乙葉ちゃん火力強すぎな件
朝、いつもより少し遅く目が覚めた。
昨日は訓練で体を酷使したせいか、全身に重りをぶら下げられているようにだるい。
(あー……筋肉痛。最近のセク郎まじで洒落にならん)
《接し方も馴れ馴れしいってか近いよな》
(ほんそれ。だりぃ……でもまあ、乙葉ちゃんに会う予定あるから頑張って起きる)
《はいはい、恋愛が唯一のモチベね?》
(そうだが? 俺の世界は乙葉ちゃん一色)
布団から這い出して顔を洗うと、鏡に自分が映る。
絶世の美少女。……これを、乙葉ちゃんがみたらどう思うか、時々考える。
でも考えすぎても仕方ない。俺は俺だ。
支度をしてロビーに降りると、ちょうど乙葉ちゃんとばったり会った。
今日も髪を一つにまとめていて、制服姿がやけに似合ってる。
「おはよ、昴くん」
「おはよう、乙葉ちゃん」
声が出た瞬間、胸の中で変なバクバクが始まる。いつも通り。
(乙葉ちゃんきちゃー!)
《うるせぇ!》
「昨日、大変だったんでしょ? 疲れてない?」
「ちょっと筋肉痛かな。でも大丈夫」
《乙葉に会った瞬間、体内のカフェイン濃度急上昇を確認》
にへっと笑ってごまかしたら、乙葉ちゃんがふわっと笑った。
この一瞬のために生きてるんじゃないかってくらい、胸に刺さる。
(違うわ。純粋に好きだから元気出るんだって)
《はいはい、恋は万能薬》
乙葉ちゃんと並んで歩きながら、食堂へ。
なんでもない会話――昨日のニュースのこととか、廊下にいた猫の話とか――をしてるだけで、俺は幸せだった。
その日の午後。依里と廊下ですれ違った。
「こんにちは、昴くん」
(お、珍しく依里ちゃんとエンカウント)
「依里ちゃん、お疲れ」
《誇に引っ付いてるか、部屋にいるかだからなぁ基本》
「この間の任務、どうだった? 烈志さんと、一緒でしよ?」
「うん。まあ……普通に大変だったよ」
(この、顔合わせたから会話せざる終えない感……)
《無理して会話される方、結構気づくよな》
「そっか。烈志さん、元気だからね……」
「元気なんてもんじゃないよ。汗と声で爆撃してきた」
クスクスと二人で笑った。しかしその後話題がなくなって沈黙する……。
(依里ちゃん、こうなっちゃうから別に会釈ですれ違ったって良いんだぜ……)
《真面目なんだろ》
「昴くんまたね」
依里は、手を振って去っていった。
その直後。
「昴、ちょっといいか」
(ほわあ!?)
背後から低い声。振り返ると誇さんだった。
《気配消して後ろから話しかけるとかやめろってなぁ》
「依里とは、何を話してた?」
(依里依里依里うるせぇぇえええ)
「え、普通に世間話ですけど……」
《もう肩にでも乗せて移動してろよ》
「そうか。調子はどうだ?」
(肩に乗せるって言うと、巨神兵じゃ無くてなんて言ったっけあのロボット)
「まあまあです」
《巨神兵は、ドロドロの早すぎたんだ、のやつだよな。何だっけ》
誇さんはそれ以上突っ込まずに去っていったけど、タイミングが不自然すぎて苦笑した。
(まぁいいや、ってかなんでわざわざ聞くんだよ……ブラコン?)
《妹と喋った相手にチェック入れるとか、相当重症だな》
(俺が男だと思ってるから、余計に気にしてんのかな。めんど……)
夕方。廊下のベンチに腰かけて休んでいたら、烈志が横にどかっと座ってきた。
「よぉ昴! この後も訓練行くか!」
(もう夕方だそ。狂ってんのか?)
「……いや今日は1日休養日って局長が」
「関係ねぇ! 鍛えてナンボだ!」
《狂ってるっぽいな》
ぐいっと肩を組まれる。
(うわ、近い……汗くさい……重い)
《お前、セク郎って心の中で呼んでるのバレたら多分泣かれるぞ》
(言わないって。……でも最近ほんと絡んでくる率高すぎ。まじうざい)
《あれは保護者気取りなのか、男色気味なのか、判別不能》
(別にそういう人達を否定する気はないけど……セク郎から向けられるのは無理)
《完全に嫌悪感顔に出てるから気をつけろ》
(隠せてる……はず!)
「なあ昴! 今度一緒に風呂入ろうぜ!」
(生理的に無理なんですけどぉ!?)
