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お宅訪問

 今日は、午前中で訓練も終わり暇だったので商店街をぶらぶらと歩いていた。すると俺の後ろから、聞き覚えのある声が響いた。


 「昴」


 振り返ると、珠洲ちゃんが立っていた。起伏はないが、なぜか真剣な雰囲気を纏っている。


 《お、この前助けてくれた……珠洲って奴か? 何で声かけてきたんだ?》


 (知らないよ! でもせっかくだし、カッコよく挨拶しないと)


 「やあ、珠洲ちゃん。こんなところで会うなんて偶然だね」


 俺はいつものように口角を上げて、余裕そうな笑みを浮かべた。内心では動揺していたが、それを表に出すことはしない。


 「偶然じゃない。探してた」


 珠洲ちゃんの率直すぎる言葉に、俺は一瞬言葉を失った。


 (え? 探してたって? 俺を?)


 《それで見つけるあたり、執念がヤバイ》


 (それってストーカーでは……?)


 「うち、遊びに来て」


 珠洲ちゃんの次の言葉で、俺の思考は完全に停止した。


 「え?」


 「遊びに来て」


 同じ言葉を繰り返す珠洲ちゃん。表情は相変わらず淡々としているが、その瞳には何か強い意志が宿っているように見えた。


 (うち、って……まさか)


 《そうですこの間教えてもらったばかりの、三毒会のお宅です》


 「でも君のところって……三毒会の」


 「そう。三毒会」


 珠洲ちゃんは躊躇もなく答える。俺は頭の中でポン吉と緊急会議を開いた。


 《おいおい、どうすんだよ。敵の本拠地に招待されてんぞ》


 (まぁ、でも珠洲ちゃんが敵って感じはしねーしな)


 《それはそうだけどよ》


 「いいの? 俺は管理局の人間だよ」


 「知ってる。でも、来て」


 珠洲ちゃんの真っ直ぐな視線に、俺はたじろいだ。この子の前では、いつものカッコつけた仮面が少し崩れそうになる。


 (断る理由も特にないし、珠洲ちゃんが誘ってくれてるんだから……いいか)


 《お前、単純だな》


 (うるさい)


 「わかった。でも、何かあったらすぐに帰るからね」


 「ん」


 珠洲ちゃんは小さく頷くと、歩き始めた。俺は慌てて隣に並ぶ。


 しばらく歩いていると、珠洲ちゃんが口を開いた。


 「昴、強い?」


 「え?」


 「戦闘。強い?」


 (質問が唐突なんだよなあ)


 《会話の呼吸掴めねぇな》

 

 唐突な質問に俺は戸惑った。正直に言えば、俺の戦闘力なんてフィーリング任せなのだが、それを言うわけにはいかない。


 (どう答えよう……)


 《適当に言っとけ》


 「まぁ、そこそこかな。まだ新人だからね」


 「そう」


 珠洲ちゃんは納得したように頷く。俺にはその表情の意味が読み取れなかった。


 二人で並んで歩いているうちに、俺は珠洲ちゃんと一緒にいることの心地よさを感じ始めていた。彼女は無駄な会話を求めず、ただ隣にいてくれるだけで良いという雰囲気がある。それが俺の緊張を和らげてくれた。


 「珠洲ちゃんは、いつから三毒会に?」


 「生まれたとき」


 「生まれたとき?」


 「お母さんが三毒会だから。珠洲、管理局だと、生きてちゃいけない」


 その言葉に、俺は胸が締め付けられるような感覚を覚えた。


 「生きてちゃいけないってどういうこと?」


 「ん。管理局、魔物と人の子供絶対産ませない。お母さん、色欲の魔物、襲われた」


 珠洲ちゃんの淡々とした説明に、俺は言葉を失った。


 (会って2回目でこんな重い話してくるこの子、やべー子なのでは?)


