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管理局最強

 八罪管理局の会議室では、緊急事態への対応が協議されていた。鏡昴の行方不明が発覚してから既に数時間が経過している。


 「昴の携帯は相変わらず圏外だな」


 高城誇が苛立ちを隠せずに呟く。


 「一体どこで何をしているんだ」


 「まぁまぁ、そう焦るなって」


 赤城烈志が肩をすくめる。


 「あいつのことだから、どこかでのんびりしてるんじゃねーか?」


 「のんびりって……」


 誇が反論しようとした時、狩野貪が慌ただしく会議室に駆け込んできた。


 「大変です!」


 狩野の表情は青ざめていた。強欲の能力で各地の情報を収集していた彼が、これほど動揺するのは珍しい。


 「魔物が同時多発しています! 4箇所で!」


 「4箇所?」


 根倉眠局長が眠そうな目を見開いた。


 「詳しく教えて」


 「はい」


 狩野が手にした資料を広げる。


 「市街地北部で傲慢のドラゴン、深度2。東部で暴食のオーク、深度2。南部で虚飾のミラージュ、深度1。西部で色欲のサキュバス、深度1です」


 会議室に緊張が走った。4箇所での同時発生、しかも深度2が2体も含まれている。


 「偶然にしては出来すぎてる」


 誇が眉をひそめる。


 「組織的な動きかもしれないな」


 「昴の捜索はどうする?」


 烈志が問いかけた。


 「魔物対応を優先するしかないでしょう」


 根倉が静かに答える。


 「人命がかかってるからね。昴くんには申し訳ないけど、後回しにせざるを得ない」


 「分担を決めよう」


 誇が立ち上がる。


 「俺と依里で暴食、局長は傲慢、烈志は虚飾、狩野と満腹で色欲。どうですか?」


 「異議なし」


 根倉が頷く。


 「艶見には討伐後の処理を順次お願いしよう。みんな、気をつけて」


 各自が現場に向かう中、根倉は一人、北部の現場へと急行していた。


 傲慢のドラゴン、深度2。八つの枢要罪の中でも最も危険な部類に入る魔物だった。


 現場に到着すると、既に周辺は避難が完了していた。だが建物の損傷は激しく、巨大な爪痕や焼け跡が無数に刻まれている。コンクリートの破片が散乱し、アスファルトには深い亀裂が走っていた。


 「やれやれ」


 根倉が溜息をついた時、頭上から地響きのような咆哮が響いた。


 見上げると、黒い鱗に覆われた巨大なドラゴンが空中を旋回している。体長は優に10メートルを超え、翼を広げれば20メートルはあるだろう。金色の瞳が根倉を見下ろし、明らかな殺意を向けている。


 「久しぶりだなぁ、深度2は」


 根倉が呟きながらネクタイを緩める。


 「でも仕方ない。やるしかないよね」


 ドラゴンが急降下してきた。巨大な爪が根倉を捕らえようとする。風圧だけで周辺のガラスが粉々に砕け散った。


 だが根倉の姿は既にそこにはなかった。


 「欲望解放(デザイアリリース)


 根倉の声が響くと同時に、彼の姿が変化し始めた。


 怠惰の半魔としての力が解放される。根倉の体が半透明になり、まるでスライムのような質感を帯びた。これが怠惰の半魔化、半スライム化だった。


 「物理攻撃は効かないよ?」


 根倉の声がどこか遠くから響く。


 ドラゴンの爪が根倉の体を貫いたが、まるで水を切るように素通りしていく。半スライム化した体には、物理的な攻撃は一切ダメージを与えることができない。


 ドラゴンが混乱したように首を振った。口から灼熱の炎のブレスを吐き出す。温度は優に千度を超え、周辺のコンクリートが溶け始めた。


 だが炎もまた、根倉の半スライム化した体を素通りしていく。


 「熱いのもね効きづらいのよねー」


 根倉が暢気に言いながら、ドラゴンの足元に移動した。


 「昇化」


 さらに根倉の力が変化した。昇化――感情を別のものに昇華させる技術。根倉は怠惰の感情を効率化に昇華させた。あらゆる動作が最適化され、無駄のない完璧な動きが可能になる。


