表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/70

乙葉ちゃん火力強すぎな件

 朝、いつもより少し遅く目が覚めた。

 昨日は訓練で体を酷使したせいか、全身に重りをぶら下げられているようにだるい。


 (あー……筋肉痛。最近のセク郎まじで洒落にならん)


 《接し方も馴れ馴れしいってか近いよな》


 (ほんそれ。だりぃ……でもまあ、乙葉ちゃんに会う予定あるから頑張って起きる)


 《はいはい、恋愛が唯一のモチベね?》


 (そうだが? 俺の世界は乙葉ちゃん一色)


 布団から這い出して顔を洗うと、鏡に自分が映る。

 絶世の美少女。……これを、乙葉ちゃんがみたらどう思うか、時々考える。

 でも考えすぎても仕方ない。俺は俺だ。


 支度をしてロビーに降りると、ちょうど乙葉ちゃんとばったり会った。

 今日も髪を一つにまとめていて、制服姿がやけに似合ってる。


 「おはよ、昴くん」


 「おはよう、乙葉ちゃん」


 声が出た瞬間、胸の中で変なバクバクが始まる。いつも通り。


 (乙葉ちゃんきちゃー!)


 《うるせぇ!》

 

 「昨日、大変だったんでしょ? 疲れてない?」


 「ちょっと筋肉痛かな。でも大丈夫」

 

 《乙葉に会った瞬間、体内のカフェイン濃度急上昇を確認》

 

 にへっと笑ってごまかしたら、乙葉ちゃんがふわっと笑った。

 この一瞬のために生きてるんじゃないかってくらい、胸に刺さる。


 (違うわ。純粋に好きだから元気出るんだって)


 《はいはい、恋は万能薬》


 乙葉ちゃんと並んで歩きながら、食堂へ。

 なんでもない会話――昨日のニュースのこととか、廊下にいた猫の話とか――をしてるだけで、俺は幸せだった。


 その日の午後。依里と廊下ですれ違った。


 「こんにちは、昴くん」


 (お、珍しく依里ちゃんとエンカウント)

 

 「依里ちゃん、お疲れ」


 《誇に引っ付いてるか、部屋にいるかだからなぁ基本》

 

 「この間の任務、どうだった? 烈志さんと、一緒でしよ?」


 「うん。まあ……普通に大変だったよ」


 (この、顔合わせたから会話せざる終えない感……)


 《無理して会話される方、結構気づくよな》

 

 「そっか。烈志さん、元気だからね……」


 「元気なんてもんじゃないよ。汗と声で爆撃してきた」


 クスクスと二人で笑った。しかしその後話題がなくなって沈黙する……。


 (依里ちゃん、こうなっちゃうから別に会釈ですれ違ったって良いんだぜ……)


 《真面目なんだろ》


 「昴くんまたね」

 

 依里は、手を振って去っていった。


 その直後。


 「昴、ちょっといいか」


 (ほわあ!?)

 

 背後から低い声。振り返ると誇さんだった。


 《気配消して後ろから話しかけるとかやめろってなぁ》

 

 「依里とは、何を話してた?」


 (依里依里依里うるせぇぇえええ)

 

 「え、普通に世間話ですけど……」


 《もう肩にでも乗せて移動してろよ》

 

 「そうか。調子はどうだ?」


 (肩に乗せるって言うと、巨神兵じゃ無くてなんて言ったっけあのロボット)


 「まあまあです」


 《巨神兵は、ドロドロの早すぎたんだ、のやつだよな。何だっけ》

 

 誇さんはそれ以上突っ込まずに去っていったけど、タイミングが不自然すぎて苦笑した。


 (まぁいいや、ってかなんでわざわざ聞くんだよ……ブラコン?)


 《妹と喋った相手にチェック入れるとか、相当重症だな》


 (俺が男だと思ってるから、余計に気にしてんのかな。めんど……)



 夕方。廊下のベンチに腰かけて休んでいたら、烈志が横にどかっと座ってきた。


 「よぉ昴! この後も訓練行くか!」


 (もう夕方だそ。狂ってんのか?)


 「……いや今日は1日休養日って局長が」


 「関係ねぇ! 鍛えてナンボだ!」


 《狂ってるっぽいな》

 

 ぐいっと肩を組まれる。


 (うわ、近い……汗くさい……重い)


 《お前、セク郎って心の中で呼んでるのバレたら多分泣かれるぞ》


 (言わないって。……でも最近ほんと絡んでくる率高すぎ。まじうざい)


 《あれは保護者気取りなのか、男色気味なのか、判別不能》


 (別にそういう人達を否定する気はないけど……セク郎から向けられるのは無理)


 《完全に嫌悪感顔に出てるから気をつけろ》


 (隠せてる……はず!)


 「なあ昴! 今度一緒に風呂入ろうぜ!」


 (生理的に無理なんですけどぉ!?)

