことも気になっているという事実。

 何やら三毒会という、不穏なワードも聞こえた気がしたがそれどころではなかった。


「でも、乙葉ちゃんとはちょっと違う……いや違わないんだけど、違うというか」


 昴が慌てて付け加える。


「珠洲は……なんていうか、守ってあげたいって思う子で。乙葉ちゃんは……」


 昴が言葉を探している。


「乙葉ちゃんは、一緒にいると安心するし、笑顔を見てると幸せになる」


 その言葉に、乙葉の心は温かくなった。


「昴くん……」


「だから、もし良かったら……」


 昴が恥ずかしそうに言う。


「私と恋人になってくれたら嬉しいな。まぁ女同士だけどね」


 乙葉は涙が出そうになった。想い人からの告白だ。嬉しく無いわけがない。


「はい。さっきも言ったけど男とか女とか関係ないよ。私は昴くん……昴ちゃん? だから好きなんだよ」


 乙葉が大きく頷く。


「ふふふ、良いよただの昴で」


 二人は見つめ合い、そっと手を繋いだ。戦いの疲労も忘れるほど、幸せな瞬間だった。


「でも、珠洲って子のことが気になるなー」


 乙葉が正直に言う。


「三毒会なんでしょ、どんな子なの?」


「えーっと……」


 昴が困ったような顔をする。


「説明するのが難しい子なんだ。感情表現が苦手で、でもすごく純粋で」


「今度、会わせてもらえる?」


 乙葉の提案に、昴は驚いた。


「三毒会だよ? 怖くないの?」


「うん。昴くんが気になってる子なら、きっと良い子なんでしょ? 私も知りたい」


 乙葉の寛大さに、昴は感動していた。


「ありがとう、乙葉ちゃん。でも、三毒会の子だからいつになるか……」


「会える時でいいよ」


 乙葉がそう言うと、遠くから車のエンジン音が聞こえてきた。


「迎えが来たみたいだね」


 昴が立ち上がると、身だしなみを整え男装を完璧に仕上げる。


「そうだね」


 乙葉も立ち上がろうとして、ふらついた。まだ体力が完全には回復していない。


「大丈夫? 傷は粗方直したけど、私の能力だから、後でちゃんと見てもらってよ?」


 昴が乙葉を支える。


「うん、ありがとう」


 車が近づいてくる。管理局の車両だった。運転席から根倉局長が降りてきた。


「二人とも、本当に無事で良かった」


 局長の声には、心からの安堵が込められていた。


「すみません、ご心配をおかけしました」


 乙葉が頭を下げる。


「乙葉、君は悪くない。狩野の裏切りは誰も予想できなかった。というよりは私が察知出来なかったのが悪い」


 局長が乙葉の肩に手を置く。乙葉は何故かわからないが、体が縮こまる気がした。


「昴」


 局長が昴を見る。


「よくやった。乙葉を守ってくれてありがとう」


「いえ、間に合ってませんでした。自分の力不足を痛感しています」


 昴が答える。


「そうか、君も相当な怪我を負ったようだね」


 局長が昴の怪我を確認する。


「私の方は、大丈夫です」


「いや、大丈夫じゃない」


 局長の声が急に厳しくなった。


「君は昨日一昨日と連絡もなしに姿を消し、三毒会の拠点に泊まったそうじゃないか。そして今度は命に関わる戦いに、単身挑みに行った」


 昴が身を縮める。


「どれだけ心配したと思っている?」


 局長の声に、親のような愛情が込められていた。


「申し訳ありませんでした」


 昴が深々と頭を下げる。


「謝って欲しいわけじゃないんだ。私達はそんなに頼りないかい? 君は確かに有能だ。それでもまだ子供なんだ。次はちゃんと頼ってくれることを願うよ」


「はい」


 局長は昴の肩を掴み、そっと抱きしめた。


「本当に無事で良かった」


 その光景を見て、乙葉は心が温かくなった。昴を本当に大切に思ってくれている人がいる。それがとても嬉しかった。


 局長が昴から離れ、今度は乙葉に向かって腕を広げた。


「乙葉も……」


 だが、その瞬間、乙葉の体が硬直した。


 男性が自分に向かって手を伸ばしてくる光景が、狩野の記憶と重なったのだ。あの手で掴まれ、痛めつけられた記憶が蘇る。


「あ……」


 乙葉が後退る。顔が青ざめ、呼吸が荒くなった。


「乙葉?」


 昴が心配そうに声をかける。


「ごめんなさい、局長……わざとじゃないんです。でも怖くて……身体が……」


 乙葉が震え声で言う。局長の優しい表情も、狩野の狂気の顔に見えてしまう。


「落ち着いて、乙葉ちゃん」


 昴が乙葉の前に立ち、局長から遮るように位置取る。


「ここにいるのは局長だ。狩野じゃない。それに目の前には誰がいる? 君の昴だよ」


 昴の声に、乙葉は少しずつ恐慌状態から戻ってくる。


「すばる……」


 乙葉は昴に縋りつきながら、局長に謝ろうとする。

 それを局長は、手で制して止める。


「謝る必要はない。君が受けた心の傷は深い」


 局長が距離を取りながら言う。


「時間をかけて、ゆっくりと癒していこう」


 乙葉は涙が出そうになった。理解を示してくれる人たちがいる。それだけで救われる気持ちだった。


「車に乗ろう」


 昴が乙葉の手を取る。


「私が隣にいるから、大丈夫」


 乙葉は昴の手の温かさに安心した。この人がいれば、きっと大丈夫。そう思えた。


 車に乗り込みながら、乙葉は考えていた。今日は本当に様々なことがあった。命に関わる戦い、昴の正体、そして二人の関係の変化。


 でも、一番大きな変化は、昴との絆が深まったことだった。お互いの秘密を知り、お互いの気持ちを確認し合えた。これから先、どんな困難があっても、二人で乗り越えていけるような気がした。


「昴」


 乙葉が小さく呼びかける。


「ん?」


「ありがとう。今日は本当にありがとう」


「私こそ、ありがとう」


 昴が微笑む。


「乙葉ちゃんがいてくれたから、勝てたんだ」


 車は管理局に向かって走っていく。乙葉は昴の手を握りながら、新しい未来への希望を感じていた。戦いは終わったが、二人の物語はまだ始まったばかりだった。


「所で昴、俺から私に変えたのか? お前らしくていいな」


「私の方が大人っぽいですからね。あと若者がイチャイチャしてるところに入ってくるのは良くないですよ」


 

12時更新に変えてみようと思います

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