到着しない待ち人
その日俺は、管理局で2人を待ち続けたが結局乙葉ちゃんと狩野さんは帰ってこなかった。
夜が明け、朝になっても連絡は途絶えたままだ。県外の現場とはいえ、これは明らかに異常事態だった。
局長、烈志、誇の三人が緊急会議を開いている。俺は呼ばれていないが、会議室の外からでも緊迫した雰囲気が伝わってくる。
やがて三人が部屋から出てきた。全員の表情が険しい。
「昴」
局長が俺を呼んだ。
「はい」
「君にはショックなことだと思うが、満腹と狩野の2人は三毒会に攫われた可能性が高い」
その言葉に、俺は愕然とした。
「そんな、乙葉ちゃんが攫われた!? しかも三毒会に? そんなはず……」
思わず反論してしまう。
「君は三毒会について何か知ってるのか?」
誇が鋭い目で俺を見る。
「いえ、そういうわけでは……ただ、証拠もないのに決めつけるのは」
「証拠なら十分ある」
烈志が割り込む。
「あいつらは過去に管理局の職員を殺してるんだぞ?」
その事実に、俺は言葉を失った。
「半年前、三毒会に潜入した調査員が殺害された。今回も同様に殺されてしまうかもしれない」
局長が重々しく続ける。
「我々は三毒会のアジトに乗り込む。昴、君は依里と共にここで待機していろ」
「でも、俺も……」
「ダメだ」
局長がきっぱりと断る。
「君はまだ新人だ。それに、今回の件で君が動揺しているのは明らかだ」
確かに動揺している。でも、それは三毒会が疑われているからではない。乙葉ちゃんの身に何かあったかもしれないという不安からだ。
「艶見、昴と依里のことを頼む」
いろはさんが頷く。
「任せて。でも、あまり無茶はしないでよ」
「分かってる」
局長、烈志、誇の三人が管理局を出て行った。残されたのは俺と依里、それにいろはさんだけだった。
俺は自分の部屋に戻り、一人で考えた。
(三毒会の人たちが乙葉ちゃんと狩野さんを攫うメリットって何だ?)
《確かにわからん。俺たちを攻撃する理由が無さすぎる》
(それに、昨日まで俺と一緒にいたのに、いつ攫う暇があったっていうんだ)
《単純に時系列としてもおかしいことになるな》
タイミングが合わない。俺が三毒会にいた時、珠洲ちゃんたちは普通に過ごしていた。誰かを攫う計画を立てている様子はなかった。
(だとすると、第三の敵の存在を考えるべきかもしれない)
《第三の敵?》
(例えば、理性を持った魔物とか。深度3クラスの強力な個体が策略を練っているとか)
《過去に何体かいたって話は聞いてるが、このタイミングで発生したって事か?》
(分からない。でも、今回の同時多発だって異常だった。誰かが糸を引いている可能性は高い)
恐ろしい推測が頭をよぎる。もしそんな魔物の仕業だとしたら、乙葉ちゃんと狩野さんを生かしておく保証はない。
(一刻も早く探さないと)
俺は立ち上がった。じっとしていられない。
(バレないように能力を使って、何かできることはないか)
《何を作るつもりだ?》
(探査機……いや、ドローンか?)
虚飾の能力なら、イメージしたものを現実化できる。探索用のドローンを大量に作り出し、あたり一面を捜索すれば……
(そうだな、小型の探査用ドローン前テレビで見たきあれなら……)
《ドローンなんかで見つからるか?》
ポン吉の疑問は無視をする。見つかるか? じゃない見つけるんだ。
俺は目を閉じ、精神を集中した。小型のドローン、カメラ付きで静音性に優れ、長時間飛行可能な機体をイメージする。
虚飾の力が発動し、部屋の中に十数機のドローンが現れた。手のひらサイズの小さな機体だが、高性能なカメラとセンサーを搭載している。
(これで周辺を探索してみよう)
ドローンを窓から飛ばし、管理局の周辺から始めて徐々に範囲を広げていく。映像は俺の脳裏に直接送られてくる。
赤い電波塔の映像。超高層ビル。有名な封鎖できない橋。1番高い電波塔の映像。一度にその全てが頭の中に流れ込んでくる。
《こんなに脳内に同時に映像送って大丈夫か?》
だが、1時間経っても、2時間経っても、乙葉ちゃんたちの姿は見つからない。脳が疲労で自分でも回転が鈍くなってきてるのを感じる。
(範囲を広げる必要があるな)
私は更にドローンを追加で作り出した。今度は50機以上の大群で、市内全域をカバーできるような配置で飛ばす。過負荷で座っていられずベッドへ倒れ込む。
《おい、無理すんな。お前の脳みそどうにかなっちまうぞ!》
(しるか。乙葉ちゃんを見つけるまで、私は諦めない)
ドローンの映像を見ながら、私は、三毒会の拠点周辺も確認した。烈志たちが突入している最中らしく、建物の周りに管理局の車両が見える。
