最強の人間
松元竜司は三毒会の拠点で、窓の外を監視していた。昨夜からの騒動で、管理局の動きが慌ただしくなっているのを感じ取っていた。
「やはり来たか」
竜司が呟く。建物の下に、管理局の車両が停車しているのが見えた。
蘭堂紅葉と紅蓮寺灯が竜司の元にやってきた。
「管理局ね。何人来てるの?」
紅葉が窓から外を覗く。
「三人だ。根倉、赤城、それに高城誇」
竜司が答える。
「本部の主要メンバーじゃない。相当本気ね」
紅葉の声に緊張が混じる。
「連中、相当怒ってるみたいだな」
灯が険しい表情を見せる。
「当然だろう。仲間が二人も行方不明になってるんだからな」
竜司が冷静に分析する。
「でも、俺たちは無関係じゃないか」
灯が反論する。
「分かってる。だが、連中はそう思ってない」
竜司が立ち上がる。
「状況は理解できる。昨日の同時多発、そして二人の失踪。俺たちを疑うのも無理はない」
「どうするの?」
紅葉が心配そうに尋ねる。
「話し合いで解決できればいいが……」
竜司が首を振る。
「連中の顔を見る限り、話を聞く気はなさそうだ」
その時、建物のエントランスから激しい音が響いた。管理局の三人が強行突入を開始したのだ。
「来たな」
竜司が拳を握る。
「珠洲は安全な場所にいるか?」
「ええ、奥の部屋で待機させてるわ」
紅葉が答える。
「よし。できるだけ穏便に済ませたいが、相手次第だな」
竜司たちが階段を降りていくと、既に一階のロビーに管理局の三人が立っていた。
根倉眠が先頭に立ち、その後ろに赤城烈志と高城誇が控えている。三人とも戦闘態勢を取っていた。
「三毒会だな」
根倉が静かに言う。
「満腹乙葉と狩野貪を返してもらおう」
「返すも何も、俺たちは何もしてない」
竜司が答える。
「嘘をつくな!」
烈志が怒りを露にする。
「お前らは過去にも管理局の職員を殺してる!今度は誘拐か!」
「落ち着けよ」
竜司が手を上げる。
「話し合いで解決しよう」
「話し合い?」
誇が冷笑する。
「仲間を攫っておいて、よくそんなことが言えるな」
「だから、俺たちは攫ってない」
灯が前に出る。
「証拠もないのに決めつけるな」
「証拠なら十分ある」
根倉が続ける。
「君たちは管理局と敵対している。動機は十分だ」
「動機?」
竜司が首を傾げる。
「俺たちが管理局の半魔を攫って、何の得がある?」
「人質にして、俺たちを脅すつもりだろう」
烈志が決めつける。
「それとも、自分の勢力の半間を増やすことが目的か?」
その推測に、竜司は溜息をついた。
「話を聞く気がないなら、仕方ない」
竜司が身構える。
「少し頭を冷やしてもらうか」
瞬間、戦闘が始まった。
烈志が最初に動いた。炎を纏った拳で竜司に向かって突進する。
「欲望解放」
烈志の体から炎が噴き出し、髪が赤く燃え上がる。憤怒の半魔としての力を解放したのだ。
だが竜司は冷静だった。特殊なナイフを取り出し、烈志の攻撃を受け流す。消滅前の魔物が自切した部位を加工してできたナイフだ。
半魔の攻撃を受け流す程度なら問題ない。
「速いな」
烈志が驚く。
「だが、俺の炎を避け続けられるか?」
烈志が連続攻撃を仕掛ける。だが竜司は全ての攻撃を最小限の動きで回避していく。
一方、誇は灯と対峙していた。
「欲望解放」
誇の背中に翼が現れ、全身が鱗に覆われる。傲慢の半魔としての竜人の姿だった。
「俺が相手だ」
灯も応戦する。
「欲望解放」
灯の体から炎が立ち上る。憤怒の半魔として、烈志と同系統の能力を持っていた。
二人の炎使いが激突する。誇の鱗と灯の炎がぶつかり合い、火花を散らした。
根倉は紅葉と向かい合っていた。
「君は戦わないのか?」
根倉が尋ねる。
「竜司と違って、私は普通の人間なの。あんなおかしな人と一緒にしないで」
紅葉が微笑む。
「でも、子供を守れるなら死んだっていいわ」
「それなら、仲間の居場所を教えてくれ」
根倉が交渉を試みる。
「知らないものは教えられないわ」
紅葉が首を振る。
「本当に知らないのか?」
「ええ。昨日は珠洲が友達を連れてきて、一緒に過ごしていたの。だから私達に、貴方の仲間を攫う暇なんかなかったのよ」
紅葉の言葉に、根倉は眉をひそめた。
「友達?」
「鏡昴って子よ。とても良い子だった」
その名前を聞いて、根倉の表情が変わった。
「昴が……ここに?」
戦闘の最中、竜司が烈志の攻撃を受け流しながら叫んだ。
「おい、話を聞け!」
竜司のナイフが烈志の炎を切り裂く。
「俺たちは無実だ!」
「嘘をつくな!」
烈志が更に激しく攻撃する。
「証拠を見せろ!」
「証拠なら、時系列を考えてみろ!」