 《半魔の時点でやべーので、今更では? ってかお前のせいで言わざるを得ないことになったんだろ》


 (たしカニ)


 「そっか……」


 俺はそれ以上、何も言うことができずに黙り込んだ。珠洲ちゃんは俺の沈黙を気にする様子もなく、いつものペースで歩き続けている。


 やがて、大きなオフィスビルが見えてきた。


 「ここが君の家なんだ」


 (オフィスビルの一角が家なんて、セレブ感あるね)


 《オレらも、そうっちゃそうじゃん》


 「ん。お母さんも、みんなも、いる」


 (でも寮だし)

 

 珠洲ちゃんはエレベーターのボタンを押すと、俺を振り返った。


 「大丈夫?」


 「何が?」


 「怖く、ない?」


 その質問に、俺は少し考えてから答えた。


 (だから質問唐突なのー)


 《そこに反応してこその昴だろ?》

 

「少し緊張するけど、君が一緒なら大丈夫かな」


 珠洲ちゃんの頬が僅かに染まったように見えた、これは見間違いでは無いだろう。


 (ドヤぁ。決まっちゃったね、イケメンムーブ)


 《どうにかして乙葉にこのことを伝えなければ……》


 エレベーターの中で、俺は珠洲ちゃんの横顔をちらりと盗み見た。いつも無表情に見える彼女だが、よく見ると整った顔立ちをしている。年下だが、どこか大人びた雰囲気もある。


 「珠洲ちゃん」


 「ん?」


 「君は、なぜ俺を誘ったの?」


 俺の質問に、珠洲ちゃんは少し考え込んだ。


 「わからない。でも、一緒に、いたかった」


 その素直すぎる答えに、俺は顔が熱くなるのを感じた。


 《まさかの反撃》

 

 (っ……きゅんきゅんする)


 《これは、有罪でいいよなー》


 (今のは不可抗力だろ!?)


 エレベーターが目的階に到着すると、珠洲ちゃんは俺を案内してくれた。廊下の向こうから、優雅な女性の声が聞こえてくる。


 「珠洲、お帰りなさい。お友達を連れてきたのね」


 部屋に入ると、三人の大人が待っていた。俺は、できるだけ堂々と挨拶をする。


 (三毒会の中心メンバーって4人じゃん?)


 《多分このメンバーじゃん。ウケんな》

 

 「初めまして。鏡昴です」


 「よく来てくれたな」


 (あ、これ一人一人挨拶するパターン?)


 《ご丁寧なこった》

 

 がっちりとした体格の男性が豪快に笑う。


 「俺は松元竜司。ここのリーダーをやってる」


 (うちの局長と違ってグイグイ引っ張ってくれそう)


 《珠洲の今回の件も了承済みみたいだし、器も大きそうだな》

 

 「蘭堂紅葉です。珠洲の母です」


 (うーん美人。でも年齢が範囲外だなぁ)


 《あっちもお前はノーセンキューだと思うぞ》


 美しい女性が優雅に微笑みかけてくれる。


 「紅蓮寺灯だ」


 赤髪の女性は素っ気なく名乗った。


 (ヤンキーはちょっとなぁ)


 《何でお前が常に選ぶ側に立ってるのか甚だ疑問だわ》

 

 珠洲ちゃんはソファに座ると、俺にも隣に座るよう促した。


 (三毒会のリーダーたちか……思ったより普通の人たちだな)


 《思ったよりかな。普通って感じではないぞ》


 「それにしても、珠洲がこんなに積極的に誰かを誘うなんて初めてよ。昴くんはどんな手を使ったのかしら?」


 紅葉さんが嬉しそうに言う。


 「お母さん」


 珠洲ちゃんが小さく抗議の声を上げる。


 「でも本当のことでしょう? あなたがお友達を作るなんて」


 (まだあってちょっとだけと、友達認定なんだな)


 《お前のガバガバ嫁認定よりマシだろ》

 

 紅葉さんの言葉に、珠洲ちゃんの頬が僅かに染まった。


 「昴は、友達」


 珠洲ちゃんがそう言うと、俺は一瞬驚いた。まさか彼女から友達と言ってもらえるなんて。


 (面と向かって言われると照れるな)

 

 「俺も、珠洲ちゃんは友達だと思ってるよ」


 《言っても照れてるぞ》

 

 その言葉に、珠洲ちゃんは満足そうに小さく頷いた。


 「珠洲、おなか、すいた」


 珠洲ちゃんが突然そう言うと、皆が笑った。


 「そうね、お昼の時間だものね。昴くんもたべていくわよね?」


 紅葉さんが立ち上がる。


 (この状況で帰りますって言える人いないぞ)


 《オレは言えるぞ! 見えてないからな!》

 

「はい、ありがとうございます」


 俺が答えると、珠洲ちゃんは満足そうに頷いた。


 昼食は想像以上に豪華だった。紅葉さんの手料理らしく、どれも家庭的で温かい味がした。珠洲ちゃんは黙々と食べているが、時々俺の方を見ては小さく微笑む。


 (珠洲ちゃんの笑顔、可愛いな……妹感がすごい)


 《お前、管理局と敵対してる組織にいるって自覚あるのか?》


 (そうだけど……でもこの雰囲気だと、そんなに敵って感じしないよ)


 食事の後、珠洲ちゃんが俺を部屋に案内してくれた。


 「珠洲の部屋」


 (女の子の部屋!)