 

 「え、遠慮します。てか同性でもセクハラですよ……」


 俺は真顔で拒否した。烈志は、そんな馬鹿なみたいな顔で驚いていた。


 《流石にライン越えだわぁ、烈志》



  烈志から逃げるように廊下を曲がって、自分の部屋に戻った。

 ドアを閉めた瞬間、背中に汗がじわっと張り付いてるのに気づいてため息。


 (セク郎のせいで余計疲れた……)


 《毎日肩組みとケツ叩きはセクハラの域超えてるな》


 (ほんとだよ。未成年の美少女の尻触りまくってるとか、社会的に抹殺待った無し)


 《まあでも、お前は一応男装中だから同性のノリだと思われてんだろな》


 (やめてくれ……気持ち悪い。もし、男装バレしたら訴えてやろ)


 制服を脱いでTシャツに着替えると、部屋の端末にメッセージが届いていた。

 差出人は乙葉ちゃん。


 「今日、夕飯一緒に食べない?」


 心臓が跳ねた。


 (うわああああ……! 誘われた! 普通にご飯なのに、デート感やば……!)


 《はい、恋は盲目》


 (盲目上等。俺の人生の全視界=乙葉ちゃん)


 即「行く」と返して、身支度を整えた。




 食堂で乙葉ちゃんと向かい合って座る。

 他の職員もちらほらいたけど、俺にはもう乙葉ちゃんしか見えてなかった。


 (乙葉ちゃんって何でこんなにキラキラしてんだろ)


 《好き好きフィルターかかってるからだろ》

 

 「いただきます」


 「いただきます」


 自然と同じタイミングで声が重なる。

 (声がハモった……これば実質セッ……)


 《発情期の雌猫が》

 

 「昴くん、今日顔色いいね」


 (乙葉ちゃんに会えてるからね)


 《絶賛栄養補給中ってか》

 

 「え? そうかな」


 「この間の任務、大変だったって聞いたから……心配してたんだ」


 そんなふうに言われると、もうどうすればいいのかわからなくなる。

 ありがとうって言うだけで精一杯だった。


 (俺、乙葉ちゃん失ったら駄目かも……だから俺は、失う前に絶対助ける!)


 《お、突然カッコつけ始めた》


 (だってそうだろ。守るって決めたんだから)


 《まあ、それ以前に好かれてなくて、振られる可能性もあるけどな》


 (お、おいそれは言うな! 咽び泣くぞ)


 《そんときゃ、慰めてやるから安心しとけ》


 顔が熱くなって、慌てて水を飲んだ。




 食後、食堂の外の廊下を二人で歩く。

 夜風が少し涼しくて、乙葉ちゃんの横顔に髪が揺れていた。


 (この今の感じやべえ……付き合ってる男女感マックスじゃん)


 《そうか? 同僚と食事した帰りだろ》

 

 「ねえ、昴くん」


 「ん?」


 「……今度、また休日たのしみだね」


 一瞬、脳が止まった。約束覚えていてくれた!


 (嬉しい! ちゃんと覚えてくれてたし、楽しみにしてくれてるみたいだし。でも社交辞令じゃないよね……じゃないよね!楽しみな感じしてるもん)


 《感情が反復横跳びしてんな》


 「デート……だよね?」


 「え? ち、違っ……わないけど……」

 

 乙葉ちゃんが慌てて手を振った。


 (動き一つ一つが愛らしすぎませんか、ポン吉さん)


 《そうか? おまえにゃ負けるよ》

 

 「そ、その、最近任務多かったから! 息抜きっていうか!」


 「あ、ああ……うん。こちらこそよろしく」


 声が裏返らないようにするので精一杯。


《ニヤけすぎてるぞ。口角上がりすぎ》


(だ、だって仕方ないじゃん!)


 乙葉ちゃんと並んで歩く、それだけで心が満たされていく。

 



 部屋に戻ってベッドに転がり、天井を見上げた。


 (……なんか最近、大人たちが妙に干渉してくる気がする)


 《そうだな。烈志の絡みは露骨に増えてるし、誇も変なチェックしてくるし》


 (誇さんの件は……依里ちゃんとの接点増えたからかもしれんけど)


 (あれって……三毒会が接触してきたからか?)


 《さぁな。オレが知るわけねぇだろ》


 (だよな。珠洲ちゃんにまたあえるかな……)


 《そういうとこだぞ》


 (三毒会が敵とか言われてもよくわからんし、少なくとも珠洲ちゃんは良い子っぽかったからさぁ)


 《見た目が良かったからだろ?》


 (う、ぐ。そうだけどわるいか!? 可愛いは全てを凌駕するんだぞ)


 《もう、それで良いよお前は。乙葉を泣かすんじゃないぞ》


 (それは大前提。その上でもし2人と付き合えたら……)


 《やっぱ、乙葉もやめちまえクズ》

 

 結局、理由なんてどうでもいい。

 俺が望むのはただ一つ――乙葉ちゃんの隣で笑っていられること。


(乙葉ちゃんが笑ってる。それが一番だ)


《芯はブレるなよ》


(おう)


 目を閉じると、自然と乙葉ちゃんの笑顔が浮かんできた。

 甘くて、じれったくて、でも確かに前に進んでる気がする。


 俺は小さく笑って、そのまま眠りに落ちた。

 

今日から1日1回更新!

ストックが尽きるんじゃあ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