(やっぱり戦闘になったか)
だが、肝心の乙葉ちゃんたちの姿はそこにもない。頭の中がズキンズキンと痛む。
《三毒会じゃないってことか》
(そうなると、やっぱり第三の敵の可能性が高い)
不安が募る。未知の敵が相手だとすれば、乙葉ちゃんたちがどこに連れて行かれたのか、全く見当がつかない。
(もっと遠くまで探す必要があるかもしれない)
《もう限界だ。オレが半分やったって無理だ。死んじまう》
痛む頭とポン吉を無視して、私はドローンの数を更に増やした。今度は100機を超える大群だ。これだけあれば、隣県まで探索範囲を広げられる。
大量の映像を処理しきれず、自分が起きているのか寝ているのかすらわからなくなる。頭の血管がぶちぶち切れている様な錯覚すらおきてくる。
だが、それでも手がかりは掴めない。
(くそ、どこにいるんだ)
《一旦落ち着けって。焦っても仕方ない》
(落ち着いてなんかいられるか。乙葉ちゃんが危険な目に遭ってるかもしれないんだぞ)
《分かってる。だからこそ、冷静になって考えるんだ》
ポン吉の言葉に、私は、探査機を一旦全て消して深呼吸をした。確かに、感情的になっても良い結果は生まれない。
(他に何か手はないか)
私は虚飾の能力の応用を考えた。ドローンだけでなく、他にも探索に役立つものを作れるかもしれない。
考えろ、考えろ、考えろ。考えて、想像して。創造しろ。
(そうだ、例えば生体反応を探知できるセンサーとか)
《それを広範囲にソナーの様にして探知出来れば……》
新たなアイデアが浮かぶ。乙葉ちゃんと狩野さんの生体反応をピンポイントで探知できる装置があれば……
私は集中し、高性能な生体探知機をイメージした。生体反応をキャッチできる特殊なセンサーだ。
装置が現実化し、すぐに起動させる。画面に複数の反応が表示されたが、そのほとんどは管理局内の人たちのものだった。頭の中がズキンズキンとうるさい。
(もっと範囲を広げて……)
探知範囲を最大まで広げると、膨大な反応が現れた。その情報量に脳が追いつかず、視界が真っ白になる。だが、乙葉ちゃんと狩野さんの特定は困難だった。
《もっと精密な識別が必要だな》
(そうだな。でも、どうやって……)
その時、私は重要なことに気づいた。
(私、乙葉ちゃんの能力の感じを覚えてる)
毎日一緒にいるおかげで、乙葉ちゃんの暴食の能力が発する独特な波動のようなものを感じ取れる。それを手がかりにすれば……
私は、探知機の設定を調整し、乙葉ちゃんの能力に特化した探索モードに切り替えた。
しばらくすると、画面の端に微弱だが確かな反応が現れた。
(これは……)
反応の位置は、市内から大きく離れた山間部だった。こんな人里離れた場所に、なぜ乙葉ちゃんが……
《間違いないのか?》
(分からない。でも、確認しに行くしかない)
私は該当地域にドローンを集中させた。山間部の詳細な映像が送られてくる。
そこには、古い廃工場のような建物があった。外見は朽ち果てている。そこに管理局の車が停まっている。
(これ……管理局の車だよな)
ドローンをより接近させるも、建物の中に侵入は出来そうもない。
《これは、ビンゴかもしれないな》
(今動けるのは私といろはさんと依里ちゃんだけ)
《あの2人を確証のない危険に晒すのはダメだよな》
俺は迷った。いろはさんに報告すべきか、それとも管理局が戻ってくるまで待つべきか。
だが、時間が経てば経つほど、乙葉ちゃんたちの危険は増す。
(私が1人……いや、私とポン吉で行くしかない)
《本気か?》
(本気。乙葉ちゃんを救うためなら、私は何でもする)
私の決意は固まった。虚飾の能力を最大限に活用し、ポン吉と協力して乙葉ちゃんを救い出してみせる。
(ポン吉、私のこと手伝ってね)
《おう、任せとけ》
私は立ち上がり、出発の準備を始めた。この時、私の心の中には、普段封印している本来の自分が顔を出していた。
(ポン吉ありがと)
その言葉が、自然と心の中に浮かんだ。
《気づいてるか? お前が自分のこと、昔みたい呼んでるぞ。私、っての久しぶりに聞いたわ》
ポン吉の指摘に、私ははっとした。確かに、最近は俺で通していた。だが、今は違う。乙葉ちゃんを救うために、余計なことにリソースを割いてなんていられない。
(そうだね。でも今は、それでもいい)
私は、どんな手を使ってでも、乙葉ちゃんを救い出してみせる。
管理局を抜け出す計画を練りながら、私の心は既に戦闘モードに入っていた。
展開で一人称変わるのいいよね