 《知ってるか? お前の部屋も女の子の部屋だぞ》

 

 シンプルで整った部屋だった。本棚には小説や漫画が並んでいて、ゲーム機も置いてある。意外と普通の女の子の部屋だった。


 「ゲーム、する?」


 「いいの?」


 「ん」


 珠洲ちゃんはゲーム機の電源を入れると、コントローラーを俺に差し出した。格闘ゲームが起動する。


 (珠洲ちゃんとゲームか……なんか普通の友達みたいだな)


 《友達なんだろ? みたいって薄情な奴だな》


 (ちがっ、言葉のあやだよ!)


 ゲームを始めると、珠洲ちゃんの操作が異様に上手いことに気づいた。


 「うわ、強い!」


 「ん」


 珠洲ちゃんは淡々と俺のキャラクターを倒し続ける。でも時々、わざと負けてくれているような気がした。


 「珠洲ちゃん、手加減してくれてる?」


 「してない」


 嘘だ、絶対手加減してる。でも俺はそれを指摘しなかった。


 ゲームの合間に、珠洲ちゃんが小さな声で話しかけてきた。


 「昴、楽しい?」


 「うん、楽しいよ」


 それは嘘じゃなかった。久しぶりに年相応の遊びをしている気がして、俺は心から楽しんでいた。


 (半魔になってから久しぶりに、何にも考えないで遊んだかも)


 《珠洲も楽しそうだしよかったな》

 

「珠洲も、楽しい」



 夕方になると、紅葉さんが部屋にやってきた。


 「昴くん、せっかくだから夕食も一緒にどうかしら?」


 「えっと……」


 俺は迷った。もう結構長い時間お邪魔していたし、管理局にも連絡しないといけない。


 (流石に……ねえ?)


 《社交辞令か本気かわからない奴だわこれ》

 

 「泊まって」


 珠洲ちゃんが突然そう言った。


 「え?」


 「泊まって、いって」


 珠洲ちゃんの言葉に、紅葉さんも微笑んだ。


 「そうね、せっかくだから泊まっていったらどうかしら? 明日は休みでしょう?」


(本気のやつだわこれ、ってか休みの日にち筒抜けなの何気にやばくないか?)


《情報管理どうなってんだよ?》


 「ありがとうございます。お言葉に甘えさせていただきます」


 俺がそう答えると、珠洲ちゃんは嬉しそうに頷いた。


 (まあいっか)


 《なるようになるさ》

 

 夕食もまた豪華で、竜司さんや灯さんも交えて賑やかな食卓となった。竜司さんは豪快に笑いながら色々な話をしてくれるし、紅葉さんは母親のような温かさで接してくれる。灯さんは無愛想だが、悪意は感じられない。


 (灯さんも……アリかも)


 《お前見た目良ければ何でもいいのかよ》


 (しょうがないだろ!? 可愛いは正義なんだよ)


 


 「さて、昴くん。ちょっと真面目な話だけど、管理局と俺たち三毒会の確執、知りたくないかい?」


 竜司さんが、みんなが食べ終わったタイミングで話しかけてきた。


 「少しは、気になりますが……」


 (これってあからさまな取り込み策?)


 《まぁでも管理局と違った視点を持つこともありだと思うぜ》


 竜司さんが笑顔で続ける。


 「そりゃいい。珠洲が見初めた相手だ。聞いといてもらえると俺も嬉しい」


 (見初めたって、家族公認の友達ってのもなんか変な感じだな)


 《あっち側は、友達って感じじゃ無さそうだがな》



 「どこから話したらいいか、まぁ順を追って最初からにするか……」


 そう呟いて、竜司さんが語り始めた。


 


 

主人公によって開発されるヒロイン(意味深)

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