 根倉の体から、無数の触手のような器官が効率的に伸びた。半スライム化した体の利点を最大限に活用し、ドラゴンの四肢に絡みつく。


 「うりゃ」


 根倉が軽く引っ張ると、巨大なドラゴンの体がバランスを崩した。効率化された力は、見た目以上に強大だった。


 ドラゴンが地面に墜落する。巨体が激突し、半径100メートルにわたって地面が陥没した。


 「でも傲慢は厄介だからなぁ」


 根倉がドラゴンに近づいていく。


 「正面から打ち負かさないと、完全には倒せないんだよね」


 ドラゴンが立ち上がろうとする。傲慢の魔物として、このような屈辱は許し難いものだった。巨大な後ろ足で根倉を踏み潰そうとする。


 だが根倉は半スライム化で足をすり抜け、そのままドラゴンの腹部に向かって拳を叩き込んだ。


 昇化の効率化により、この一撃は最適な角度、最適な力で放たれた。ドラゴンの巨体が宙に浮き上がった。


 「おっと」


 空中に浮いたドラゴンを、根倉の触手が掴む。そのまま地面に叩きつけた。


  巨大な地響きと共に地面が砕け散る。ドラゴンがたまらず苦悶の咆哮を上げた。


 「まだまだ」


 根倉が追撃に移る。触手でドラゴンの首を掴み、そのまま回転させて隣のビルに投げつけた。


 ドラゴンの巨体がビルを貫通し、向こう側に突き抜けていく。コンクリートと鉄筋が飛び散り、粉塵が舞い上がった。


 「効率化って便利だよねー」


 根倉が呟きながら、崩れ落ちるビルの瓦礫を避けて移動する。昇化による効率化で、最小の動きで最大の回避効果を得ていた。


 瓦礫の中からドラゴンが這い出してきた。鱗の何枚かが剥がれ、金色の瞳には明らかな怒りが宿っている。


 「まだやる気?」


 根倉が首を傾げた時、ドラゴンが再び炎のブレスを放ってきた。今度は範囲を広げ、根倉の逃げ場を封じる作戦だった。


 「あー、頭いいなぁ」


 根倉が感心する。だが昇化の効率化により、彼は炎の隙間を縫うように移動し、ドラゴンの死角に回り込んだ。


 「でもこっちも頭いいんだよ」


 根倉の触手がドラゴンの翼を掴む。そして効率化された力で、思い切り引っ張った。


 ドラゴンの翼の骨が折れる、乾いた音が響いた。巨大な体が再び地面に墜落する。


 「痛そう……ごめんね」


 根倉が申し訳なさそうに言いながら、今度はドラゴンの頭部に狙いを定めた。


 触手がドラゴンの首を掴む。そして効率化された力で、容赦なく締め上げた。


 ドラゴンがもがき苦しむ。後ろ足で根倉を蹴り飛ばそうとするが、半スライム化した体には一切ダメージが通らない。


 「力比べなら負けないよ?」


 根倉の触手に怠惰の力が込められる。ドラゴンの体に直接、強制的な脱力感が注入されていく。


 だがドラゴンは傲慢の魔物だった。プライドにかけて、この屈辱に屈するわけにはいかない。


 「グルルルル……」


 ドラゴンが低い唸り声を上げながら、残された力を振り絞った。口から小規模な炎弾を連射し、根倉を牽制する。


 「おー、まだ頑張るんだ」


 根倉が炎弾を避けながら言う。昇化の効率化で、最小限の動きで全ての攻撃を回避していた。


 「じゃあもうちょっと本気出そうか」


 根倉の体が更に変化した。半スライム化がより進行し、彼の体は完全に液状化した。そして瞬時にドラゴンの体を包み込む。


 「うわ、気持ち悪い」


 根倉の声がドラゴンの周囲から響く。


 液状化した根倉がドラゴンの全身を覆い、動きを完全に封じていく。ドラゴンがどんなにもがいても、液体状の拘束からは逃れられない。


 「さて、どうしようかな」


 根倉がドラゴンの眼前で人型に戻る。


 「君、降参する? それとももうちょっと痛い目に遭う?」


 ドラゴンの金色の瞳に、僅かな動揺が浮かんだ。だがプライドが邪魔をして、降参することはできない。