「え、遠慮します。てか同性でもセクハラですよ……」
俺は真顔で拒否した。烈志は、そんな馬鹿なみたいな顔で驚いていた。
《流石にライン越えだわぁ、烈志》
烈志から逃げるように廊下を曲がって、自分の部屋に戻った。
ドアを閉めた瞬間、背中に汗がじわっと張り付いてるのに気づいてため息。
(セク郎のせいで余計疲れた……)
《毎日肩組みとケツ叩きはセクハラの域超えてるな》
(ほんとだよ。未成年の美少女の尻触りまくってるとか、社会的に抹殺待った無し)
《まあでも、お前は一応男装中だから同性のノリだと思われてんだろな》
(やめてくれ……気持ち悪い。もし、男装バレしたら訴えてやろ)
制服を脱いでTシャツに着替えると、部屋の端末にメッセージが届いていた。
差出人は乙葉ちゃん。
「今日、夕飯一緒に食べない?」
心臓が跳ねた。
(うわああああ……! 誘われた! 普通にご飯なのに、デート感やば……!)
《はい、恋は盲目》
(盲目上等。俺の人生の全視界=乙葉ちゃん)
即「行く」と返して、身支度を整えた。
食堂で乙葉ちゃんと向かい合って座る。
他の職員もちらほらいたけど、俺にはもう乙葉ちゃんしか見えてなかった。
(乙葉ちゃんって何でこんなにキラキラしてんだろ)
《好き好きフィルターかかってるからだろ》
「いただきます」
「いただきます」
自然と同じタイミングで声が重なる。
(声がハモった……これば実質セッ……)
《発情期の雌猫が》
「昴くん、今日顔色いいね」
(乙葉ちゃんに会えてるからね)
《絶賛栄養補給中ってか》
「え? そうかな」
「この間の任務、大変だったって聞いたから……心配してたんだ」
そんなふうに言われると、もうどうすればいいのかわからなくなる。
ありがとうって言うだけで精一杯だった。
(俺、乙葉ちゃん失ったら駄目かも……だから俺は、失う前に絶対助ける!)
《お、突然カッコつけ始めた》
(だってそうだろ。守るって決めたんだから)
《まあ、それ以前に好かれてなくて、振られる可能性もあるけどな》
(お、おいそれは言うな! 咽び泣くぞ)
《そんときゃ、慰めてやるから安心しとけ》
顔が熱くなって、慌てて水を飲んだ。
食後、食堂の外の廊下を二人で歩く。
夜風が少し涼しくて、乙葉ちゃんの横顔に髪が揺れていた。
(この今の感じやべえ……付き合ってる男女感マックスじゃん)
《そうか? 同僚と食事した帰りだろ》
「ねえ、昴くん」
「ん?」
「……今度、また休日たのしみだね」
一瞬、脳が止まった。約束覚えていてくれた!
(嬉しい! ちゃんと覚えてくれてたし、楽しみにしてくれてるみたいだし。でも社交辞令じゃないよね……じゃないよね!楽しみな感じしてるもん)
《感情が反復横跳びしてんな》
「デート……だよね?」
「え? ち、違っ……わないけど……」
乙葉ちゃんが慌てて手を振った。
(動き一つ一つが愛らしすぎませんか、ポン吉さん)
《そうか? おまえにゃ負けるよ》
「そ、その、最近任務多かったから! 息抜きっていうか!」
「あ、ああ……うん。こちらこそよろしく」
声が裏返らないようにするので精一杯。
《ニヤけすぎてるぞ。口角上がりすぎ》
(だ、だって仕方ないじゃん!)
乙葉ちゃんと並んで歩く、それだけで心が満たされていく。
部屋に戻ってベッドに転がり、天井を見上げた。
(……なんか最近、大人たちが妙に干渉してくる気がする)
《そうだな。烈志の絡みは露骨に増えてるし、誇も変なチェックしてくるし》
(誇さんの件は……依里ちゃんとの接点増えたからかもしれんけど)
(あれって……三毒会が接触してきたからか?)
《さぁな。オレが知るわけねぇだろ》
(だよな。珠洲ちゃんにまたあえるかな……)
《そういうとこだぞ》
(三毒会が敵とか言われてもよくわからんし、少なくとも珠洲ちゃんは良い子っぽかったからさぁ)
《見た目が良かったからだろ?》
(う、ぐ。そうだけどわるいか!? 可愛いは全てを凌駕するんだぞ)
《もう、それで良いよお前は。乙葉を泣かすんじゃないぞ》
(それは大前提。その上でもし2人と付き合えたら……)
《やっぱ、乙葉もやめちまえクズ》
結局、理由なんてどうでもいい。
俺が望むのはただ一つ――乙葉ちゃんの隣で笑っていられること。
(乙葉ちゃんが笑ってる。それが一番だ)
《芯はブレるなよ》
(おう)
目を閉じると、自然と乙葉ちゃんの笑顔が浮かんできた。
甘くて、じれったくて、でも確かに前に進んでる気がする。
俺は小さく笑って、そのまま眠りに落ちた。
今日から1日1回更新!
ストックが尽きるんじゃあ