竜司が反撃する。ナイフの柄で烈志の手首を叩き、一瞬怯ませる。
「俺たちは昨日の朝まで昴と一緒にいたんだ!」
その言葉に、戦闘の動きが止まった。
「昴と一緒に?」
誇が振り返る。
「ああ。珠洲が連れてきて、一晩泊まっていった」
竜司が答える。
「そんなはずはない」
烈志が否定する。
「昴は行方不明になってたんだ」
「だから、昨日の夜まではここにいたって言ってるんだ」
竜司が説明する。
「朝になって帰って行った。お前らも確認してみろ」
管理局の三人は顔を見合わせた。確かに昴は昨日の朝方に帰ってきていた。
「それで?」
根倉が続きを促す。
「だから動機がないって言ってるんだ」
竜司が武器を下ろす。
「昨日まで普通に交流してた相手を、なぜ攫う必要がある?」
「それに、時間的にも無理だ」
灯が補足する。
「昴が帰った後、俺たちはずっとここにいた。誰かを攫いに行く暇なんてない」
「そんなのは嘘かもしれない」
烈志が食い下がる。
「だったら証明してみろ」
竜司が挑発的に言う。
「ここに管理局の人間がいるか?お前たち以外にな。なんなら隅々まで探したっていい」
その指摘に、三人は言葉を失った。確かに、建物内を探索しても2人は見当たらない。
「それに、そこまで怒るほど大事な仲間なら」
竜司が続ける。
「他にやることがあるんじゃないか?」
「他にやること?」
「本当の犯人を探すことだ」
竜司が真剣な表情になる。
「俺たちを疑って時間を無駄にしている間に、本当の犯人は証拠隠滅を図ってるかもしれない」
その可能性に、三人は愕然とした。
「それと」
竜司が重要な情報を付け加える。
「あとお前らの中に裏切り者がいるってこと、知っておいた方がいいぞ」
「何だって?」
根倉が反応する。
「俺たちがお前らの動きを逐一把握できてたのは、その裏切り者から情報をもらっていたからだ」
この暴露に、三人は衝撃を受けた。
「俺たちの中の誰かが……情報を?」
誇が困惑する。
「ああ。情報を流してやるって、持ちかけられてな。声も変えられてたし実際に会ったこともないから特定は出来ないがな。」
竜司が続ける。
「そんな奴だ。俺たち以外にも情報を流してる組織がいてもおかしくないぜ?」
「他の組織?」
「それこそ、例の魔物の集団とかな」
竜司の言葉に、管理局の三人は青ざめた。
「まさか……原罪魔群?」
根倉が呟く。
「だとしたら、そいつは人類の敵ということになるぞ」
「身内を疑うのは辛いだろうが……」
竜司が断言する。
「2人が行方不明になったのも、計画の一部かもしれない」
長い沈黙が流れた。管理局の三人は、この新たな情報を消化しようとしていた。
「もし君の言う通りなら……」
根倉が重い口を開く。
「俺たちは完全に間違った方向に向かっていたことになる。2人が危ないのか、もしくは罠なのか考えなければ」
「そういうことだ」
竜司が頷く。
「俺たち昴のことは気に入ってる。珠洲も昴のこと友達だと思ってるからな。昴の事頼んだぜ」
「友達……」
烈志が呟く。
「昴は本当にここにいたのか?」
「ああ。珠洲が連れてきて、一緒にゲームをしたり、食事をしたりした」
紅葉が証言する。
「とても良い子だったわ」
管理局の三人は、自分たちの判断の誤りを認めざるを得なかった。
「すまない」
根倉が頭を下げる。
「俺たちは感情的になりすぎていた」
「気持ちは分かる」
竜司が寛大に答える。
「大事な仲間のことだからな」
「それで、本当の犯人について何か心当たりはあるか?」
誇が尋ねる。
「ここまで来れば、犯人は管理局の職員の誰かだろう」
竜司が分析する。
「そしてその黒幕は……」
「理性を持った魔物の集団。原罪魔群か」
根倉が推測する。
「その可能性が一番高いな」
竜司が同意する。
「裏切り者が、そいつらと繋がってるとすれば、全ての辻褄が合う」
新たな脅威の存在が明らかになった今、管理局と三毒会は一時的な休戦状態となった。
「原罪魔群絡みとなれば、歪みあってる場合じゃあない。協力してくれるか?」
根倉が提案する。
「当然だ」
竜司が力強く答える。
「流石に人類の敵を前にして、人間同士で争う馬鹿をやるつもりはない」
戦いから一転して、両組織は共通の敵に立ち向かうことになった。だが、時間は刻々と過ぎており、乙葉と狩野の安否はますます不透明になっていった。
竜司は窓の外を見ながら、新たな戦いが始まることを予感していた。今度の敵は、これまでとは次元の違う相手になるかもしれない。
半魔と普通にやり合える人間とか我ながらバグったキャラだと思う