 「わかった」


 根倉が溜息をつく。


 「じゃあ最後の手段だね」


 根倉が拳を構えた。昇化の効率化により、最適な打撃ポイントを瞬時に計算する。


 「ごめんね」


 効率化された拳がドラゴンの鼻先に叩き込まれた。


 鈍い音が響く。ドラゴンの目が一瞬、焦点を失った。


 「もう一発」


 今度は顎の下への打撃。効率化された力が、ドラゴンの巨大な頭部を跳ね上げた。


 「あと何発いる?」


 ドラゴンがふらつきながらも、まだ立っていた。傲慢の魔物としてのプライドが、簡単には折れない。


 「しつこいなぁ」


 根倉が苦笑いを浮かべる。


 「じゃあ連打で」


 効率化された連続攻撃が始まった。最小の動きで最大の威力を発揮する拳が、ドラゴンの全身に叩き込まれていく。


 まるで機械のような正確さで、攻撃が繰り出された。ドラゴンの鱗が次々と剥がれ落ちていく。


 「はぁ、はぁ」


 ドラゴンの呼吸が荒くなった。さすがの傲慢の魔物も、この攻撃には耐えきれない。


 「どう? まだやる?」


 根倉が問いかける。


 ドラゴンを見つめると、意識を失った閉じられたまぶたが敗北を教えていた。


 「よし、それで正解」


 根倉が拘束を解く。


 傲慢の魔物が敗北を認めた瞬間、その体が光の粒子となって消散し始めた。これが傲慢系魔物の撃破条件、「正面から打ち負かす」ことの結果だった。


 「お疲れ様」


 根倉がドラゴンの消えていく姿に向かって小さく手を振った。


 半魔化を解除すると、根倉の体は元の人間の姿に戻る。昇化の反動で、少し疲労感があった。


 「さて」


 根倉が携帯を取り出す。


 「みんなの様子はどうかな?」


 通信を確認すると、他の現場からも次々と討伐完了の報告が入っていた。誇と依里のペアが暴食を、烈志が虚飾を、それぞれ撃破している。


 だが狩野と満腹乙葉のペアからは、まだ連絡がない。


 「県外の現場だからね」


 根倉が呟く。


 色欲の現場は他の3箇所から離れた場所にあった。討伐自体は完了しているはずだが、距離の関係で帰りが遅れているのだろう。


 根倉は現場の後始末を開始した。建物の損傷状況の確認、目撃者への記憶処理、報告書の作成。深度2の魔物だったこともあり、作業は深夜まで続いた。


 管理局に戻ったのは午前2時を過ぎていた。他のメンバーも既に帰還しており、疲れた様子で報告書を作成している。


 「みんな、お疲れ様」


 根倉が声をかける。


 「同時多発なんて久しぶりだったね」


 「本当に疲れました」


 誇が肩を回す。


 「深度2の暴食は手強かった」


 「虚飾も面倒だったぜ」


 烈志が愚痴る。


 「仮面が複数あって、どれが本物か分からなくて苦労した」


 「狩野と満腹はまだ?」


 根倉が確認する。


 「まだですね」


 誇が答える。


 「でも討伐完了の連絡は入ってるので、そのうち戻ってくると思います」


 「そうだね。距離もあるし、無理はしなくていい」


 根倉が頷く。


 その時、受付から連絡が入った。


 「局長、鏡さんが戻られました」


 「昴が?」


 根倉が安堵の表情を見せる。


 「無事だったんだね。よかった」


 今回の同時多発は明らかに異常だった。4箇所で同時に発生するなど、偶然ではあり得ない。背後に何らかの組織的な動きがあることは確実だった。


 だが今は、メンバーの無事を確認できただけで良しとしよう。明日からまた、新たな戦いが始まる。


 根倉は疲れた体を引きずりながら、報告書の作成に取りかかった。怠惰の半魔でありながら、責任感の強い彼らしい行動だった。


かっこいいオジサンかけてるかな?

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